第二話「転生」
「起きてくださいっ! 大丈夫ですか?」
――声が聞こえる。
「ゔぅゔゔ」
視界が暗く狭い。俺は息を吐くことしかできないでいた。
「怪我は……無さそうだし、そうだっ!」
そう言って彼女は俺に「何か」を飲ませた。
その刹那、体中から力が湧き上がり、足の先まで血が巡るのを感じる。
「ヴゔぉぉえまっっっっっっっず」
エナジードリンクから甘みを消して、薬臭さだけを増幅したような、まるで湿布のような飲み物を飲まされた俺は、思わず飛び起きた。
たまらず口を出た失礼な言葉にも、彼女は安堵の表情を見せた。
「良かったぁ、気が付いて。でもなんでこんなところで倒れていたんですか?」
優しそうな声のイメージ通りな丸顔系だが、目鼻立ちははっきりとした少女が俺の顔を覗き込んで問いを投げかける。
「んー」
そんなことは俺が知りたい。そもそもここはどこなんだ? あれは夢だったのか?
「あの……、まだ体調が優れませんか?」
「ああ、いや、大丈夫そうだ。すまないな、助けてくれたみたいで」
普段の俺らしからぬ常識的な対応をする。ここがどこだかわからない以上味方は一人でも多いほうがいいからな。
「助けただなんて大げさですよ~、私は大したことはしてないですっ」
彼女は少女は透き通った蒼い目でこちらを見つめながら、顔を横に振る。同時に揺れてる肩まで伸びるキラキラと光を返す金色に俺は目を奪われながらも、自身に起こった少し前の感覚を思い出す。
「でも、なにか飲ませてもらったような」
「ただの栄養剤みたいなものです、気にしないでください」
栄養剤? そんなもので瞬間的に体調が良くなるものなのか? もしこれが本当なら異世界に転生してしまっているのかもしれない。俺が知る物に当てはめるとゲームで手に入るポーションのようなものか。
俺の考えが合っているなら高級品に当たるのではないかと思い彼女に目を向ける。
若干考え込んでいるのか笑顔の中に陰りを感じ、これは苦笑いだと直感が告げる。安物ではないのは確かだな。
「なにかお礼をしないとな」
彼女は周りを見渡し、背負っていたと思われるはち切れんばかりの麻袋を指し答える。
「じゃあ、この薬草を村まで運ぶのを手伝ってください」
「了解した。責任を持ってきっちり運ぼう」
背負ってみるが、やはり相当重い。誰だよきっちり運ぶとか言ったやつ。
彼女はと言うと、どこからか出したもう一つの袋に、周囲にある形の変わった草花を摘みながら好奇心満載の楽しそうな笑みを浮かべている。
「ふふふ、お願いしますね」
そう言って俺たちは、彼女の暮らしているという村へ歩みを進める。
「そういえばお名前を聞いてなかったですねっ。私はロロットといいます」
「俺はユウタだ」
こんな時どう返すのがいいのだろうか。女の子との会話は久しぶりでどうも不愛想になってしまっている気がするが、ロロットの様子を見るにあまり気にするほどではないようだ。
「ユウタさんですね~。あんまり聞いたことのないお名前ですけど、ご出身はどちらなんですか?」
出身地か。さすがに正直に言っても異世界だとわからないだろうし、狂人と思われるのも避けておきたい。取り敢えず誤魔化そう。
「ああ、それがうまく思い出せなくてな」
「倒れた所為で一時的に記憶喪失になっちゃったんですかね~。でも、着てる服もここら辺では見たことないし。旅の途中だったのかな」
やっぱりそうか、コニクロの服がわからないとなると元の世界のことは言えないな。俺は話題を変えるため、歩いている途中にも草木を摘んでいくロロットに問いかける。
「そういえば、ロロットは何で薬草を摘んでいたんだ?」
「私、雑貨屋で働いているんです~。私の村は、王都までの長い交易路の中間地点に位置するので、食料品とか薬品類がよく売れるんですよっ」
話を聞く限りなかなか便利な村のようだが、それにしては緑が多いというかあまり開拓されていない様に思える。交易路の中間地点となると、産業としては消耗品と宿提供が主なのだろう。
「へえ。ロロットは薬草から薬品を作っているのか?」
「いえいえ~、薬品を作れるのはママンだけです」
そんな話をしながら村へと歩みを進めるが、慣れない肉体労働の所為か次第に体力が奪われていった。
「ユウタさんお疲れですか?」
「ああ、少しな」
ロロットも既にいっぱいになった袋を運んでいるというのに、周りを気遣う余裕が覗える。
「じゃあ、もう少ししたら美味しい湧き水を飲める岩の割れ目があるので、そこで休憩にしましょう」
「ああ」
口数が更に減ってきた。しばらくまともな会話はできていないぞ……
前を歩くロロットが振り返りながら前方を指している。もう目に見える距離のようだ。
「あ、ありました。あそこです~」
助かった。あと五分も歩いていたらまた倒れていただろう。
こんな時くらいしか感謝しないが、このときばかりは神様とか仏様とかに感謝した。
敬虔な祈りを神に捧げていた俺は、どこかで聞いたような不快なノイズに気が散らされていく。
「うぇ~いwwwww」
「ちょwおまwちょwおまw」
まさか異世界に来てまで再びDQNどものさえずりを聴かされるとは思わなかった。
「今日習得した氷スキルで氷像作っちゃうぜwwwww」
「おいおーいwwこれじゃ水飲めないだろwwwww」
そこには、湧き水をこれ見よがしに「魔法」のような力で凍らせているバカどもがいた。せっかく湧き水の目の前まで辿り着いたのに水は飲めるような状態ではない……
DQNどものうちの一人、おそらく湧き水を凍らせた方は、発言が格好にも出ているようでネックレスやキーホルダー的なものをジャラジャラとぶら下げ、わかりやすいように帽子を後ろ前でかぶっている。もう一人はキョロ充だろう。目を泳がせながら落ち着きがなく、癖なのかウェーブのかかった髪の毛を捩っている。
「氷でかくなってくwww、自撮りしようぜwwww」
「ちょwおまw写し絵の魔道具手に入れたのかよwwww」
ご丁寧に自撮りまでしてやがる。ここは本当に異世界か?
「親の金で買ったわwwww」
「ちょwおまwまた抜いたのかよwちょwおまw」
もう突っ込みどころが多すぎて、突っ込む気さえ失せる。
「うぇ~いwwww撮れた写し絵、投稿しに行こうぜwwww」
「ちょwおまw俺ら人気者になっちゃうじゃんwww」
あー、今完璧に理解した。女神が俺に何をさせたかったのかを。
「異世界人もバカばっかかよ!?」
突っ込む気さえ失せたはずだが、それでも俺は突っ込まざるを得なかった。
面白いと思っていただけたら 拡散希望! 拡散希望! 拡散希望!って感じです!
評価やブックマーク、感想などいただけるとうれしいです。
よろしくおねがいします!