81話 悲報:大逆転
「くそっ! こうなったら!」
勝てないと判断したのか、アコンプリスが未だ倒れている村人達の方に向かって走り出す。
人質を取るつもりだろう。
まぁ、もちろん……。
「させません!」
アコンプリスがたどり着く前に、転移魔法が発動した。
ちなみに、転送先はスタツ遺跡外。
村人を掴もうとしていた手は宙を掻き、ガラ空きになっていた背中から、アリスに真っ二つに切り裂かれた。
「ぐがぁああぁああ!! 何で! 何で魔力の回収ができない!! 大体、どうして攻撃が当たるんだ!!」
アリスから距離を取りつつ、喚き散らす。
「そういうスキルです」
アリスは、律儀に答えつつも攻撃を止める様子はない。
「ちょ、お前容赦なさ過ぎだろ!! 俺がお前に何したってんだよ!?」
完全に負けを悟ったのか、アホな疑問をぶつけてきた。
「親の仇に情けをかける訳ないじゃないですか」
自分のした事を覚えていない。その事実はアリスの静かに燃える殺意に油を注いでいた。
「親の仇……。ははっ、そっか! そうだよ! 初めからこうしていれば良かったんだよ!」
完全に頭がおかしくなったのか、突然笑いながらそんな事を言い始めた。
「もうお前は、俺に手は出せない!」
どうやら完全に頭がやられたようだ。
「見てて痛々しいです。トドメを刺してあげます!」
アリスが剣を構えると、
「ちょ、ちょっと待てよ!? 俺を殺したら、こいつらが助からないぜ?」
アコンプリスが手を突き出すと、その先に魔法陣が現れた。
そこには、ホログラムのように映っている2人の人影があった。
アコンプリスを睨みつけていたアリスの目が、信じられないものを見ているかのように見開かれる。
「ほら、どうなっても良いのかな? 君の大切なお父様とお母様が!」
アコンプリス曰く、その2人はアリスの両親らしい。
アリスの反応を見ても間違いないだろう。
「今助けます!!」
魔法陣に駆け寄り、【対魔法攻撃】を使い2人を助けようとするが、
「2人はここにはいないよ〜、さっきは何かのスキルで、俺っちの【異次元牢獄】を破ったようだけど、ここに無いものは干渉のしようがないよね〜?」
一番ダメな人質取られたな。
アコンプリスの表情からは、『勝利を確信している』と見て取れる……と言うか、完全に態度に出ている。
『ごめんなさい……』
そう念話で送られてきたアリスの声は、弱々しいものだった。
『私が調子に乗ったせいで……こんな……』
どうやらこの事態に陥った原因は、全て自分にあるとでも思っているのだろう。
『相手を挑発しろって言ったのは俺だし、遅かれ早かれ人質は出してきただろう。むしろ、あのまま何も知らず、両親も殺しちゃうよりは良かったと思うぞ?』
励ましで嘘を言ったつもりはない。
調子にせず、アコンプリスが冷静だったら、この人質をあっさりと出してきて、結果は同じだった。
それに、もし能力制限した後、鬼の勢いで倒していたら、両親の生存を知らずに親殺しをしていたかもしれない。
『たらればの話より、今からどうするか考えよう』
無理やりプラスに考える。
マイナスに考えようとすれば、いくらでも想像ができてしまうから……。
《アリスの両親が生きていた》それはかなり朗報だ。
《無自覚に親殺しをしていた》なんて事態も回避した。
ただ、アリスの両親はまだ生きていると言うだけであって、助ける目処は立っていない。
それに、このままアコンプリスを倒すとなったら、自覚した状態で親殺しをさせる事になる。
こんな事なら、無自覚に倒してしまった方が良かった……。
『そんな事はありません。お父さんとお母さんが生きている事を知れて、私は嬉しかったです』
俺の考えが伝わっていたのか、そんな返事が返ってきた。
『でも……』
『それに、まだ助けられないと決まった訳ではないですから……』
そう無理やり微笑むアリスを、見てはいられなかった。
「で? そっちの要求は何だ? どうしたら2人を解放する?」
1%も可能性があるとは思えない、だけど、アリスが諦めてないのだ。
俺も諦める訳にはいかないだろう、そう思えた。
「話が早くて助かるよ〜。俺っちの要求は単純且つ明確! 俺っちにかけているスキルの解除、これだけ! 後は、この場は見逃してくれると助かるよね〜」
アコンプリスは、戯けたように条件を提示してきた。
『どうする?』
アリスの両親の生死がかかっているのだ。アリスに決めさせるべきだろう。
『…………』
すぐに返事はなかった。
当然だ。アコンプリスが約束を守る保証がない。【制限魔法】を解除した瞬間、こちらを攻撃して来る可能性がある。
もし守ったとしても、これだけの力の持ち主だ。後から攻め込まれたら正直勝てる気がしない。
今回も、向こうが油断していたらから【制限魔法】が使えたわけだし、初めから本気で攻撃してきていたら、アリスを守りきるのは至難の技だっただろう。
「俺っちは寛大だからね〜。3分間くらい待ってあげるよ〜」
アコンプリスが、どこぞの大佐みたいな事を言っているが、今は無視だ。
両親を取るか領民を取るか、10歳を超えたばかりの子供に選ばせる選択肢じゃない。
『どっちを選ぶも君達の自由だけど〜。俺っち的には、解除してくれれば俺っちも嬉しい、両親が解放されて君も嬉しい。WinWinの交渉だし、迷う事はないと思うけどな〜』
『解除された後、お前が両親を解放するという確信が持てないのは置いといて、解放された後、ラントヴィルト家とその領民、領地に手を出さないって約束できるか?』
もしかしたら、本当に助かりたいだけで復讐心は残ってないかも。
アリスには多少のモヤモヤが残るかもしれないが、アコンプリスに復讐の意思がないのなら、一番いい選択肢にも思えたが……。
アコンプリスは、ニッと笑うだけだった。
うん、絶対に復讐に来ると確信が持てた。
《返事はしてないから嘘は吐いてないZE☆》ってやつだろう。
『絶対復讐しにきますね……』
アリスも相手の反応の意味が取れたらしい。
察しの良い11歳だ。ラントヴィルト家の未来は明るい。
そんな事より、何か打開策は無いものか……。
【異次元牢獄】は、術者のスキルレベルより高ければ干渉できる。
だが、【異次元牢獄】持ちの知り合いなんていない。と言うか、知り合い自体ほとんど居ないな。
アリスは【劣化模倣】のお陰で、習得してはいるがスキルレベルは1だ。
レイアやトールなら、何とかできるだろうが、あまり頼り過ぎるのも良く無いし、最終手段くらいに考えておこう。
…………アコンプリスを【吸収】すれば俺も使えるようになるじゃん?
しかも、アコンプリスは俺よりレベルが高い。
【吸収】の隠しボーナスでレベルが上がる事は間違いないし、レベルが上がればSPは全回復する。
俺の有り余るSPを注ぎ込めば、スキルレベルも上がるだろう。
おっと? なかなか悪く無い案が出てきてしまったではないか!
ただ、アコンプリスも言っていた通り、術者が死ねば牢獄は消滅する。中に居る人もついでに消滅するおまけ付き。
この消滅にどれだけ時間がかかるかが決め手だろう。
うん、完全に博打!
アリスが《アコンプリス討伐》を選んだら実践しよう。