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80話 持つものの弱さ



「はぁ、はぁ……」


自分だけ避けるのと、他人を守る為に動くのでは、体力の消費量は桁違いだった。


「凄いね〜、俺っちが持ってた人間全員を出したから、1人くらい守り切れないと思ったけど……」


「悪魔に褒められても……嬉しくない……です」


「ははっ、強がっちゃって〜。辛いでしょ? キツイでしょ? もう楽にしてあげるよ」


アコンプリスが手を挙げると、空間を埋め尽くすような、大量の魔法陣が現れた。


「これだけの数、さすがに捌き切るのは至難の技だよ〜。どうする? 未来の領主様?」


《未来の領主様》。


これは、私が村人達を守るという選択肢を選ぶ、と予想しての発言だろう。


これだけ膨大な数の魔法陣から、あの氷塊が現れるなら、全員を守りきるのは無理だ。村人だけじゃない、私が1人でも多く守ろうと無茶すれば、それだけ自分の生存率は下がっていく。


自分の守るべき領民全てを救うことはできない。


それどころか、自分の生死すら怪しい。


自分だけ逃げれば、自分は助かるが、領主の娘としての意地が……、ラントヴィルト家の者との意地が、そんな選択肢を選ばせることはない。


正直、かなり絶望的な状況だ。


しかし、アリスには希望があった。


今さっき、『終わった』と報告をしてきた、一緒にいた期間は短いものの、自分が絶対的信頼を置いている者。


「私1人で守り切るのは不可能です。でも……兄さん、お願いします」


「俺のどこをどう見たら、そんな信頼できるのか……。まぁ、期待に応えれるよう頑張るけど!!」


その存在は、自分の心の中の独り言に、苦笑いをしながらも、そう返事をしてくれた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



アコンプリスの出現させた魔法陣が、作動する事はなかった。


「っ!? なんで発動しない!?」


信じられないとばかりに、手を前に突き出し、魔法を発動させようとするが……。


『うん、発動する訳ないよね』


【制限魔法】は、レベル5まで育ったので、取り敢えず、【魔法攻撃耐性】【転移魔法】【氷大魔法】【魔法付与】【認識妨害魔法】【防御結界】【魔力回収】【人化】は使用不可にしておいた。


『一体何をしたんですか?』


何も知らないアリスには、突然アコンプリスが魔法が使えなくなったように見えたのだろう。


『【制限魔法】を使って、スキルを使えなくした。もうこれで、あいつは氷塊を飛ばすことはできない』


『さすが兄さん!』


アリスが惜しみ無く称賛の声を上げる。


『おう、もっと褒めても良いんだぜ?』


2人で盛り上がっていると、


「な、テメェ! 俺様に一体何をしやがった!!」


そう怒鳴るアコンプリスからは、さっきまでの余裕の表情はとうに失せていた。


『ほぼ無力化したとは言え、万が一がある。冷静な判断をさせない為にも、煽る感じでいこう』


『わかりました』


顔には一切出さず、返事を返すあたり、この子はきっと大物になるだろう。


「無視すんじゃねーよ!! 俺様に何をしやがった!?」


一方、質問の答えが返ってこないアコンプリスは、完全にご立腹である。


もうこれ、何もしなくても冷静じゃないだろ、とも思ったが、


「あれ?『俺っち』じゃないんですか?」


アリスが煽りを開始した。


まぁ、ステータスは魔法攻撃寄り、その魔法が使えない悪魔になんて、負ける気がしないんだが……。


「ンだと?! 舐めやがって!」


簡単に挑発に乗ってくる。


「優勢な時は調子に乗って、自分の思い通りにならなくなった途端、ブチ切れるとか……幼児ですか?」


全くその通りだ。


うちの義妹なんて、まだ11歳なのに、親の仇を前にしても、ここまで冷静でいる事が出来てるって言うのに……、


さっきから挑発の手を止める様子がないのだが、これ、冷静なのかな?


