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少女と傭兵  作者: 火猟蜂
初日
1/3

少女と傭兵

 とある日の昼下がり。辺りには瑞々しい果実、焼かれている肉などの、食欲が刺激される匂いが漂う中、俺は貴族の一家と仕事の話をしていた。

「そんな訳でして、私と妻はこれから地方へと仕事をしに行かなければなりません。その間、ベルガさんにはうちの娘の世話をして頂きたいのですよ。期間としては……そうですね。一ヶ月ほどで戻りますので、それまで。あなたを、腕利きの傭兵と知ってのお願いです」

 話を聞く限り、そんなに難しい話ではない。子供の世話をして欲しいなど、その辺の商人にだって出来る事であろう。チラリ、と。右斜め前に座る彼女。モカと呼ばれる少女に目を向ける。青みのかかったワンピースを身に纏い、姿勢よく座っている。が、よくよく見ればその視線は、色とりどりの果実を売り出している店を二度・三度と盗み見している。そんな自分の行動を見られていたのに気づいてか、少女は顔を少し赤くして俯いてしまった。

「あー。別に引き受けるのは構わないですけど、大事な愛娘を俺みたいな男に預けてしまっていいんですか?万が一って事もあるかもしれませんよ?」

「そんな風に聞く時点で、その気が無いって事ぐらい判りますよ。」

モカの父親は笑って言ってみせた。本気で、俺が手を出すとは微塵も思っていないようである。母親の方に顔を向けると、微笑むばかりであった。子供に手を出す気は微塵もないが、誤解を生むような行動には気を付けるとしよう。

「依頼、承りました。報酬は後日、お二方が戻りしだい話しましょう。」

「ありがとうございます。一ヶ月の間、娘をよろしくお願いします。では、また一ヶ月後に」

 そう言った後、モカの両親はこちらにお辞儀をして、近くに止まらせていた馬車に乗って移動を始めた。


 馬車が見えなくなり、ため息が自然と零れた。視線をモカに向けると、彼女はまた市場を何度か盗み見ていた。

「そんなに市場が珍しいのかい?」

「あ、えと。はい。今日、初めて来ました」

 急に話しかけられたせいか、彼女は少々焦り気味だった。いや、単に市場を見ていた事がまた見つかって、バツが悪いだけかもしれない。現にモカは、顔を赤くして、恥ずかししがっていた。

「すみません。私、あまり外に出たことがなくて。こういった市場?も初めて見ました。今年で十五になるのに、お恥ずかしい限りです」

「外に出れなかったのは貴族の娘だから?」

「いえ。父様と母様は私の自由にしていいと言ってくれています。家のことなんて気にしなくていいと。でも、跡継ぎは私しかおりませんので。私が、頑張らなきゃダメなんです」

 そう言った彼女の目はどこか輝いて見える。本当に、自身がやりたくてやろうとしているのだろう。そんな風に考察していると。ぐぅぅ。と可愛らしい音がなった。モカは声にならない声を出して、先ほどまでとは比べ物にならない程に顔を赤くして俯いた。その顔はまるで苺のように真っ赤で、耳まで朱に染まっていた。

「え、えと。、ち、違うんです。あ、あの。い、今のはですね」

 俯いているのと羞恥心のせいか、その声はとても小さく細い。自身の夢を話している最中に起きたことだから尚更バツが悪いのだろう。さらに小さな声で、なにやら呟いているがあまりにも小さくて、聞き取ることは出来ない。

「まぁ、あんまり気にすんなよ。お腹が空けば誰だってそうなるさ」

「うぅ。ですから、違うんです。今のは、そうです。気のせい、です」

 自分で言ってて苦しいと思ったのか、最後ら辺はかなり弱弱しかった。彼女は少しだけ顔を上げ、こちらを見つめてきた。たれ目気味のその端に涙を浮かべ、ジッと。

「どうした?俺の顔に何かついてるか?」

「あ、いえ。すみません。傭兵さんと聞いていたので、もっと怖い人を想像していたんです。顔や体中傷だらけとか、入れ墨を入れているとか。でも、あなたにはそれが無くて。……本当に傭兵さんなんですか?」

 酷い言われようだった。というか、この娘の傭兵という職業に対する知識が前時代的すぎる。確かに十数年前までは碌な装備も規則も無かったから、怪我をする者、死んでいく者は大勢いた。しかし、技術が発展した今、消えない傷を負うものなんて、ほんの僅かである。入れ墨だって、正式に傭兵組合が出来てからは入れ墨は禁止されている。そんな風に思っていた俺の顔を見て、モカは失言をしたと勘違いをしたのか、何か言おうとして、再びお腹から音が響いた。

「せっかくだから何か食べていくか。ここなら大体の物はそろってるし」

再び顔を赤くして頷くモカ。真っ赤に染まった顔はまるでトマトのように赤かった。


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