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星(りゅう)の見上げた夢に  作者: AOINE
第一章 黒龍の王
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3話 自己紹介

 動きを見せる。そう言って神愛先生は、転身のためのモーションを始める。


 そのモーションは特に難しいものではなかった。

 まずMRCを着けた手を胸に当てる。

 ポン、とMRCが反応すれば、あとはその手を上にあげ、勢いよく下に振り下ろす。

 それだけだ。


「このモーションをするだけで、転身が開始する。さて、それでは始めてもらいたい。ああ、一応体育館全体に広がって、それぞれ距離を取るように」


 始めの掛け声と共にパンと手を叩くと、生徒達は体育館に散り始めた。


 俺はというと、MRCを見つめながら、本を読んで予習して得た知識を思い出していた。


 魔術というものには五種類ある。

 自分自身の一部の能力を底上げする「身体強化魔術」。


 自分の体を他の物質、または形状や質量などを変化させる「身体変化魔術」。


 自身特有の武器・防具などを生成、操作できる「武具操作魔術」。


 魔素から一種の物質を生成、操作できる「物質操作魔術」。


 特有の能力を使用することのできる「固有能力魔術」。


 それぞれの魔術に大きな能力差は無く、長所も短所も存在する。

 例えば、一見して地味な身体強化魔術は、扱いやすさに置いては群を抜いているが、打開のチャンスをつくりにくい。

 一方、個人特有の能力を持つ固有能力魔術は、相手にとって対処しにくい魔術だが、使用が制限されていることが多い。


 魔法術士として花形の固有能力魔術を欲しがる人がほとんどだが、他の魔術で強い奴も数えきれないほどいる。と、俺が読んだ本には書かれていた。


 頭の中で考えを巡らせていると、体育館のあちらこちらで生徒が光に包まれる。

 その光景に気付かされ、自分も転身すべくMRCの画面をタップする。

 画面には「モーションを開始してください」の文字が浮かんでいる。


「確かこんな動きだっけか?」


 さっき見た先生の動きを思い出しながら、モーションを始める。

 左手を胸に当てると、足元に魔法陣が浮かび上がる。

 それを確認してから手を挙げ、勢いよく振り下ろす。

 魔法陣は青く光り、同時に俺の体も光り出す。

 その眩しさに思わず目を瞑った。


 数秒すると光は消えていくのが分かり、ゆっくりと目を開ける。


 膝辺りまで伸びた紺色のコート。

 深海のような暗い青に染められた少し緩めのズボン。

 動きやすいようにだろうか、ところどころに帯が巻かれている。

 心なしか髪もいっそう青くなっているように感じる。

 

 全身が青色の服に包まれていて、さっきまで着ていたグレーのブレザーは跡形も無くなっていた。

 そして体が軽く、視界が広がったような気がする。その不思議な感覚は、ただ服装が変わっただけではないということを物語っていた。


「へぇ、お前の転身、ちょっとかっこいいな」

「へあっ!?」


 いきなり話しかけられ、思わず声を上げる。


「なんだ透か、びっくりさせんなよ」

「いやぁ、自分が転身したら今度は周りが気になるもんだろ?」


 透の姿は、ボロボロの黒いマントで覆われていた。

 靴は機械で出来ているのか、ラインが入った金属製だ。

 額には緑色のバンダナが巻かれており、その上から黒い前髪がぴょんと出ている。

 本人の明るい性格とはまるで似合わない暗い雰囲気を感じ、違和感を覚えた。透が近づいているのに気づかなかったのはそのせいだろう。


 未だに落ち着かない心臓を宥めていると、舞台上の先生の声が響く。


「よーし、全員転身できたな。それじゃあお前ら班でまとまれ。これから班の奴らと自己紹介をし合ってもらう。これから共に戦っていく仲間だからな、それぞれ自分の魔術も説明しろよ。あとはまぁ適当にやれ」