「……人間如きが俺様を馬鹿にするとか…………。ハ、ハハッ、俺っちは優しいからな。全裸で土下座して『大変申し訳ございませんでした。何でもしますから許して下さい』って許しを請うなら、許してあげない事もないよ」


初めは、怒りに任せて怒鳴り散らしていたが、どうやら【異次元牢獄】が制限を受けてない事に気が付いたのか、少し余裕を取り戻したようだ。


その証拠に、一人称が『俺っち』に戻っている。


「おいアリス、あいつがお前の裸を見たいらしいぞ?」


「うわぁ、こんな幼い女の子の身体に興味があるんですか? 変態ですね」


アリスが軽蔑の視線を送る。


「へぇ〜、せっかく助かるチャンスをあげたのに……。もう死んだね〜。お前らもう死んだね!!」


挑発が効いたのか、青筋を立て、無理やり笑顔を作っているのが見て取れる。


「一生出れない牢獄の中で、さっきの舐めた態度を後悔してな!」


どうやら【異次元牢獄】を使うようだ。と言うか……


『自分で次やる事を教えちゃってんじゃねーか……』


耐え切れなくなって、思わずツッコミを入れた。


『冷静な様に振舞ってますが、内心は全然違うようですね……』


『それか、【異次元牢獄】に絶対的な自信があるんだろうな』


まぁ、その気持ちは分からなくもない。


【異次元牢獄】は禁忌魔法と呼ばれる【異次元監獄】の下位互換。


脱出、もしくは救出するには、それを作った時よりも強い力、つまり作った者のスキルレベルより高いレベルで干渉しなくてはいけない。


だが、そもそも禁忌魔法は保有している者が圧倒的に少ない。


発動されて仕舞えば、助かる事は実質的に不可能と言えるだろう。


『危険なスキルなんですね……逃げますか?』


『いや、そのままで大丈夫。だって……』


【異次元牢獄】が発動したのか、自分の真下に四畳半位の大きさの魔法陣が出現する。


『発動がわかりやすい上に、時間がかかるらしいから』


異次元に閉じ込められる前に、床の魔方陣目掛けて、【対魔力攻撃】の乗った鉄剣を突き立てた。


そう、【異次元牢獄】は、効果範囲が狭い上に発動が遅い。そして、何よりわかりやすいのだ。


魔法陣発生から、牢獄完成まで1分ちょっとかかるらしい。


しかも範囲は四畳半。


そして、魔法陣は一回発動したら牢獄完成まで移動出来ない。


相手が気絶、睡眠中じゃなければ、まず使えない。


魔法陣は、剣が突き刺さった所から崩壊を起こし、【異次元牢獄】が発動する事はなかった。


「…………」


自分のとっておきが、全く通用しなかったせいか、アコンプリスは固まっていた。


「敵ながら、哀れに見えてきました」


アリスの相手を見る視線が、憎しみから可哀想なものを見る目に変わっていた。


「くそがぁああ!! 俺様は悪魔だぞ!? 魔法がなくても人間如きに負ける訳ないんだよ!!」


スキルを使うのやめ、物理攻撃に転じて襲いかかってきた。


確かに悪魔は人間よりステータスが高い。


スキルも強力な者が多い。


ただ、そう言った才能を初めから持っている生物は……弱い。


「私も達人ではありませんが、動きは完全に素人。才能に頼り過ぎていたツケが回ってきましたね」


アコンプリスの大振りな攻撃は、アリスにあっさり避けられ、そのまま胴体を真っ二つに切られた。


切り離された下半身が霧散する。


今の一撃で、アコンプリスのHPの半分近くが削られていた。


身内贔屓かも知れないが、スキルの使用方法を試行錯誤し、レベ上げを必死に頑張ってきたアリスの動きはかなり良いと思う。


多分、合成魔の装備補正がなくても、もう勝ちは確定した。


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