表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

第七話「よくあるバイトテロ」

 少し長めの昼休みを取ることにした俺は、四日前にバイト代を全て置いてきたシッポ亭

に向かう。他にも食事をとれる場所はこの数日で見つけてはいるが、街の中で一番話し声が多い店というのがシッポ亭の印象だ。

 村の様子を見るに人が居ないわけではなく、ママンの雑貨屋にのみ人が来ていない事は明白だった。相変わらずシッポ亭は盛況なようで遠くからでも賑やかなのが伝わってくる。


 「いらっしゃいませ。あれーユウタじゃん。一人で来るとはもうロロに見限られたのかな?」

 「うるせえよ、席はどこでもいいのか?」

 「うん、お好きにどうぞ。注文決まったら呼んでね」


 相変わらずのソルテ節に乗せられない様受け答えした後、俺は店の真ん中あたりのテーブルに腰掛ける。メニューの一番人気を今日は頼もうと決め、ウェイターに目で合図する。勿論ソルテ以外へ。


 「ご注文は?」


 呼んでもいないのにソルテが注文を取りに来る。


 「定食なんだけど、一番人気ってどれ?」

 「最近だと気温も高くなってるしスタミナ定食かな? 冷麺も結構人気かも」


 俺は人気らしいスタミナ定食を注文した。


 「ん? 何だその手は」

 「ソルテちゃんは指名料がかかるのです」


 別に指名してねえよ。なんだったら、ソルテ以外のウェイターさんを呼んでたよ。

 俺はソルテの冗談を軽く流すと、ママンの雑貨屋について話している人がいないか聞き耳を立てる。


 「宿屋がまた値上がりするらしいぜ、祭り価格だししゃあないんだけどさ」

 「昼から一気飲みしまーす、ハイハイハイハイ」

 「ねえねえ聞いた? 今年の写し絵コンテスト。お題は『驚き』だってー」

 「ソルテちゃん今日も可愛いですなぁ、ブヒィ」

 「馬車疲れたー。もうちょっと観光してこうよ」

 「そういえばポーション切れてたなー」

 「あの雑貨屋やばいらしいよ」

 「ソルテちゃんにもっと冷たくされたい」


――今、なにか聞こえたような。


 俺はもう少し意識を集中させる。


 「なんか、店員がポーションの原料で遊んでるみたい」

 「あ、知ってる薬草を口いっぱいに詰めて吐き出してたやつでしょ」

 「そんな薬草で作ったポーションなんて使いたくないよな」


 何故か、雑貨屋についての会話が脳内に響く。この話をしている人たちは遠くの席に座っているはずなのに、まるで隣にいるかのように会話の内容が頭に入ってくる。


 「ソルテごめん、ちょっと用事ができた」


 俺のスタミナ定食を運んできたソルテに銀貨を押し付けると、俺は家まで走り出す。


 「えっ、スタミナ定食はどうするの」

 「ソルテが食べてくれ」

 「ごちー! ユウタもやっとソルテちゃんの魅力がわかったかー」


 この噂が本当であれば、原因はあいつだ。罪人は俺が裁かねば。『†ジャスティスダガー†』として。


 「ママン!」

 「そんな慌ててどうしたの?」


 俺は上がった息を整えながらシッポ亭で得た情報をママンに説明する。


 「この店のポーションの原料に店員がいたずらしてるって噂が街に流れてるみたいです」

 「あー、やっぱりかー」


 額に手を当て溜息交じりに言葉を溢す。どうやらママンは知っていたようだ。


 「ママンは知ってたのか?」


 焦りからママンを問いただすような口調で質問する。


 「なんか最近、咀嚼されたようなの薬草が多く混じっておかしいなって思ってたんだよね。ポーションにするときは、質の悪い薬草は取り除いちゃうからあんまり気にしてなかったんだけど」


 どうやら、街の噂は半分正解で半分間違いだったらしい。ちゃんといたずらされている原料はママンが省いていたようだ。


 「動物が入り込んでるのかなって思って、いつもより多めに倉庫の見回りをしてたんだけど結局犯人は見つからなかったんだ」

 「ママン、犯人は多分」

 「んー、あんまり人を疑いたくないけど、やっぱりそういうことなのかなー」


 状況証拠は、タロシュンの犯行を物語っている。


 「そういえば、今年の写し絵コンテストのお題は驚きだったな」


 飯屋で聞いた情報を整理する。俺の予想が正しければ、おそらくタロシュンは写し絵コンテストに出るために更に写し絵を取っているはずだ。


 「写し絵コンテストなんかのために、うちの薬草に悪戯するのは頂けないなー」


 ママンも平静を装っているが、内心は憤ってるに違いない。


 「ママン、今の話って」


 どうやら扉の裏で今までの話を聞いていたらしいロロットが部屋に入ってくる。


 「タロシュンさんがそんな事するなんて。せっかく皆でお祭りに向かって頑張っているのに」


 ロロットの目には涙が浮かんでいる。誰よりも頑張って、強い思いを抱いているからこその涙だろう。俺だって許せない。身勝手な理由でロロットを傷つけたタロシュンに一発くれてやらないと気が済まない。


 「俺がタロシュンを連れてきます。絶対あいつに謝らせてやる」


 俺はそう宣言し店を飛び出した。

 何か参考になる情報が無いか意識を集中させる。

 次の瞬間、俺の脳内に目の前に映る人々の声が、耳元で話をされているような大音量で反響した。無邪気に遊んでいる子供たちの笑い声、井戸端会議の噂話、並んで歩いている家族連れ……

 それでも俺は歯を食いしばり、破裂しそうになる頭からそれらしい言葉を探す。


 「あっちに写し絵やってる人いたぜー」

 「見にいこーぜー」


 これか!? 