 相変わらず雑な説明だなと、誰もが思っただろう。

 再び手を叩く音が響き、生徒が一斉に動き出す。そして体育館の所々に、五人ずつの班ができ始める。

 俺と透も他の三人を探すべく、辺りを見渡す。


「あっ!いたいたぁ〜!もう、遅いよ二人とも〜!」


 甲高い声に振り向くと、白髪のポニーテールをぴょこぴょこ跳ねさせながらこちらに走ってくる女子生徒がいるのが見えた。

 大きな赤いリボンが特徴的だが、ぴょんぴょん飛び跳ねているため、それよりも下に視線がそれてしまう。

 大きい。


「みんな待ってるんだよぉ!早く早く!にゃはは〜」

「ちょっ!」


 眩しく笑いながら俺の手を勢いよく引っ張る女子の先には、黒いフードに顔を隠す少女と、鎧を着込んだ丸顔の青年が立っている。


 その二人と合流し、五人が集まった。

 お互いに顔が見えるよう、自然と円状に立っていた。

 それぞれの顔を見合い、これから一年間一緒に過ごすチームメイトを見定める。


「なんだ、三人はもう集まってたんだねぇ」


 後ろから透が呑気にいう。こいつには緊張感が微塵も見えない。だから頼もしいとも言えるが。

 俺と目が合うと、どうぞというように手を向ける。

 他の三人は、こちらを見て何かを待っている様子だ。

 番号順で一から五番の班である以上、俺から始めるのが普通ということだろう。


「えっと、それじゃあ早速自己紹介するよ」


 四人の視線が向けられる。

 さっきの失敗もあるし、もう印象下げられないだろう。全く嫌になってくる。


「出席番号一番、碧岐ジュンです。魔術は、えっと……」


 言葉を濁す俺に四人は容赦なく視線を突き刺す。

 無言の圧が重い。このまま言わない訳には、流石に行かない。


「俺の魔術は、"龍星"。物質操作魔術、だと思う」

「思う?」


 聞き返されるのは当然だ。

 先のことがあったし、ここは正直に言うことにしよう。


「えっと、実は、自分でもよく分からないんだ。確立した時も大した説明はなくて。

言われたのは"龍星"という名前と、恐らく物質操作魔術だということだけで。

だからこのくらいの自己紹介しか出来なくて……」


 このどうしようもなく微妙な空気を何とか出来ないかと、隣に立つ透にちらっと視線を送る。

 俺の視線に気づいた透は、わかりやすく困った顔をした後に手を上げた。


「ま、まぁ分からないものはしょうがないわな!ということで、次は俺の番!」


 グッジョブ。後は任せたぜ相棒。


「出席番号二番、烏間透。魔術は身体変化魔術で、"魔性鴉(ましょうからす)"だっけか。体を鳥に変化させるやつらしい。

こんな真っ黒でボロっちいマント着てるけど、性格はもっと派手なんで、よろしく!」


 パチパチとまばらな拍手が贈られ、「どーもどーも」と照れくさそうに頭を下げる。

 この場の進行は透にまかせてよさそうだ。


「そんじゃ、俺の次は〜……」


 透が動きを止める。

 どうしたのかと同じ方向に目を向けると、さっき俺の手を引っ張ってきたポニーテールの少女の後ろ。


 インクを被ったような黒い服装。

 ズボンはこれまた動きづらそうなダボダボの左側と、右側は反対に短くなっている。ニーハイソックスを履いた脚がスラッと伸びており、すぐに折れてしまいそうなほど細い。

 身長は145cmくらいだろうか?かなり小さな体で所々に見える肌は白い。まるで人形のようだ。

 が、猫耳を揺らすフードの奥。金色にキラリと光る目の存在感が、命が宿っていることを物語っている。

 全身黒ずくめの少女はじっとこちらを見つめ、動こうとしない。


「えっと、俺に何か?」


 そう声をかけるとビクッと驚いた様子で姿を隠し、またこちらを見つめる。

 俺この子に何かしたっけ?思い当たる節はないんだけど……ないよな?


 過去を思い返しながら唸る俺の思考を読み取ったのか、黒ずくめの少女ではなく、絶賛少女の盾となっている白髪ポニーテールの女子が口を開く。


「あぁ、ごめんね。この子極度の人見知りなんだよ。代わりに私が紹介していい?」


 彼女の言葉に、俺は透と目を合わせる。

 どちらにせよ、この状況ではそうするしかなさそうだ。


「君はその子の知り合いなんですか?」


 そう質問したのは、顔以外の全身が銅色の鎧に包まれた丸顔の青年だ。

 一つ一つのパーツの縁が黒く塗装されている鎧は、体を動かす度にカシャカシャと音をたてた。

 身長も高く、男子の中でも頭一つ抜けている。

 体は隙間なく鎧に包まれているが、その上からも体付きの良さが伺える。

 どっしりとした体型の反面、柔らかな顔と緩く垂れた目からは圧は感じられず、優しい雰囲気に思える。


「知り合い、というか幼なじみなんだよ〜。昔から一緒にいるから、この子の紹介なんてちょちょいのちょい!安心してまかせていいよ〜」


 と、彼女は黒と白に彩られた胸当てにトンと拳をあて、えっへんと言わんばかりのドヤ顔を浮かべる。大して凄いことのようには感じないが。


「この子は出席番号三番、黒野淋音(くろのりんね)。魔術は身体強化魔術で、俊敏性強化だよ。全身黒い服装で話すのも苦手で、近寄りづらいとは思うけど、仲良くしてあげてね〜」


 よろしくと言うように黒野は小さく頭を下げた。

 それに答えるように俺も小さくお辞儀をする。

 その瞬間黒野と目が合い、速攻目をそらされたのは、なかったことにしておこう。俺がちょっと傷つくから。


「えっと、それじゃあ次は僕の番、だよね」


 そう言って前に出てきたのは、さっきの丸顔の青年だ。

 彼は少し気難しそうな顔を浮かべたあと、軽く息を整えて自己紹介を始めた。


「出席番号四番の、佐倉剛(さくら つよし)です。物質操作魔術の地面操作っていう能力みたい、です。えっと、上手く戦える自信はないけど、よろしくお願いします」


 不安そうな顔をしながらぺこりと頭を下げる。

 性格は弱気だが、大柄の体格はとても弱そうに見えない。もっと自信を持っても良さそうに見えるが。


「それじゃあ次は私だね!」


 やけに通る声で意気揚々とグローブを着けた手をあげるのは、もちろん白ポニテである。

 大きな赤いリボンを揺らしながら、ワクワクが抑えきれないといった表情でこちらを見る。

 白い袖なしの服に、黒と白を基調とした胸当て。

 赤いスカートにも同色の鉄板がぶら下がっている。

 ブーツも金属製で、肘や膝にも防具が付けてある。剛ほどではないが、この子も防御力が高そうなイメージだ。

 大きく開いた口には、八重歯がちらりと見えた。



「私の名前は白井 恋(しらい れん)。赤いリボンがとってもキュートなかわいい女の子!魔術は身体強化魔術で、腕力強化だよ〜。まずは一年間、みんなよろしくね〜。にゃはは」


 と、そんな感じで、俺たちの班は五人全員の自己紹介を終えた。

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