本当の愛
嫌なことがあった。だから今日も夜の街に繰り出した。孤独はいつも、ワンナイトで紛らわす。本当の愛なんて俺は知らない。
今日はどんなコに声をかけようか。余裕の表情を作って街を歩けば、寂しい心の持ち主から声をかけてくることもあった。ネオンが人工的な光を放つ街。俺はすれ違う女を横目でチェックする。
瞬間、とびきりの魅力的な表情の女が目に飛び込んできた。この人に、しよう。
「今日は俺とどう?」
(嫌なこと、孤独、退屈を捨てて俺と夢をみようよ)
彼女は黙って俺について来た。
2人で居れば、誰にも止められないくらいの甘い時間になった。けれど、彼女は謎めいた目で俺を見つめる。自分をさらけ出そうとしない。
俺と同じように、嫌なこと、孤独、退屈を捨てるために街に出ているようだった。彼女のことを知りたかった。抱きしめてもわからないけど、全てを知りたかった。
(素直になって。ありのままの君でいいから。俺に全てを預けて)
今まで身体を重ねた女とは違う。心に火が付いたように、彼女に恋をした。しかし、これはワンナイト。恋心を抱くのはタブー。バレないように、彼女の本音を探る。
(もし君が俺を好きになったら、この恋はタブーじゃなくなるよね?)
ありきたりな毎日が変わる瞬間はいつ来るかわからないようだ。ちょっと彼女に仕掛けても、彼女は無邪気にかわす。今日は眠れそうもない。だから攻め込もう。心を伝えよう。
(秘密めいた君を守りたい。どんな未来も君と過ごしたい)
「一般論も客観視もいらないよ。君の声が聞きたいんだ」
彼女は俺に笑顔を向ける。だが彼女は本当のことを明かさない。
「君のことなんて興味ないよ」
そう言う彼女の目の奥を見つめる。嘘だとわかるくらいに目が泳いだ。俺と彼女の思いは交錯する。もうすぐ朝が来る。積もる期待とタイムリミット。この数時間で彼女を思う症状は深くなるばかりだ。
「俺は、君を好きだよ」
身体を重ねる。何度も確かめるように。たまに彼女は気まぐれに焦らす。ワンナイトの愛。それが一生の愛になるように。
待ってるくらいなら、もうここで決めてやる。俺の気持ちは変わらないから、彼女の全てが知りたいんだ。
(素直になって、ありのままの君でいい)
「君を、離さないよ」