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星(りゅう)の見上げた夢に  作者: AOINE
第一章 黒龍の王
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1話 第三国立魔法術士育成学園

 黒い雲に覆われ、光も射さない夜の森。


 僕は道無き道を、ただ一心不乱に走っていた。


 怒り、恐怖、後悔、孤独感、躊躇、屈辱、絶望。


 頭の中で台風のように動き回る感情が、一気に目から溢れ出す。


 嫌だ。イヤだ。いやだ。


 それでも足は止まらない。止まれない。


 復讐を夢見た一匹の龍は――




 ピピピピピ


 部屋に鳴り響く甲高い音に飛び起き、慌ててスマートフォンを手に取る。

 四月一日、朝七時。

 久しぶりにぐっすり眠れた満足感とは裏腹に、胸の中で突っかかるものを感じた。


「どんな夢だったかな……」


 その疑問が晴れることがないまま、俺は学園生活一日目の朝を迎えた。


 第三国立魔法術士育成学園、通称"第三魔学"。それが今日俺達が入学する学校の名前だ。

 魔法術士育成学園とは、その名の通り魔法術士を育成するために作られた学校だ。


 この世界の人間は、ある脅威に晒されている。

 "魔神"と呼ばれるそれは、この国の海を霧で覆い、そこから"ジャイアント"と呼ばれる魔人を送り出した。

 ジャイアントは人々を襲い、圧倒的なスピードで人類を絶滅の危機まで追い込んだ。

 急速に数を減らしていく人類をなんとかして救済しようとした神は、人類に二つの加護を与えた。


 それは"魔法"と"魔術"だ。


 人間の中に渦巻く"魔力"を用いて、様々な力に変える"魔法"。

 人間が生まれながら持つ"魔素"を、神が与えた"神聖石"によって増幅させ力に変える"魔術"。

 簡単に言えば、誰でも使えるのが魔法、それぞれ生まれつきで変わるのが魔術。


 その魔法と魔術を駆使して、魔神の脅威に対抗する戦力を構築するべく作られたのが、国立魔法術士育成学園だ。

 そしてその中でもここ第三学園は、海の近く、つまり最前線に位置する学園だ。

 実技の授業が多い他、学園内に研究所も併設されており、人類としても最先端に位置する学園になる。

 そのため学園は強力な結界で守られ、教師も実力派の精鋭が集まっている。

 そんなことからこの学園に通う生徒は卒業後も魔法術士の道を歩むことを夢見る生徒が多いのだ。


 そして、それは俺にも言えることだろう。


 内心で自分のことを軽く嘲笑いながら、階段を降りる。

 食堂は既に多くの生徒で賑わっていた。

 グループで固まって喋る女子や、食べ物で遊ぶ男子。中には一人で黙々と箸を進める生徒もいた。


 この学園の寮は、学年ごとに分かれている。

 一年生、二年生、三年生でそれぞれ寮が別になっているのだ。

 つまりどういうことかというと……


「一年生多すぎだろ」


 今この食堂にいる生徒は全員一年生なのだ。

 広い食堂に敷き詰められた生徒の数は、ざっと見ただけでも百人はいるであろう。こんな狭い空間に好んで入りたがるとは、人間というのは不思議な生き物だ。


 長い券売機の列に並び、洋食セットの券を買う。

 おばさんに挨拶をし、交換した料理を持って適当な席に座る。


 塩コショウが振られた目玉焼きと、こんがり焼けたベーコン。

 もう片方の皿にはバターロールとクロワッサンが一つずつ所狭しと乗っている。

 そしてほのかに香りを漂わすコーヒー。


 この寮に入ってからそう日にちは経っていないが、やはり和食よりも洋食の方が俺の口には合う。

 朝食を楽しんでいる俺の横から、唐突に声が投げかけられる。


「おっはー! 今日も美味しそうな食いっぷりですなぁ、碧岐ジュンくん?」


 嫌になるほど明るい声で俺の名前を呼ぶのは、烏間透(からすま とおる)。同じクラスの、番号が一つ後ろの男であり、寮では横の部屋になる。


「からかうのはやめてくれないか透。そんな大したことでもないんだから」

「大したことないことはないだろ! だって入学式で名前を呼ばれるのは八人しかいないんだぜ?」


 この学校は基本五人の班で行動する。

 一クラスに五人班が八つ、つまり四十人。一学年は八クラスの三百二十人となる。

 入学式では全員の名前を呼ぶ訳ではなく、各クラスから一名が代表になって名前を呼ばれるのだ。

