2話:試験と結果
こんにちは。常識だと思っていたらそうではなかったとかよく聞きます。俺も上京したては地方ギャップに悩みました。
◇◇◇
巨大蟻との追いかけっこ開始から1時間が経った。とりあえずやれることはしてみた。
(加速つけてキィィィック!)蟻が躱して無駄だった。
(ジャャャァァンプ!)跳びすぎて蟻に喰われかけた。
(最果てまでダァァァァァシュ!!)30分直進しても眼前の風景が変わらないから諦めた。
(何か、何かないか!?ここはファンタジー的に何かあるだろ!!………ん?ファンタジー?)その閃きに任せて蟻に振り向いた。
(厨二病時代の知識だと、ファンタジー的にはマナを媒介にしイメージを具現化する魔法、原子を置換し物質を精製する錬金術、精霊から力を借り受け自然に働きかける精霊術があった。)
蟻はスタミナが尽きかけなのか勢いがない。今ならいろいろ試せる!
(魔法は………スタンダードに炎をイメージしよう。)手のひらが温かくなってきたので手を蟻の方に向けた。ジュポッ。………「うそーん。」と言うほど小さかった。
(錬金術は………原子理論知らないからパス!)
(精霊術は精霊との対話が必要だ。これは魔法みたいにそこにいるけど見えないものが見える。そんなイメージでどうだ!)
そして目を開けると、幻想世界が広がっていた。俺に話しかけようとする精霊。俺に力を流し込んでくれる精霊。踊る精霊にひそひそ話をする精霊。もちろん蟻を気遣う精霊もいる。
(はっ!ほおけてる場合か!これが精霊ならチビっこくて頼りないが話が通じるか試さねーと!)
「なぁ、精霊。俺の言葉が分かるか?」
「わかう〜。」
「お!ならさぁ、ここはどこであの蟻はなに?」
「ここぉ?ここは草原ってえいあで蟻さんは蟻さん!」
「ほお?じゃあ、なんで蟻さんは俺を追いかけてきたの?」
「めいえいだから?」
(えっと、まとめるとここは草原ってエリアであの蟻は命令で俺を追いかけてたのか。まぁ、喰おうとしてたの間違いだろ。そんで試験内容の推測はあの蟻をぶっ殺すことのような気もするが、もしそうではなく捕縛することなら厄介だし、精霊に頼むか。)
「なぁ、精霊さんよ。あの蟻もだいぶ弱ってるし、俺も疲れたからあの蟻を眠らせて草かなんかで軽く縛ってあげてくれない?」
「あーい!」
そんな会話が終わって一息ついたところでローブ野郎が出てきた。
「いやいや、面白い結果だったよ。賢者でありながら愚者でもあるなんて。まさしく君は人間だ。」
「あぁ!?あんたなに言ってんだ?俺は人間だ。そりゃあ、さっきまでの身体能力は人間っぽくはねーけどよ。つうかいろいろ説明しやがれ!説明不足は欠陥だぞ!」
「む?すまないねカズヤ。私はいわゆる神の使徒かな?ここの草原エリアで時々神の試験を行っている。」
「あー、神の試験とやらは自殺しようとした奴に行うってことか?ついでにここ以外のエリアもあってそこでも試験してるってこと?」
「正解だよ。さすがというべき思考回路だ。ついでにだがキミが気にした身体能力だがね。この世界では潜在能力を含めた全てが解放される。それで試験をクリア出来れば新世界が、不合格なら安らかな死が待っている。それだけだ。」
「なぁ、一応聞くけど………俺は合格者側?」
「当たり前だろう。その柔軟な思考。蟻からの敵意を感じ取り即断で逃げた対応力。そして、精霊術の使用。まさしく賢者だ。それ以外は愚者の行動が多いがな。」
「あぁん?」(愚者の行動ってなんだ?キィィィックとか無駄にやった行動か?うーん。どうにもこいつの真意が読めん。)
「さて、新世界への旅人カズヤよ。これから待ち受ける不条理をどう覆すか。楽しみにしてるよ。」
「はぁ?ちょっ、おい待て!まだいろいろ聞いてねーぞ!」
その言葉を最後に俺の意識は消えた。
最後の一瞬思ったのは「あのローブ野郎次会ったらぶん殴る!」だった。
◇◇◇
「さぁカズヤ。私の愛しいカズヤ。貴方はこの世界でどう人間として生きるのかしら?」