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星(りゅう)の見上げた夢に  作者: AOINE
第一章 黒龍の王
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5話 部活の作り方

 暗い道を照らす街灯。

 静かな外とは違って、食堂は晩御飯を食べに来た生徒達で賑わっていた。


 香ばしい肉の焼ける香り。その柔らかい肉に箸を入れると肉汁が溢れ出る。小さく切り取って口の中に放り込むと、途端に広がる肉の旨み。続けてライスも頬張る。柔らかいハンバーグと米が混ざりあってひとつになった時、口いっぱいに広がる満足感。

 今日はハンバーグセットを頼んでみたが、やはり洋食はおいしい。


 と、毎度の如く素晴らしい食事文化にありついている訳だが、一つだけ突っかかっていることがある。

 それは、俺の目の前に座る女子二人組ーー


「ちょっとクロ!ちゃんと野菜も食べなきゃダメでしょ!」

「……今日はもういらない」


 白井と黒野だ。


 食券を買う列に並んでいるとなにやら視線を感じ、誰かと思ったらこの二人だった。

 俺と同じハンバーグセットを購入し、俺の目の前に座る。

 全く意味が分からない。なんだこいつら。

 声をかけたほうがいいのかどうかもわからないのでとりあえずスルーしているが、チラッチラッとこちらに視線を送る二人を気にせずにもいられない。


「ねぇ!碧岐くん!」


 俺が黙々とハンバーグを食べ進めていると、いきなり白井が話しかけてきた。


「碧岐くんは、私たちのこと覚えてる?」


「?ああ、白井と黒野だろ?今日自己紹介したばかりなんだからさすがに覚えてるけど」


 俺の記憶力がどれだけ悪いと思ってるんだ。

 俺が当然のように答えると、白井は笑った。


「そっか!よかった!忘れられてたらどうしようと思って。改めてよろしくね、碧岐くん。にゃはは」

「あ、ああ。よろしく」


 特に別の意味があるようには感じられず、不思議には思いつつも深くは聞かなかった。

 そしてその横では黒野が箸でブロッコリーと人参をつついている。食べたくないのだろう。


「あっ!こら!だから野菜もちゃんと食べなって」

「今日はもうビタミン取ったので野菜はいらないの」

「りんごジュースだけじゃん!ほら、ちゃんと食べて!」


 まるで小学生とその母親のような微笑ましいやり取りを見て、少し笑ってしまった。


「仲良しだな」


 そう言うと、白井はま同じように笑顔を浮かべた。


「うん!私たち仲良しなんだよ」


 横の黒野は皿の上の野菜たちを見つめて表情を変えない。よほどの大敵なのか、会話が耳に届いていない様子だ。


 俺はまだ皿に食べ物が残ってる白井と黒野にまた明日と別れを告げ、食器を片付ける。

 胸の中の深い奥底に、謎の既視感を感じながら。


 ☆


 体育館に集まった生徒は、皆が期待に胸を膨らませていた。

 なにせ第三魔学の部活動紹介だ。

 どの部活もトップレベルで、どれを選んでも充実した学園生活が待っているだろう。


 各々の部活が、生き生きと自分たちの部活をアピールする。

 そんな中、一人明後日の方向を向いているのが、俺だ。


 見事、魔法術研究部の部長に任命され、どの部活動に入ろうかと悩む必要がなくなったからだ。

 余計な悩みも増えたが。


 大きくため息をついていると、横の透が話しかけてくる。


「どうしたんだよ、ため息なんかついて。どの部活に入るか、そんな悩んでるのか?」


 こいつ、嫌味か。


「そういうお前は、どこに入るか決めたのかよ」

「俺はサッカー部に入ろうかと思ってる。経験はないけど、こう見えて俺器用だから、なんとかいけると思うんだよ」


 もう決めていやがった。こいつも巻き添えにしようと思ったんだが。


「それで、お前はどの部で悩んでるんだよ」

「いや、それが……」


 俺が事情を話すと、透は一瞬驚いた顔をして、


「ハハハ!なんだそれ、可哀想に!」


 馬鹿にしやがった。

 こいつ、なんの躊躇もなく笑いやがって。


