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第六話「火酒」

 程よく酔いが回り気分が大きくなっていた俺は、もう少しアルコールが強い酒を頼むことにした。


 「じゃあ、この火酒ってのを貰おうかな」


 メニューには度数が書いていないが、まあ大丈夫だろう。


 「ソルテ、俺もおかわり貰えるかな」


 ちょうどロロットのブーンミードを持ってきたソルテに俺もおかわりをねだる。


 「お、ユウタも結構飲むねー。次は何にするんだい?」

 「ああ、この火酒ってのをくれ」


 一瞬店内がざわついた気がする。


 「えっ、火酒で大丈夫なの?」


 正直何を聞かれているのか分からないが、ここで別なものを頼んだら負けな気がした俺は、平静を装う。


 「大丈夫だろう。問題ない」

 「うん、わかったよ!」


 ソルテはロロットに対する態度と同じような返事をして、火酒を取りに戻る。


 「まあ、ロロも一緒にいるし大丈夫か。ドワーフ以外が火酒を飲んだら大体九割くらい意識を飛ばすんだけど、まあ確率論みたいなものだしね。倒れる前にロロが止めるでしょ、面白そー」


 ソルテがなにか小声で呟いた気がするが、周りの喧騒にかき消されてよく聞こえなかった。


 「はいっ、おまたせっ!」


 ソルテはまたもや自分の分の飲み物を携えて、火酒を持ってきた。


 「私も、今日は仕事上がって飲んでいいってお母さんに言われたよ! お母さんの代わりにユウタがロロットに相応しい男か審査してこいって!」


 労働を終えた開放感からか、すっかり上機嫌なソルテは美味しそうにブーンミードを飲んでいた。


 「はいはい、じゃあ俺も飲むか」


 そう言って火酒を口に運ぶと、さっきの酒とは違いアルコールが脳にガツンと来る感覚がした。

 まだ舐めた程度なのに、一気に意識を持っていかれそうになる。

 ブーンミードとは比べ物にならない酒を頼んでしまったことに、一瞬後悔の念に駆られるが、どんどん高揚していく気分が、そんな後悔など知るかと言わんばかりに後悔を吹き飛ばす。

 ああ、皮肉なものだ、現世でDQNどもの飲み会を晒し上げて刺された俺が、異世界で女の子に囲まれて飲み会してるなんて。

 きっと俺が前世で飲み会に参加していたらこんなツイートをしてしまっていただろう。


 「飲みなう、エールとか馬のションベンだよな、やっぱ俺くらいになると、火酒も水みたいなもんだわ、ツイート」


 そういえばクラスのDQNもこんなようなことを呟いていたな。人間は何故、アルコールをたくさん飲めるアピールをしたがるのか。更に火酒を口に運ぶと、不思議と最初に感じた衝撃が嘘のようにスルスルと飲めるようになっていた。


 「まるで水のようだな」



 実はアルコールに強い体質だったのかもしれない。

 一気飲みとまで行かないまでも、俺のグラスの中身はみるみる減っていく。


 「俺酒強えわ、ツイート」


 間違いなく前世だったらこんなツイートをしていただろう。

 発想のレベルはDQNと変わりないのだが、こっちの世界では合法だ。少し調子に乗った俺は、最後の一滴を飲み干した。


 「ユウタさんおさけつおいでしゅ~」


 ロロットもどうやら酒を飲み干したらしい。


 「ソルテぇ、もうちょっとおかわりほしいなぁ~。あとユウタさんのもおかわりもってきてぇ~」


 そう言ってロロットは俺の分酒も頼んでくれた。


 「もう、ロロってばあと一杯だけって言ったでしょー。あと、ユウタは火酒を飲むんだからおかわりなんて要らないでしょ。って全部飲んだのぉ?」


 ソルテがいきなり素っ頓狂な声を上げたため、店中の注目を浴びる事となってしまった。


 「ああ、全部飲み干したが、一体何に驚いているんだ?」

 「だって火酒だよっ!? ドワーフ以外はどんなにお酒が強い人だって九割は倒れちゃうのに」


 そんな劇物みたいな酒を飲まされていたのか。


 「俺は別になんともないぞ。と言うかそもそもそんな酒出すなよっ!」

 「いや、ロロットもいるし大丈夫かな~って。まあ実際大丈夫だったからいいじゃん!」


 まあソルテの言うことにも納得できるし、気にしないでおこう。

 そういえばロロットの声が聞こえないな。さっきまで上機嫌だった声が聞こえなくなり不安になった俺は、ロロットの方へ目を向ける。


 「むにゃむにゃ。ユウタさんはいい匂いです~。あーそんなことしたらだめなんですよ~」


 俺は夢の中で何をやっているんだ。夢の中の俺羨まけしからんぞ。現実よりも先に大人になろうとするもう一人の俺を邪魔するべくロロットを揺すり、現実にログインさせようとする。


