第三話「ツイート」
第三話「ツイート」
魔法のような力で悪戯をしているDQNどもは間違いなくこの世界にとって害悪だ。前の世界でも似たような奴らはいたが、魔法を使ってない分こっちの世界のDQNよりは百倍マシかもしれない。
女神はおそらく前世でのDQNの討伐実績を見て俺をこっちの世界に呼んだんだろう。
女神が俺に何をさせたがっているのかはわかった。DQNが蔓延るこの世界を、俺が浄化してやる 。女神から与えられているはずのチートスキルで俺の無双が始まる。
「ジャスティス・アロー」
俺は背骨を伸ばし、胸郭を広げてDQNどもに向かって矢を放とうとする。武器は持っていないため光の弓矢をイメージしている。俺の予想では、『魔法創造』的なスキルが発動し、DQNどもを抹殺できるはずだ。しかし、俺の予想に反し一向に矢が出る気配はない。
「ええと、何をしているのですか?」
ロロットにはおそらく俺がイタい奴に見えているのだろう。さっきよりも少し距離がある気がする。
「まあ、冗談はこのくらいにしておこう」
さすがの俺も念じただけで矢を放てるだなんて思ってない。もっと現実的なスキルを試そう。バフくらいならあるのではと次のスキルを想像する。
「ジャスティス・パワー」
たぶん、詠唱に「ジャスティス」は要らない。むしろ詠唱自体いらないのかもしれない。
「ステータスオープン」
「スキル」
「スキルウィンドウ」
「ヘルプ」
「サポート」
「解析」
「アナライズ」
「分析」
……
何か情報になるものはないかと、俺は思いつく限りの詠唱を続けた。スキルの発動方法がわからない不安を払拭するため、ひたすら詠唱を続けた。
しかし、どの詠唱も一向にスキルが発動する気配はない。
俺が試した限り、詠唱が必要系のスキルは今はアクティブになっていないらしい。
仕方ないので俺はパラメータ無双でDQNを退治することにした。本当は肉弾戦は苦手だが、おそらく転生後は「女神の加護」的な効果により、ダメージ無効、パラメータ百倍補正的な感じで仕上がっているだろう。その辺の一般人に、ましてや知能の低そうなDQNなんぞに引けを取るわけがない。
「ステータスオープン」的なスキルが使えない今、これは単なる妄想でしかないが不思議と俺は勝てる気しかしなかった。
「ロロットは危ないから離れていてくれ。俺の『力』に巻き込まれると危険だ」
俺はロロットに離れたところに居るように指示し、独りでDQNどもの居る所へと向かう。
「おい、お前たち!」
「ちょwwなんこいつwww変な恰好www」
「あんだよww、文句あんのか? おん?」
こいつら、引く気はないようだな。俺が水分不足で声に張りがなかったとは言え、あまりに、舐められすぎている。
こんな奴らはチート能力で黙らせてやる。その前にこいつらに水を飲める様に戻す意志があるか確認しておこう。
「湧き水を凍らせてどうしてくれるんだ。当然飲めるよう元に戻すんだろうな」
DQNどもはまだ俺のことを指して笑っていやがる。その話題はもういいんだよ、糞が。
その後も要領を得ない二人に対して俺は正義の鉄槌を下そうと俺は向かう。
「クズども、詫びを入れるなら今のうちだ」
俺は見よう見まねで、体中の関節を鳴らし、戦闘態勢を取る。
俺の頭の中では百通りの方法でDQNどもをぶちのめしている。
妄想の中で勝利の美酒に酔っている俺は、DQNが拳を振り上げ、すぐ側に迫っていることに気づくよしも無く、DQNどもから逆に袋叩きにされた俺は、気づくと仰向けに倒され空を見上げていた。
「なんでだよ。くそぅ」
何がチートだ。何がスキルだ。結局俺は女神の願いなど理解できていなかったのだ。
DQNどもは満足したようで俺から興味を失い、また騒ぎ始めている。俺の求める湧き水は、もちろん凍ったままだ。
こんな時、いつもであれば憂さ晴らしにツイートしまくるのになぁ。
「DQNども、特に湧き水を凍らせたやつ自分の氷で滑って転んじまえ、ツイートってか、ははは」
なんて独り言を空に向かって呟く。呟いたところで何も変わるわけではないのに。
ん? 珍しいな、視界に入る木に青い鳥が留まっているのが見える。この異世界ではもしかしたら鳥は奇抜な色なのも普通なのかもしれないな。それにしても全身青っていうのはどうなんだ?
「うぇっww」
間抜けな声が聞こえた方に目をやると、奴らは地面に体を投げ出し、天を仰いでいた。
一瞬、俺のつぶやきが現実になったかと妄想するが、冷静に考えると凍った地面で滑ったのだろう。自業自得だと心の中でほくそ笑むが、ふと芽生えたいたずら心が俺にさらなるツイートをさせる。
「DQNざまあw滑って転んでやんのwついでに鳥の糞でもかぶっちまえ、ツイートってか」
ついでもついでだ、偶然滑ったついでに、偶然鳥の糞でもかぶっちまえ。
また、俺のツイートもどきが現実にならないかと期待して、DQNの方を見ていると、さっきの青い鳥がDQNに糞をかけていた。
「ざまあああああああああああああああああああああwwww」
さすが幸せの青い鳥、DQNに糞がかかることで大分溜飲が下がった。
二回連続の偶然にふとある考えが頭をよぎる。
これってもしかして俺の呟いた通りになってるのでは?
女神から授かったスキルは、現実改変能力だった可能性が浮上し、俺のテンションは一気に最高潮に達する。
よしよしよしよしとても良し! スキルとしては最上のものを引き当てた。
女神よありがとう。世界よありがとう。俺はこのスキルで、無双してやる。
ふっふっふっ、まずはあのDQNだ。さて、どうしてやろうか。さっき俺に死ぬほど暴力をふるいやがって。おかげで体中が痛い。
さっきの大声でDQNどもがこっちを見ている様だ。俺の記念すべき世界浄化活動の一歩になるのだから教えてやるか。
「お前らは今、俺の手のひらの上で踊っているのだが自覚しているのか? 例えばさっきの鳥の糞、あれは落ちるべくして落ちている」
俺は声高らかに宣言し、続ける。
「これからお前らを裁いてやるよ。この世界は俺の言う通りに動く、DQNどもよ、死ね!」
……
何も起こらない? のか?
「死ね! 死ね! 死ね! 来るな、いいから早く死ねよぉ!」
何故だ。DQNどもが獲物を見つけたかのような笑みを浮かべながら俺の方へ歩いてくるぞ、嫌な予感がする。早く言ったと通りになれよ。
俺は必死に叫ぶ。人の生死までは操れないということなのだろうか。DQNに腕を掴まれ、顔から地面に倒される。俺は必死に起き上がろうと抵抗するが敵わない。
視界の端にロロットが見える。口に手を当てて悲鳴を押し殺しているんだろう。
どれだけ殴られただろうか。どれだけ蹴られただろうか。唾を飲めば血の味がし、体が痛む場所は数え切れない。
「あの、大丈夫ですか?」
遠くから俺の無様な姿を見ていたであろうロロットがDQNどもがいなくなったのを確認してから駆け寄ってきて俺に声をかける。
ロロットの優しさが痛い。
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