つまり――


「出席番号が早いだけだろ? それに名前を呼ばれたことでどうってことないだろうし」

「なにいってんだよ! 先生達にアピールできるチャンスだぜ? ここいらで一つバシッとかませてやれば!」

「何をかますんだよ」


 そんな馬鹿げた会話をしながら、素晴らしい朝食を綺麗に平らげる。

 今日もいい朝食だった。ありがとう。

 そんな感謝を胸に手を合わせる。そんな俺の尊い貴重な時間を無駄にすべく横から一匹のカラスが語り出す。


「いやぁ、この学校に入ってきて正解だったよな。先輩にかわいい人多いし、今年の一年生も結構レベル高いしよ」


 知るか。そんなことよりお前は早くご飯食え。冷めた味噌汁が泣いてるぞ。


「特に三年の速見真歩先輩とかまじで神だよな。勉強もスポーツも出来て、おまけに綺麗で美しい! 生徒会長もやっていて、まさに第三魔学のスーパーアイドルっていうか……って、どうした? 鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」


 誰が鳩だ、なんてツッコミもないまま、2秒ほど沈黙。その後ようやく我に返ったかのように答える。


「お前、速見さ、先輩を知ってるのか!?」


 一瞬静まり返る食堂。

 そしてまた騒がしくなる中で、透は一人高笑いを上げる。


「あっははははは!速見先輩を知らないやつなんて居ないだろ!去年の魔学大会で全国優勝した今話題の先輩だぜ!学校案内にも載ってたろ?」


 学校案内なんて見てねぇよ、なんてことは言えず、「そうだったか?」と言って誤魔化す。

 それこそ、この学校に来る生徒で魔法述士学園大会を見てないやつなんて、そうそういるはずもないだろう。


 ……一部を除いては、だが。


 しかし速見先輩が全国大会で優勝するほどだったとは思わなかった。というかつい最近までそんな大会があること自体知らなかった。


「速見先輩って一体――」


キーンコーンカーンコーン


 チャイムと同時に周りの生徒が次々と立ち上がる。

 慌てて時計を見ると、ちょうど八時を指していた。そろそろ準備をし始めなければならない。


 透に「後で」と手を振り、食器を洗い場まで持っていき、水槽の中へ入れる。

 そうして食堂を後にして、部屋に戻る。……背中に感じた視線に気づかぬまま。


 ☆


 一言で言うなら、それは地獄だ。

 一体こんなことに何の意味があるというのだろう。

 すでに何人かは脱落しているようだ。

 しかし、俺はまだここで落ちるわけにはいかない。

 こんな――


 ただの学園長の話なんかで。


「……である。えー、つまり。えー、この学園というのは人々とのつながりを……」


 ほとんど同じことを繰り返しているだけじゃないか。というか「えー」が多すぎる。そろそろ新入生全員に一つずつ「えー」を配れるんじゃないか?どうせ透あたりが数えていると思うが。


 そんなこと考えていると横からとんと叩かれる。

 噂をすればなんとやらというやつか。今何回なのかでも伝えてくれるのか?


 横を見ると、そこには見事なまでに爆睡して俺に寄りかかる透がいた。


 そいつの横腹を肘でどつく。

「ヴェ!?」

 というよくわからない反応が生まれたのは、言うまでもない。


「……とさせていただきます」

 と、ここでようやく無限に続くかとも思えた学園長のスピーチが終わる。


「次は、生徒会長のお話です。生徒会長、速見真歩さん、お願いします」

「はい」

 その返事とともに、明らかに生徒の態度が一変する。

 いや、前から二列目なので後ろの生徒がどうなのかはわからないが。


「新入生の皆さん。ご入学、おめでとうございます。私は生徒会長の速見真歩です」

 これで透の言っていたことは真実となった。

 腰まで伸びたミルクコーヒー色の髪。高校三年生には見えない比較的小さな体格。

 間違いなく、速見真歩は生徒会長だ。


 そして、その話は学園長のそれとは比べ物にならないほど聞きやすかった。

 まとめられた文章、はきはきとした喋り方、張りのある声、すべてが学園長を勝っていた。

 続々と生徒が蘇るのも頷ける。聞きやすいことのほかに理由などないだろう。

読んでいただきありがとうございます。

まだ小説の書き方が不安定ですが、ご了承くださいませ。

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