83話 種族の壁
前回のあらすじ。
神器になりすまそうと思ったら、アリスが馬鹿正直に本当のことを話していた。
「「合……成……魔」」
2人は声を揃えてその単語を呟く。
その声は震えていた。
「それで……、一体何が望みだ?」
「お願い!! 娘を返して!!」
友好的だった態度は何処へやら、2人から向けられる視線は、化け物を、嫌悪の対象を見るそれだった。
うん、わかってた。こうなる事くらい。
アリスの両親にとって俺は、命の恩人から恐怖の対象へとジョブチェンジしていたようだ。
「兄さんはそんな人じゃ無い!!」
両親の心無い態度に、アリスは怒りを露わにする。
「アリスは騙されているんだ!!」
「そうよ! そいつは魔物、しかもあの伝説の化け物!! そんなのが良い存在なわけが無いでしょ!?」
アリスの両親の中で、俺がアリスを騙している事と言うことになっている。
ひどい風評被害だ。
『アリス、諦めろ。これが普通の反応だから。しゃーないしゃーない』
良い人達と聞いていたし、命の恩人なのだから、もしかしたら? と思っていたがやはり無理だったようだ。
まぁ、自分たちの敵である魔物に優しくするとか、頭沸いてるとしか思えない。
何度も自分の命を狙っていた相手を見逃しているのは、どこのどいつだよというツッコミは無い。
『兄さんまでそんな事を……』
アリスの両親がアリスに近寄る。
そして、髪留め(俺)を掴み、思いっきり投げ捨てた。
俺が離れたことによる、アリスの装備強制解除を回避する為、ささっと普通の装備を着せておく俺長紳士。
それにしても、伝説の魔物を鷲掴みにして投げ飛ばすとか……ずいぶん肝が座っている両親だ。
それか、アリスの事を余程大切に思っていると言うことだろう。
「兄さん!!」
アリスが、投げ捨てられた髪留めもとい、俺を回収する為に駆け寄ろうとするが、
「アリス!! 行ってはダメだ!!」
「お願い!! いい子だから言う事聞いて……」
2人が止めに入る。
「お父さん達がそんな人だったなんて!! もう帰って!!」
突然アリスの両親の下に魔法陣が現れ、そのまま2人を連れ去った。
「え、何やっちゃってるの!?」
やっと会えた最愛の両親を、いきなりどこかへ転送させると言う状況に理解が追いつかない。
「だって!! 私の大切な兄さんに、あんな酷いことをするから!!」
そう答えるアリスの目には、涙が溜まっていた。
はぁ、勢いでやっちゃったと言った感じか……。
「ありがとな。俺の代わりに怒ってくれて」
アリスの頭を優しく撫でておいた。
………
……
…
「落ち着いたか?」
アリスを落ち着かせるのに、かなり時間を要した。
「……グスッ……はい……」
「あーあー、もうそんな顔すんな。ちゃんと謝れば、お父さんもお母さんも許してくれるから。帰ったら謝るんだぞ?」
布を取り出し、涙を拭いてやる。
「………ません……」
アリスがポツリと呟くが、声が小さすぎて聞こえたかった。
「??」
「帰りません!!」
そんなことを言い出した。
え? この子帰らないって言った?
「もう一回?」
聞き間違いかもしれないし、聞き直す。
「家には帰らないと言ったんです!」
どうやら、聞き間違いでは無かったようだ。
「いやいやいやいや、せっかく両親助けたんだよ!? 帰る場所を取り戻したんだよ?!」
「兄さんが一緒に帰るなら……」
「行くわけねぇだろ! あの嫌われ具合で、受け入れてもらえるとは思えないし、お前の家がパニックになるわ!」
予想外の提案に、思わずツッコミを入れる。
「でも! 一緒にいてくれるって言いました!」
過去の約束を持ってくるが、
「引き取り先が見つかるまでって条件付けただろうが!!」
「じゃあ、私の目標、奴隷商人を無くす、その達成まで! それまで一緒にいてください!」
「知らんがな! 証拠も色々あるし、両親と一緒に達成してくれ!!」
アリスの両親は貴族なのだ。
一魔物の俺がやるよりも遥かに影響力がある。
「お願いします!」
ズイっと寄ってきて、上目遣いでお願いしてくる。
無理なものは無理。
それに、この子の為を考えると、少しでも早く俺と別れたほうがいい。
アリスの両親の反応を見て、改めてそう思った。
この子の人生に、俺は要らない。
断固拒否しよう、そうと思っていたら、
「それは困るのです!」
俺の声でも、アリスの声でも無い声が聞こえた。
その声の主を見る。
そこには、場違いのローブを着た、銀髪紫目の美少女が2人いた。
そう言えば、『やって欲しいことがある』って言ってたな。
「えっと、一体どういうこと?」
大体予想はつくけど、一応聞いておく。
「盟友なら、大体予想はついていると思いますが……」
美少女の内の1人、背が高く、美少女と言うよりは、美女にカテゴライズされるであろうその人、トーリウルスがそう呟いた。
「まぁ、そうなんだけど。つか、盟友って……、アリスいるけど隠さなくていいのかよ?」
合成魔と女神が、実は友人関係だった、なんて知られたら困るだろうなと思い、こちらが他人のふりをしようとしたと言うのに……。
「その子の中にある盟友の印象は、かなり良さそうですし、その子が周りに言いふらさなければ良いだけの話です」
トールは、きっぱりそう言い切った。
「兄さんの知り合い? 盟友? トール?」
アリスは、気配もなく、突然現れた2人を見て混乱しているようだった。
「そうなのです! 私の名前はユーストレイア。ひーちゃんのお友達なのです!」
「私の名前はトーリウルスです。わかりやすく説明するなら、創造と破壊を司る神です」
「ユーストレイア…………トーリウルス…………。えええええええええええええ!!!」
ようやく現状が理解できたのか、アリスの叫び声が広間中に響いた。
………
……
…
「それで、この際、元老院や悪徳貴族、奴隷商人もろとも滅ぼして欲しいってこと?」
レイア達の話を要約すると、
権限の悪用が多発しており、ずっと気になっていた。
特に元老院議長がよからぬ事を企んでいて、その企みはかなり進んでしまっているらしい。
そして、悪事を働いていた決定的な証拠を持ち、尚且つそこそこな戦闘力を持つ俺たちが、阻止する役目として抜擢されたとの事。
「うへ〜、表舞台とか出たく無い」
俺とアリスにつながりがある、と言う事が広まらない為に、早めに別れようとしているのに、先陣切って正義のヒーロー役とか、目立つ目立つ。
「神様からのお願いです! これはやるしかありませんよ!!」
せめて、アリスが嫌がってくれれば断りようもあったのだが、当の本人はノリノリである。
「拒否権は?」
「ありませんよ?」
「ですよねー」
トールにバッサリと切られた。