78話 岩の恐竜
Lv.72のアリスと、Lv.126のGレックス。
レベルやステータスでは、遥かに劣っているが、戦況はアリスに傾いていた。
それもそうだ、Gレックスは動きがあまり早く無い、そして重い物理攻撃を得意とする、言わば超重量級。
それに対して、此方は物理攻撃にはめっぽう強い上に、素早く動き、高火力で相手を倒す戦闘方法。
相手の攻撃は軽々と避け、もし当たっても無効する。
負ける気がしない。
強いて言うなら、防御力が高く、【自己修復】なんてスキルを持っているせいで、倒すのに時間がかかりそうだ。
【硬化】というスキルも、結構厄介だ。
まぁ、両方ともASだし、GレックスはMPあまり多く無いので、すぐにMPが尽きるだろう。
………
……
…
身体の中心にある魔核を破壊する際に、抵抗されると危ない、それはわかる。
ただ、
『アリスさんや』
『何でしょうか? 兄さんや』
『これ、やり過ぎじゃね?』
尻尾に頭、両手両足がないGレックスだった物を見て、そう尋ねる。
『抵抗されると危ないので…………』
自分でも、やり過ぎだと感じたのか、最後の方は声が小さくなっていった。
俺もアリスも、気が付いたらやり過ぎてる。
設定だとしても、兄妹になると似てくるのかな? なんて思えてきた。
『まぁ、このままにしておくのも可哀想だし、トドメを刺してやろう』
『そうですね……』
ささっと魔核を破壊し、【吸収】した。
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種族:合成魔
Lv:197
HP:197,999
SP:197,999
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久しぶりにレベルが上がった。
アリスの方も、
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名前: アリーシア・g)&*,€♪
装備:合成魔〈特殊装備〉
Lv:87
HP:786
SP:1888〈+197.999〉
ATK:675
MATK:1250〈+19.799〉
DF:400〈+19.799〉
MDF:1206〈+19.799〉
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かなりレベルが上がった。
ボスを倒すと、広間の奥に魔法陣が現れた。
その隣には宝箱があり、《魔法軽減の首飾り》が入っていた。
そう、魔法陣と宝箱しかないのだ。
アリスが首飾りを取り出し眺める。
『兄さんの目的ってこれですか?』
そう尋ねてきた。
『まぁ、それを取りに来たんだけど……』
そう言えば、アリスには両親がここにいる事を伝えてないんだった。
最深部まで来ても見つからないという事は、もう此処にはいないという事で…………。
もしかしたら、そう思い、魔法陣を【鑑定】してみたが、
ーー《脱出用転移魔法陣》ーーーーーーーーーー
名前の通り、ダンジョン内から外に脱出するために設けられた魔法陣。
これから来るであろう後輩冒険者のために、ダンジョンを攻略した上級冒険者設置していくらしい。
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この魔法陣が両親の元へ続いている、という希望は断たれた。
下手な希望を与えて、悲しませてしまうという結果は回避できたが、
その事よりも、アリスの両親はもう居ないという事が胸に引っかかった。
幸か不幸か、その事実を知らないアリスは
『はいどうぞ!』
笑顔で首飾りを渡してくる。
『あ、えっと、ボス倒したのアリスだし、アリスが貰うべきだろ?』
なんて声をかければ良いか分からず、適当な言葉が出ていた。
『いえ、兄さんの力無しでは勝てませんでした。だから兄さんが貰うべきですよ?』
『で、でも……』
『でもは無しですよ』
俺が、《どちらが首飾りを手に入れるべきか》について悩んでいるのだろう、と勘違いしているのか、
有無を言わせず、と言った様子だ。
『あ、うん、ありがと』
意見を変える気はない、と言う意思がヒシヒシと伝わって来るので、諦めてお礼を言うと、
『えへへ、此方こそありがとうございます』
そう言って笑顔を浮かべていた。
たしか、この子は自分の親を行方不明と話していた。
死んだと言わないのは、まだ生きてる事を願っての事だろう。
今、ハッキリと真実を言ったほうが良いのだろうか。
思いは時間が経てば経つほど大きくなり、真実を知った時、それに比例してショックも大きくなる。
しかし、ここ最近立て続けに色々あり、あまり心に余裕があるとは思えない。
その状態で真実を話して、受け止めきれるだろうか。
どちらの選択肢が正しいのか、どちらを選べば良いのか悩んでいると、
「あれあれ〜? 領主様の娘さんが、どうしてこんな所に居るのかな〜?」
突然、軽い口調の男の声が聞こえた。
声がした方を見ると、其処には翼と角を生やした、見るからに悪魔風の男がいた。
「貴方は、誰ですか?」
味方で無いのは確実だ。
アリスもそう判断したのか、悪魔風の男を睨みつける。
「ええ〜、俺っちの質問は無視ですかい!?」
悪魔風の男は、わざと驚いたような仕草をする。
何だこいつ、一々動きが鬱陶しい。
「はぁ、スルーですかそうなんですか。まぁ、俺っちは寛大だから? 許してあげましょう」
うん、こいつとは仲良くなれそうに無い。
アリスも睨みつけて、無言を貫き通している。
「自己紹介だっけ? 俺っちの名前はアコンプリス。これで質問には答えたよね? 次は俺っちの番だ。王国元老院の議長に売られたはずの君が、どうしてここに居るのかな〜?アリーシアさん」
完全に挑発しているのがわかる。
つか、やはりアリスは領主の娘らしい。
そして、アリスを買おうとしていたのは王国元老院議長だそうだ。
王国はもうダメかもしれないな。
『 アリス、何か証拠が無いか聞いてみて』
王国の元老院の議長ともあろうものが、11歳の少女をご所望だったと言う事実を証明できれば、国の最上位機関である元老院がデカイ顔は出来なくなる。
犯罪をもみ消す(権力者達の)力が無くなれば、奴隷商を潰しやすくなるのは間違いない。
『なるほど! わかりました』
どうやら、証拠の二文字だけで、俺が考えてる事を察してくれたようだ。
「何故、私の買主が元老院議長だと言い切れるのですか? 証拠は?」
「証拠……あ、これをあげよう」
ニヤニヤしながら、一枚の手紙を渡してきた。
その顔からは悪意が溢れていて、何か嫌な予感がする。
…………まさか!
『アリス! 読んじゃダメだ!』
そう言った時にはもう遅かった。
「あ……あ………いやああああああああああああああああ!!!」
広間に、アリスの絶叫がこだました。