 声の聞こえる方向へと向かう。おそらく走って移動する男の子二人組だ。

 俺は彼らの向かう先を確かめるべく付いて行く。今は不思議とさっきまでの頭が割れるような言葉の響きはない。一体何だったのだろう?


 「ねえ君たち、なんか面白そうなことしてない? 俺も一緒に行っていいかな?」


 ちょっと馴れ馴れしかったかもしれないと思ったが、子供たちはそんなことも気にせず付いて来いとばかりに手招きして走り出す。


 「この馬小屋だぜ」


 少年はそっと中を覗いている。


 「あの人、さっきからキョロキョロして写し絵かざしてるんだ」


 俺も小屋の隙間から中を見てみる。そこには雑貨屋をバックレたタロシュンが左手に水晶玉のような物を持ち、右手でポーズを取って馬とツーショットを取っていた。

 子供たちは、なんだあれとかキモイとか言いたい放題言ってから、飽きてしまったのかどこかへと走り去っていく。

 もう一度馬小屋をよく見るとタロシュンの足元にはいくつもバケツがありカラフルな液体で満たされている。俺の頭に写し絵コンテストの文字が過ぎる。俺はこの段階でこの後の展開がある程度予想出来てしまった。


 「こいつ、これから馬にあの液体をかけるつもりだな。昔の俺だったら、そのまま馬に蹴られて自分がバケツに突っ込んでカラフルになれ、ツイートとかやってるだろうな。でも——」


 とニヤつきながらぶつぶつ言っていたところで、タロシュンが呻き声をあげる。


 「ンー!ンー!!」


 再び馬小屋を覗いた俺が目にしたのは破れた柵と、頭からバケツに突っ込んで顔も髪も青一色、体は赤や緑と驚くほど笑える、奇抜なファッションに身を包んでのた打ち回るタロシュンの姿だった。押さえている場所からして、マジで馬に蹴りでもくらったか?


 ざまあ!


 そういえばこの世界に来た頃に似たようなことがあった気がするな。なんとなく今回も何か起きそうな気がする。今の出来事を鑑みるにツイートって言えばいいのかな? やってみてから考えよう、よし!


 「もう一度馬に蹴られろ、ツイート!」

 「バウゥヒヒヒヒヒィィィィンン!」

 「え、ぐふぅ」


 痛みから回復しかけ、立ち上がろうと片膝をついていたタロシュンは、俺のツイートした通りに馬に蹴られすっ転んでいた。蹴られる前に気づいたのか顔面直撃は避けていたようだが、起き上がらない。

 俺は放心状態のタロシュンの側まで行き、その姿には何も触れずに連行を試みる。


 「タロシュンさん、少し付いてきてください」


 タロシュンは何も言わず立ち上がろうともしない。


 「タロシュン、立て」

 「チッ、んだよ」


 何を言われるか自覚があるのだろう。悪態をつき、動かないタロシュンの腕を俺は引っ張り雑貨屋へと向かう。



 ボロボロのタロシュンを見たママンは、俺にやりすぎだと注意したが、俺は何もやっていないということをタロシュンの持っていた写し絵を通して見せると腹を抱えて笑っていた。

 だがそれとこれとは話が別である。既にタロシュンが痛い目に遭っていても自業自得であり、ママンの雑貨屋に与えた誤解と不利益は清算しなければならない。


 「うちの薬草が誰かに噛まれて痛んでるのが多々あったんだけど何か知らない?」


 ママンはタロシュンを井戸の見える裏口の外へと連れて行き、大きめの声で詰問を開始する。俺とロロットは気にはなっていたが、裏口には行ける雰囲気ではなかったため、表口から回り込み物陰に隠れながらその一部始終を無言で眺めている。

 俺の予想では認めないで有耶無耶になると思っていたが、早い段階でタロシュンは自分の行いを認め平謝りを続けていた。


 「あんなママン久しぶりに見たけど、怒るとほんと怖いよね」


 ロロットの怯えた様な細い声でそんなことを言われると俺まで怖くなってしまう。絶対ママンは敵に回さないように気を付けようと心に誓った。

 こうして、噂好きのおばさま達に見せつけるように説教を行ったママンのおかげで、雑貨屋の悪い噂はママンの怖さを伝える噂へと変化し、雑貨屋に客足が戻ると同時に、ソルテファンの一部もママンがいる時を狙って足を運ぶようになっていた。

 因みに、タロシュンの馬に悪戯しようとして失敗する写し絵は、顛末が驚くほど笑えるということでコンテスト上位入賞を果たしたのは関係ない話か。


 王都の祭りの準備はその後着々と進み、俺とロロットが祭での出店担当、ママンとソルテが村の店番をする事が決まった。


 「去年はママンが風邪を引いちゃったから、私が一人で出店をやっててすごく大変だったんですよ!」

 「私はやらなくていいとは言ったんだけど、やればできるもんだったみたいだね。今年はユウタもいるし多少は余裕出来るんじゃない?」

 「そうじゃなきゃ困りますっ!」


 ソルテが祭り当日に店を手伝える事になったため出店に二人割り振れる様になり、ロロットもママンもテンションが上がっている。


 「まだ働いて二週間くらいの俺はそんなに役に立てないぞ?」

 「それならもっとも~っと頑張ってくださいっ! 馬車は私が引きますので、ユウタさんは売り物と値段全部暗記してくださいね」


 あれ? もしかしてマジで戦力換算されちゃってる!?

面白いと思っていただけたら 拡散希望! 拡散希望! 拡散希望!って感じです!


評価やブックマーク、感想などいただけるとうれしいです。


よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