 「ロロット起きろよ、ロロットってば」

 「あ~ユウタさんどこ触ってるんですか~。私も触っちゃいますよ~」


 一体ロロットは夢の中でどこを触ってるんだろうか。ひょっとしてロロットは酔っ払ったらエッチになるのでは? そんな疑問を抱えながら、酔っ払ったロロットの攻撃を避け続ける。


 「あー、これはもう起きないね。ロロットは飲んでるときは寝ないんだけど、飲むものが無くなったらすぐ寝ちゃうから」

 「いや、ソルテも起こすの手伝ってよ」

 「え~、酔っ払ったロロットの相手をしたら、何されるかわからないし~」

 

 ソルテは何か身に覚えがあるのか、クネクネしながらそう答えロロットは酔っ払うとどうなってしまうのか。このまま起きなければロロットを運ばなければいけない。タクシーとかはないだろうしどうすればいいんだ。


 「ロロは一回寝たら朝まで絶対起きないし、これはユウタが責任を持っておぶってくしかないね~」


 ソルテはどこか楽しそうに言った。こいつ絶対楽しんでやがる。


 「なにか、運ぶ手段はないのか? 馬車とか魔法の絨毯とかワープとか、何でもいい」

 「乗り合いの馬車はこんな時間には来ないし、魔法の絨毯とかワープは絵本の中にしかないよ~。もしかしてユウタもだいぶ酔っ払ってるのかな~」


 最後の方は冗談だと思われたらしいが、馬車が来ないのは痛い。


 「ロロってばこう見えて隠れ巨乳だから、おぶったら背中が幸せだね~。でも童貞には刺激が強すぎるかな~」


 こいつたまにオッサンになるな。それにいきなり童貞認定されてちょっと悔しい。童貞だけど。


 「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」


 一応お約束なので否定しておく。このようにあえてネタっぽく否定することにより、本当に童貞じゃないっぽさを出す高等テクニックを使用することにより、俺の自尊心はギリギリ保たれた。女の子に童貞扱いされるとか前世でクラスのギャルにイジられたとき以来だなと少し嫌なことを思い出してしまった。

 

 「ふ~ん、じゃあ女の子の扱いはバッチリだね~。ちゃんとロロを送っていってあげてね。あ、でも変なことしちゃだめだよ~」

 「するかっ!」

 

 なんやかんや言って結局ロロットをおぶることになってしまった。

 

 「はいこれっ!」

 

 そう言ってソルテは俺に請求書を渡す。

 そこには肉肉野菜炒め定食と俺とロロットの飲んだ飲み物代、それに加えソルテの飲んだ飲み物代もバッチリ記載されていた。

 

 「おい、これソルテの分も入ってるじゃねえか!」

 「だって、ユウタに払ってもらわないと私のバイト代から引かれちゃうんだもん。ユウタもこんなかわいい娘と一緒に飲めたんだし、安いものじゃない」


 まあ、ロロットの親友だし良いかと思い支払い金額を確認すると、そこには銀貨九枚と記載されていた。


 「足りねえ、全然足りねえじゃん」


 俺の呟きが聞こえてたのか、ソルテはニコニコしながらこう言った。


 「ツケもおっけーだよ!」

 「そもそも、ソルテの分が入ってなかったら払えてたんだよ!」


 そうは言ったものの、一度払うと言った以上ここでゴネるのもかっこ悪いと思い、俺はツケをお願いすることにした。


 「まいどありー。また来てね~」


 はあ、いきなり異世界で借金持ちか。大した額ではないとはいえちょっと気分が落ち込むな。せっかくのロロットをおぶっているのに感触を楽しむ気分では無くなってしまい、とぼとぼと帰路につくのだった。




 家に着くと明かりは消えておらず、どうやらママンは俺たちの帰りを待っていてくれた様だ。

 「おかえり~。あちゃ~、ロロはまた寝ちゃったのか。おぶって来てくれてありがとね、あとは私がやるから、ユウタは寝て大丈夫だよ~」

 「いや、俺が部屋まで運びますよ」


 流石に男の俺が運ばないわけにはいかないと思い、ママンに提案するが


 「女の子の部屋に入りたいだなんて、ユウタもやるね~」


 そう言われて少しデリカシーが無かったと反省し、逃げるように自分の部屋に帰るのだった。



 次の朝、俺は分からない作業をロロットに教えてもらいながら雑貨屋の開店準備を行っていた。もうすぐ開店になるだろう時間で見知らぬ男がママンと一緒に店に入ってきた。


 「二人とも注目。今日からアルバイトとして祭りまでうちの店を手伝ってくれるタロシュン君ね。ほら自己紹介」

 「よろしくっす。タロシュンっす。ツレからはタロって呼ばれるっす。今日からお世話になりまーす」


 タロシュンと名乗った男は俺を一瞥した後、ずっとロロットを見て自己紹介を終える。ママンはタロシュンへ最初に教えることと書いてもらう書類があるからと、店を俺たち二人に任せ小部屋へ入っていった。