「おいお前ら、静かにしとけ」


 いつの間にか近くまで来ていた神愛先生に注意され、大人しくなる透。

 その後部活動紹介が終わるまでは静かにしていたが、時折吹き出すのを堪えていた事を、隣にいる俺が見逃すはずもなかった。


「今月中にあと三人なんて無理ですよ」


 コンビニで買ってきたであろう鮭おにぎりを頬張るゴスロリ先生。俺がこの先生にそう言ったところで、この先生は部活動設立を止める気はないらしい。

 大きなため息を吐き、頭を掻きながら言った。


「なら私の方で一人はなんとかする。だからお前はあと二人を連れて来い」


 一人減ったはいいものの、そこまで良くはなってない。現状では、一人も引き入れられる気がしないのだから。

 先生には「頑張ってみます」と言っておきながら、重い足取りで教室へ戻って行った。


 それから透に手伝ってもらい、クラスの男子には一通り声をかけたが、興味をもってくれたやつはいなかった。

 女子に声をかけていないのは、なんとなく話しかけづらいからだ察してくれ。


 そんな感じで、収穫もないまま今日も終わりを迎えようとしていた。

 靴を履き替えて一人歩いていると、あちこちから運動部の掛け声が聴こえてくる。

 グラウンドを覗いてみると、練習着を着た野球部の先輩が、制服の一年生となにやら話している。

 恐らくあの一年生は、野球部に入部するのだろう。

 透も今日はサッカー部の方へ顔を売りに行くとか言っていたが、既にほとんどの部活に新入生の顔が見られた。


 まずい。非常にまずい。


 ほとんどの新入生が部活を決定し始めている。このままでは二人どころか一人も入ってくれないかもしれない。

 どうしよう。どうしたものか。めんどくさい。

 頭を抱えながら歩いていると、すぐに寮の前についていた。通学路が横断歩道一本というのも考え物だろう。


 部屋でため息ついている時間も空しく、夕食を食べに食堂へ集まる。

 ミートソーススパゲティを受け取り、いつも座っている席へ向かうと。


「お、来た来た。やっほー碧岐くん」


 その席の向かい側には、白井と黒野が座っていた。


「あああちょっと!Uターンしないで!一緒に食べようよ~」


 深くため息をつき、仕方なく席に座る。

 まさかこの二人、毎日ここで待ち伏せするつもりだろうか、たまったもんじゃない。

 俺は今なんとかして魔法術研究部に入ってくれる人を二人集めないと――


 ん?二人?


「あの、二人に一つ聞いていいか?」

「いいよ!なんでも聞いて!身長?体重?スリーサイズ?」


 身を乗り出して食い気味に聞いてくる。そんなの聞かねーよ。


「いや、二人はどこの部活に入るか決めたのか?」


 そう聞くと二人は顔を見合わせて、顎に手を当てて唸り始めた。その様子を見る限り、どうやら二人ともまだ決めてないようだ。

 このチャンスを逃す訳にもいかないだろう。


「もしまだ決まってないなら、俺が作る部活に入ってくれないかな」


 俺がすかさず話を切り出すと、二人は驚いたように(黒野は一切表情を変えていないが)こちらを見る。

 この反応、いけそうな気がする。


「魔法術研究部っていう部活なんだけど、神愛先生が作りたいって声をかけられたんだよ。学園生活を棒に振るようで悪いんだけど、もし良かったらうちの部活に入ってーー」


「入る!私たち二人とも入る!碧岐くんの部活!

 いやー、碧岐くんと同じ部活に入ろうとは思ってたんだけど、私たちだけの部活なんてそんな都合のいい話乗らないわけないよ」


 予想より遥かに早い返事に、今度は俺が驚かされる。

 何故俺と同じ部活に入ろうと思っていたのか。とても気になるところではあるが、今の入ろうの言葉を取り消されては困るので、特に何も言わないようにしよう。


 詳しいことは明日、先生と話をすることにして、俺達はその日を終えた。

 とりあえず、俺の寮生活は保証されたようなものだ。

 そんな安心感からか、今日はすぐに眠りに着くことができた。

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