79話 1人でも戦える
その手紙には、
ラントヴィルト家の使用人と、今回餌食となった村人の総人口の7割と引き換えに、
アリスの両親であるラントヴィルト夫妻の処刑と、その娘に魔法をかけて欲しい。と言うことが書かれていた。
魔法とは、あの文字化けの事だろうか。
それにしても、こいつ、やたら知った口をきくと思ったら、がっつり関係者だった様だ。
そして、こいつが渡した手紙によって、アリスは自分の両親はもう居ないということを知ってしまった。
「なるほど、あっさり渡すと思ったら、こうなる事を予想してって事か?」
悪魔アコンプリスにそう尋ねる。
「ご明察! 生きていると信じてた両親の死が確定しただけじゃなく、王国のお偉いさん達の、クソみたいな自分の欲望のためだけに殺された事実を知った時、彼女はどう反応してくれるのか、と楽しみにしていたんだけど……予想以上に最高の反応だったよ〜!」
予想通り、ひどい答えが返ってきた。
「全く……楽に死なせて貰えると思うなよ?」
装備状態から下級兵士に変身し、悪魔を睨みつける。
「おお、怖い怖い。初めは喋る装備かと思ってたけど、そんなこともできるんだね〜。その子潰したら、俺っちが飼ってやるよ」
どうやら、アリスは殺すつもりらしい。
なるほど、初めから消すつもりだったから、あんなにベラベラと喋ってたのか。
「何始める前から勝利宣言してんだよ。潰されるのはてめぇだ」
急いで、《魔法軽減の首飾り》と《脱出用転位魔法陣》、ついでにさっきの手紙を【吸収】する。
【魔法攻撃大耐性Lv.5】と【転移魔法Lv.4】、【制限魔法Lv.3】を手に入れた。
どうやら、脱出用の為だけに作られた魔方陣ではなく、転移魔法陣を【制限魔法】の力で固定させていただけの様だ。
悪魔系は【対魔力攻撃】の独壇場らしいからな。
すべての攻撃に、このスキルを上乗せしてやる。
臨戦態勢に入ろうとしたところで、
「私も……戦います」
泣き崩れていたアリスが、未だに止まる気配の無い涙を袖で拭い、そう言ってきた。
「危ない……って言っても聞かないよな……。わかった。親の仇を討つ手伝いをさせてもらう事にするよ」
装備状態に戻り、アコンプリスに対峙する。
取り敢えず、まずは情報集めだ。
アコンプリスを【鑑定】する。
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名前: アコンプリス
種族:悪魔
危険度:B−
ステータス
Lv:270
HP:52.660
SP:52,660
ATK:8,900
MATK:20,321
DF:4,370
MDF:12.804
PS:不死身、物理攻撃無効、
魔法攻撃耐性Lv.4、異常状態無効、
魔力大操作Lv.8、
AS:転移魔法Lv.3、異次元牢獄Lv.5、
氷大魔法Lv.3、魔法付与Lv.4、
認識妨害魔法Lv.2、防御結界Lv.3、
魔力回収Lv.3、人化Lv.4
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魔法系か……、あまり相性は良くないな。
【検索】結果によると、悪魔族の体は魔力で出来ていて、物理攻撃の類は効かないとの事。
身体の欠損はMPを使って直せる為、MPが切れるまで生き続ける事ができる。
HPとMPが同じなのは、そこから来ているのだろう。
それにしても、あまりスキル持ってないんだな……。
攻撃魔法も【氷大魔法】しかないし、気を付けるべきなのは、【転移魔法】による逃亡と【異次元牢獄】と言う、異次元に人を閉じ込めるスキルだろう。
やはり、【制限魔法】の出番か。
【制限魔法】は相手の魔法やスキルを指定して、使用不可にする、又は効果を制限するスキルだ。
ただ、成功率が自分のスキルレベルと対象のスキルレベルに左右されるので、レベル3では期待できない。
【異次元牢獄】のスキルレベルが5なので、6まで上げるのが最良だが、そこまで上げるにはかなり時間を要する為、現実的ではない。
最低でも4までは上げたいな。
『アリス、少しやりたい事がある。それが終わるまで一人で凌げるか? 一応ピンチになったら助けるつもりだけど』
スキルレベルを効率的にあげるには、意識して使用するのが一番だ。
つまり、片手間にやろうとすると、どうしても上りが悪くなってしまう。
『別に、嫌なら嫌って言ってくれても良『やります!』
今までとは強さの格が違うし、怖がって断られても仕方がないと思っていたが、良い返事が返ってきた。
うん、勇ましい妹様だ。
『下手に追い詰めて、逃げられても困るし、回避するだけで良いからな』
『はい! 両親の仇です。逃すつもりはありません!』
素晴らしい返事だ。
アコンプリスの方はアリスに任せて、俺はスキルレベ上げに専念する。
スキルのレベ上げをするには、何かしらにスキルをかけなければ…………。
ただ、下手にアコンプリスにかけると、こっちの思惑がバレるかもしれない。
自分にかけるのが最善だろう。
ただ、俺の持つスキルに使用制限がかかると、アリスも使えなくなる可能性がある。
……アリスが【糸大操作】を使ってる所は見た事ないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
兄に、できるって宣言してしまった以上、失敗して足を引っ張るわけにはいかない。
「何を相談してるのは知らないけど、放置されるなんて、俺っち悲しいよ〜」
明らかに挑発してきているのがわかる。
「すみません、貴方に興味が湧かなくて……つい忘れていました」
挑発に乗って、考え無しに突っ込んで行っては、向こうの思う壺だ。
至って冷静に、避けることを優先しよう。
そう心に決めた。
「へぇ〜、じゃあ、無視出来ないように、少し遊んであげようかな!」
アコンプリスが手を上に上げると、周りに子供サイズの氷塊が現れる。
「なるほど、これが【氷大魔法】……」
「そのと〜り、でもまだまだ1割の力も出してないけど、当たったら死んじゃうかもだから、頑張って避けてね〜」
アコンプリスが手を下ろすと、浮いていた氷塊が、飛んできた。
………
……
…
兄さんに言われた通り、避けることに専念する。
「ヘぇ〜、すばしっこいね〜。それに【転移魔法】も使えるのか……これは当てるのは難しそうだ」
アコンプリスの攻撃の手が止む。
最低限の動きで逃げていたお陰もあって、まだ体力にも余裕がある。
「君1人なら避ければいいだけ……じゃあ〜、これならどうかな〜?」
そう言うと同時に、アリスの後ろに巨大な魔法陣が現れる。
魔法陣の光が止むと、そこには1〜20人の人が倒れていた。
アリスは、その人達に見覚えがあった。
「うちの領地にある村の一つに住む村人ですね」
そう、陥れられ、奴隷になる事を余儀無くされた村人達だった。
「賢い子は嫌いじゃないよ〜? 君の言う通り、生贄として渡された村人達です! 何かに使えるかもと思ってとっておいたんだけど、こんな所で使えるとはね〜」
この悪魔の思惑は至ってシンプルだ。
獲物を追いかけて捕まえるのが難しいなら、獲物が逃げられないようにすればいいと言うことだろう。
「最低ですね……」
それにしても、やり方が汚すぎる。
アコンプリスを睨みつけ、そう吐き捨てた。
「はは、よく言われるよ〜。その人達を助けたかったら、頑張って氷解を打ち落としてみてね〜」
アコンプリスは、再び氷塊を発射した。
続きは決まっているのに……中々書けない……。
更新遅くて申し訳ありませんm(_ _)m