 ママンから後で聞いた話だが、実はアルバイトはもう一人いて、それが昨日シッポ亭で会ったソルテらしい。彼女は祭り時期は稼ぎ時と考えているらしく、色々な店の手伝いを行っているようだ。

 今後はママンかロロットで店を仕切り、もう片方は材料の調達。俺たちアルバイト組は二人で組んで店番をする予定となっている。基本的には俺が固定で、タロシュンかソルテと店を回す感じだ。俺だけでも店番は何とかなると言ったのだが、王都での祭りには毎年この雑貨屋の出店を出しており、今年の出店要員としてアルバイトを育てたいとのことだった。


 「いらっしゃいませー!」

 「こちらー合わせてー、銀貨二枚と銅貨六枚でーす!」

 「ありがとうございましたー!」


 タロシュンはよく通る大きな声で店を盛り上げる。昨日までとは一転、男店員のみの雑貨屋になったが、まあ問題ないだろう。裏にはママンがいるし困ったら助けを求めればいい。ロロットは薬草採取に出かけている。俺が助けられた時とは違う場所に行くと言っていた。

 ママンの方針で全員、仕事内容は一通り経験させるということで俺も接客をやるが、タロシュンに比べ声も出ていないし、笑顔もぎこちない。そんな俺を見てタロシュンは笑っていた。


 「ただいま~」


 ロロットが薬草採取から帰ってきた。


 「ロロットおか――」

 「ロロちゃんお帰りー、いやー大変だったでしょー。俺もすぐ手伝いに行けるように店長に頼んでおくからさ、次は一緒に行こ!」


 俺を押しのけてタロシュンはロロットに駆け寄っていく。


 「え? あのどういう……」

 「採取だよ、ささ、貸して貸して、詰んできた薬草、俺が運ぶよ」

 「あ、ありがとうございます」


 タロシュンは半ば強引にロロットから薬草を奪い取り、倉庫へと消えていった。

 明日はママンが外出予定なこともあり、DQNを散々見てきた俺の予想では、タロシュンがロロットに絡んでまともに仕事にならない気がする。

 翌日、俺の予想は概ね当たり、タロシュンはなにかとロロットへ絡んでいる。


 「タロシュンさん、お会計お願いします」

 「分かってるよ、もうすぐ行くから。それでさロロちゃん、今度の休みなんだけど――」


 俺やロロットが何を言ってもタロシュンは動こうとせず、おかげで接客は俺一人でやらざるを得ない状況となってしまっていた。ロロットは一緒に働く仲間ということで無下にはできず、当たり障りない返事を閉店まで続けていた。

 ママンが店に戻り、祭りの分担について話すとタロシュンが話を中断させる。

 

 「祭りの日なんすけど、俺とロロちゃんで休み貰いますね」

 「「「え?」」」

 

 ママン、ロロット、俺の三人が予想外の言葉に口を開けている。祭りに向けたバイト募集なのにこいつは何を言っているんだ?

 

 「いや、だーかーらー、俺はロロちゃんと祭りを回るんだよ、ね? ロロちゃん?」

 「回りませんっ!」

 

 ロロットは、肩に触れようとするタロシュンの手を払い退け誘いを断る。


 「ちょ、酷くない? 祭り、楽しみにしてたでしょ?」

 「お祭りは楽しみですけど、 私は祭りの出店で自分の作った物で喜んでくれる人達の笑顔が見たいんです。だから、タロシュンさんと一緒にお祭りを回るわけにはいきません」

 

 ママンも同じことを思っているのかロロットの言葉に頷いている。当のタロシュンはロロットに断られるとは思っていなかったのか顔を引きつらせている。


 「そ、そっかー。なんかごめんねー」

 「タロシュンさんも、せっかくここで働いているのだから、一緒に出店をがんばりましょう!」 

 「いやー、祭りは働くよりロロちゃんと遊びたいんでやっぱ休みほしいっすわ」

 「まあまあ、祭りの分担についてはまた後日相談するから」


 全く働く気のないタロシュンは、せっかくのロロットの誘いを断り自分の都合だけを主張する。 

 ママンは諦めたようにもし気が変わったら教えてくれと言い、この場での争いは幕を降ろした。タロシュンは面白くないとでも言うかの様に口を尖らせてクネクネしている。


「ちっ、うぜぇ、まじうぜぇ。この女なら誘うのちょろいと思ったのに」


 タロシュンは俺らには聞こえないような声で小さく何かを呟いていた。

 次の日、タロシュンは店に出てこなかった。勿論無断欠席で、ママンはたまにあることだからと気にしていないようだ。実際、今は客足はそれほど多いわけではなく、俺一人でも問題ないくらいだった。

 その次の日は全然客が来なかった。俺が働いてからは勿論、ロロットに聞いても祭り前にこんなに人が来ないのは初めてだと言う。

 俺はなんだか嫌な予感がして、どうせ暇だし少し長めに昼休憩を取ってくると、昼休憩から戻ったロロットへ言い残し、店を出た。

面白いと思っていただけたら 拡散希望! 拡散希望! 拡散希望!って感じです!


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