第二十一話「スマポの解析」
翌日、俺とロロットは王都ローシェルへと向かう馬車に乗っていた。バッグには昨日入手したスマポ、衛兵のお偉いさんが書いたギルドへの調査依頼書が入っている。スマポは今日留置所の万引き女が使うはずだったのだが、今頃偽物を渡されたことに気づいてまた発狂しているだろうな、もう関係ないけど。
今回港町から出る交易船には乗れなかったため、無駄足と言えば無駄足だったのだが、地図に書かれているシェイヤ国は既に無くなり、パーリーランドなるふざけた名前の国が建っていることは向かう先を知るという点では大きすぎる成果かもしれない。それにこのスマポだ。パリピなら誰でも持っているというのはさておき、持っているだけで魔物に襲われないというのは完全に謎だ。その話が本当なら陸路でも割と楽に移動できる可能性があるので、これからは陸路がメインになるだろうな。
使い方は転生前に暮らしていた世界のそれとは違うらしく、どこにもボタンは存在しない。ガラスをタッチしても、スワイプしても、スマポ自体を握ってみても反応なしだ。しかしガラスは片面で、おそらくここから暇つぶしができる何かが得られるはずなんだ。
「だめだ、わからん」
「ユウタさん。もう一日中ずっと触ってますね」
「ああ、確かに暇つぶしにはなってるな。ロロットも触ってみるか?」
俺はそう言って、返事をする前のロロットにスマポを渡して寝る体勢に移る。
以前DQNが使っていた写し絵の魔道具などと繋がっていれば映像を見れるはずで、それで暇つぶしができると考えるのが妥当だろう。しかし、そこからが分からない。
そんな感じで何も分からないまま数日経つと、目的地まで辿り着いていた。
腹ごしらえも程々に、依頼の整理をするためギルドへと足を運んでいた。
「ここがギルドなんですか。初めて入りましたけど、なんか外と雰囲気が全然違いますね」
ロロットは扉を開けて室内に入るなりキョロキョロとしているので周りからの目線も集めてしまっていた。以前サブマスターが取り乱していた時の様子が無駄に噂になっているのか俺をチラチラ見ながら噂話をしているようなやつもいる。俺一人ならまだ大人しくしていれば目立たないが今回はロロットが目立っているからな。横にいる俺も道連れだ。
「ああ、何度来ても慣れないし、油断もできない」
「一体何があったんですか」
「舐められないように毅然と振舞っていただけだが、チンピラと詐欺師に絡まれた」
俺はありのままを伝えただけだが、ロロットに半目の懐疑的な目で見られていて全然納得されていないようだった。
受付の順番が回ってきたのでサブマスターを呼ぶ。流石にもうすんなりと話が通るようになっていて、フロア奥の別室へと案内される。
「お久しぶりでございます。この短期間で再訪されるということは何か問題があったということでしょうか?」
サブマスターは俺たちを見ると、真剣な顔で開口一番に本題に入る。
「まずはこれを見てもらえないか。その後に話さないといけないこともある」
「では……」
サブマスターは俺が預かったギルドへの依頼書を読みながら時折頷いている。
「ユウタ様、この依頼書に書かれているスマポと呼ばれる魔道具というのはどこに?」
「それならここに、ん? あれ? どこ行った!?」
俺がしまっていると思っていた荷袋の場所には何も入ってなく若干焦っていると、ロロットが俺の肩をちょんちょん叩く。
「ここですよ、馬車で私に渡したじゃないですか。サブマスターさん、どうぞ」
「ありがとうございます。これがそのスマポですか、不思議な形ですね。私も興味がありますが、まずは専門家に任せましょう」
そう言って、サブマスターは部屋の外に控えていた職員を呼び、スマポの解析を至急でと指示した後、俺たちのほうに戻ってきた。
「それで、ユウタ様からの話さなくてはいけないこととは?」
なんだか今日のサブマスターは雰囲気が少し焦っているようにも感じるので、後でそれとなく聞いてみようと思ったが、まずは当初の目的を優先させる。
「パーリーランドという言葉に聞き覚えはないか?」
「パーリーランド……。いえ、知らないですね」
やはり知らないか。国が変わったことを知ればどれだけ混乱するかわからないな。だが、言わないよりはマシだろう。
「シェイヤ国は知っているな」
「勿論です」
「そのシェイヤ国の現在がパーリーランドらしい。なんでも改名したんだとさ」
「えぇ!? いや、そんなまさか。国の改名など大きな変化があれば真っ先に他の国々に連絡が来るはずです」
サブマスターは俺の言葉を信じているかどうかよくわからない表情をしていた。
「そうかもな。革命軍とやらが国を乗っ取りパーリーランドとなったのが約半年前。俺が行った港町でもその時期から海が荒れ始め、魔物が強くなっていたと証言されている。それに先のスマポがあれば魔物から襲われることが無いとも言っていた。あまりにも都合が良すぎないか?」
「そこまで情報を集めているとは、流石ですね。ですがあなた一人の証言ではそこまで大きな事柄の判断はできません。大々的な調査することくらいは可能だと思います」
まあ、そうだろうなと俺は納得してしまう。冒険者になったばかりの若造がいきなり国が把握しているはずなのにしていない、嘘としか思えない発言をしているのだ。調査してくれるだけでも特別扱いだろう。
その後はパーリーランドに関する俺の把握していることを再度話して書面へと記録しながら解析の結果を待った。
「サブマスター、ユウタ様御一行、お待たせしております」
伝えるべきことを伝え終わり、スマポに関しては解析に手間取っているようなので、また後日にしようかという雰囲気が漂い始めたあたりで丁度、スマポを持って行った職員が戻ってきた。
「おお、解析の結果はどうだったかね?」
「そのことなのですが……、現時点では何も分かりませんでした」
せっかく明るくなるかと思った矢先のこの報告にサブマスターは頭を抱えながら、何とか言葉を絞り出すように再度確認をする。
「本当に、何も、分からなかったのか?」
「何もと言いますか、魔力を媒介にして動作する様なのですが、特別な魔力が必要なのか起動させることができませんでした」
「魔力を媒介にするっていうのはどうしてわかったんだ?」
俺はおそらく解析の成果であろうスマポの動力源のついて確認をとる。もし元の世界の物がデザインの基礎になっているなら電力の可能性もあるはずなのだ。それに、通信なども行っていると考えるのが妥当だろう。
「解析中、様々な魔力を付加した際にこのスマポが一部魔力をその場に留めたそうです。それで更なる解析を行ったのですが、それ以上の事は観察されずに一旦中止し報告に参った次第です」
「質問なんだが、どこかと魔力で繋がっているとかそういうのは無かったか?」
「いえ、そのようなことは何も聞いていません」
どうやら本当にこの辺は分かっていないらしい。このあたりだと電波的なのを受信できなくて見つからない可能性もありそうだな。
「そうか、数日解析したら何かわかりそうならば、引き続きお願いしたいがどうだ?」
「研究者は魔物の強くなった要因について優先的に調べておりますので、あまり注力もできない状況なのです。申し訳ございませんが解析を延長しても成果は期待できないかと」
俺の申し出にはサブマスターがもっともらしい理由を添えて返答した。確かに喫緊の内容としては、暇つぶしに使われそうなスマポよりは人々の安全が優先されるだろう。
俺はスマポを受け取って、先ほどの研究の続行依頼を止めることを意思表示した。




