~1月~
会場は、ほとんどが女性だった。何人かでまとまり、また遠くに知り合いを見つけては手を振りながら近づき話し出す。その繰返しが会場のいたるところで行われていた。主催のスタッフが
時刻を確認し後方の2カ所の入り口に合図を送る。二重扉が静かに閉じられ、後方から光が消えた。ざわつきは次第に落ち着いていき、立って話し込んでいた者達は椅子に吸い込まれるように消えていった。いつのまにか司会者が舞台の端に立ち、スタンドマイクの高さを調整していた。司会者は、会場の視線が自分に集中した瞬間を逃すことなく会を始めることを宣言した。そしてこれから話す瞳子を簡単に紹介した。瞳子の話にも関係するので司会者は、紹介には気を遣う。瞳子は、一般人である。メディアに出ることもなく、インターネットで瞳子のことを調べても出てこない。瞳子の経験を参考にしたいという職業に就く会員のみが直接話を聴けるのだ。聞いた話は外部に漏らすことは禁じられている。司会者は、一呼吸置くと「瞳子さんです」と穏やかな声で紹介し、緞帳の影に消えていった。
会場全体の照明が更に落とされ舞台の中心に円形の柔らかい光が当てられた。かすかに足音がして、舞台の端からゆっくり円に向かう姿が見えた。光に包まれた時、瞳子ははっきり見えないであろう会場をぐるりと見渡した。それから上半身を90度、膝を若干緩めるように曲げて丁寧に挨拶をした。
「本日は、お越し下さいましてありがとうございます。ご紹介に預かりました瞳子と申します。」
瞳子は、目線を上げ、意を決したように笑顔で話し始めた。