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星(りゅう)の見上げた夢に  作者: AOINE
第一章 黒龍の王
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4話 これが学園生活の始まり

 さて、空いた時間をどうするべきか。

 神愛先生はまだ終了を告げるような動きはない。

 横目で透を見ると、彼は鋭い目付きで黒野を捉えていた。

 対する黒野はというと、こちらは目を逸らし震えている。完全に逃げの姿勢だ。


「どうしたんだよ透。黒野怖がってるだろ」


 少し可哀想に思い、小声で呼びかける。すると透は一瞬こっちを見たかと思うと、再び黒野を見据えて言った。


「……似てる」


 似てるって、何にだよ。

 もしかして、昔あったあの子に似てるとか。え、なにその展開。

 俺の疑問を知ってか知らずか、透は続けて言う。


「俺と服装被ってる!」

「は?」


 あまりのくだらなさに流石の優しい俺も酷い返しをしてしまった。


「だって全身黒いところとかそっくりだし!というか俺のマントボロボロだからなんか俺の方が劣化版みたいになってるし!」

「あ、あはは」


 おいどうしてくれるんだ。場の空気を整えることだけがお前の仕事なのに、お前が荒らしてどうする。

 黒野は名前もよく分からない羽虫でも見ているかのような目で透を睨んでるし、ほか2人も苦笑いしか出来てないぞ。


「そういえばさあ」


 あーだこーだ言っている透を止めたのは白井だった。


「烏間くんと碧岐くんって仲良いよね。中学とか一緒だったりするの?」


 俺と透は目を合わせ、質問に透が答える。


「いや、俺達が知り合ったのは、学園の寮に入る時だよ」


 そう。俺達が出会ったのはほんの一か月前のことだ。

 その日俺は寮へ移るためにこの学園に訪れた。

 しかし右も左も分からず、学園の入口でさまよっていた。

 そんな俺を救ってくれたのが、透だった。


 透は俺を先生の元へ案内してくれた。寮の部屋が隣だったこともあり、仲良くなるのにはそう時間はかからなかった。


「あの時は、透のこと良い奴だと思ってたんだけどなぁ」

「なに!?」


 そう俺が呟くと、透が噛み付いてきた。


「俺は今でもいつまでも良い奴だろ!」

「いや、なんていうかお前めんどくさいんだよ」


 俺と透の言い合いに小さく笑いが起こる。

 班員との距離が縮まるのを、微かに感じた。


 そうこうしているうちに時間は過ぎ、神愛先生の声が響く。

 それを合図にして、生徒達は教室へ戻って行った。

 こうして、学園生活一日目、オリエンテーリングは終了した。


 ☆


 次々に生徒が教室から出ていく。

「お昼ご飯は何にしようか」

 なんて女子生徒の会話がどこからともなく聞こえてくる。

 入学初日の学園生活が終わろうとしていた。


 そんな中、俺は昼飯にありつく前に、学園に残っていた。それは何故か。


「嫌です」


「まぁそう言うな。お前ならできるって」


 うちの担任の神愛先生に呼び出されていたからだ。

 クラスルームが終わりベルと一緒にお腹も鳴り出したと思ったらこの教師に連れ出され、机が積み上げられた空き教室の椅子に座らされ、かれこれ三十分ほど一体一の話し合いが続いている。


「お前が思っているほど、悪いものでもないぞ」


「それだったらなんで僕が――」


 そして、その呼び出された理由というのが。


「先生が作る新しい部活の部長にならなきゃいけないんですか!?」


 この学園にも部活動は存在する。

 野球、サッカー、バスケ、柔道や剣道などの運動部。吹奏楽部、茶華道部、文芸部などの文化部。普通の学校よりも部活動の種類は多いだろう。


 所属する部活動によって、生徒が扱う魔法術や戦術に影響がでるから面白い、と入学説明会の時に神愛先生が話しているのを聞いた。


 そしてこの学園の部活動は他の高校と比べると圧倒的にレベルが高い。

 というのも、この学園は国が経営する学園であり、同時に国の最先端技術を持つ学園だ。

 教師も設備も、他の学園とは比べ物にならないだろう。


 そんなレベルの高い部活動が揃うこの学園に、一年生が新しい部活を立てたところで、到底人が揃うはずもない。

 それどころか馬鹿にされて、尊厳が根こそぎ奪われるに決まってる。


「そんなめんどくさいことやりたくないです!」


 ただでさえこれからが心配だっていうのに。


「まあそう言わずに。どんな部活かだけでも聞いていけ」


 なんだそのセールスマンの売り文句みたいなセリフは。

 どんな部活でも入ってやらないからな。


「私が作る部活は、"魔法術研究部"。日々魔法術と戦術の研究に勤しみーー」


「それではまた明日」


 教室から出ようとした俺の横っ腹を先生の傘が薙ぎ払う。


「いだぁ!?」


 倒れながら痛みに耐えるべく歯を食いしばる。

 そんな俺を薄気味悪い顔で神愛先生が見下す。


「先生の話を無視して帰ろうとするな」

「止めるならもっと先生らしい止め方をしてくださいよ!体罰ですよねそれ!?」


 すると今度は持ち手で頭をゴンと叩かれる。


「男なら腹をくくれ。それとも、よもや私との約束を忘れた訳ではないだろ?」


 約束という言葉に口を詰まらせる。

 それは入試の日。

 俺の面接を担当したのが神愛先生だった。


「寮を利用するか」


 という質問に対して「いいえ」と答えた。

 近くに住んでいた訳でもなく、利用出来るならしたかった。

 だが俺にはそれほどの資金の余裕がない。


 俺が寮に入れたのは、実はこの先生のお陰だ。


「お前を寮に入れてやる。その代わり、入学後に私の頼みを一つ聞いてもらう。拒否権はない。」


 その後どうやってか俺が寮に入る手続きをしてくれて、寮に入ることになり今に至る。


 そういえばそんなこともあった。

 まさかそれがよく分からない部活の部長になれだとは思わなかった。


「既に申請は出してある。お前に逃げ場はない」


 俺に人権はないのか。


「ちなみに今月中にお前を含め部員が四人集まらなければ部活が設立出来ない」


 なんと。こんな所に救いの手があったのか。

 今月中にあと三人なんて集まるわけがない。そうなれば俺は見事、謎の部からは解放されーー


「部活動が無くなったらお前を寮から追い出すからな」

「やめてやろうかこの学校」


 こうして俺は魔法術研究部の部長になった。

 まさか入学初日にして、卒業したくなるとは思わなかった。

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