75話 私TUEEE
食料品店をまわり、食料、調味料を手に入れた。
ちなみに、買い物中も装備状態だった。
王国領とは言え、こんな所に王国兵が少女と2人で居るのは、かなり目立つのだ。
時折、髪留めに触れ微笑むアリス。
事情を知らない人から見たら、完全に痛い人である。
「♪〜〜」
機嫌が良すぎて、自然と鼻歌が漏れている。
ちなみに、鼻歌はかなり上手い。
多少下手なら可愛げがあるものの、ここまで上手いと、ツッコミにくい事この上ない。
「♪〜〜〜……えへへ〜〜♪」
村を出るまでの辛抱だ。
『ご機嫌なのは良いが、さっきの店員達から聞いた《女子供を攫う盗賊がいる》と言う噂があるのだけは、忘れるなよ?』
食料品を買っている時に、店員のおばさん達から
『どうして、こんなに沢山買うの?』
と聞かれたので、旅の支度中だと答えたところ、
『最近、この辺りの盗賊が活発化してきて、女子供を攫ってるって噂があるから気を付けなさいよ?』
『あー、私も聞いた! 噂だけど、奴隷商人が一枚噛んでるらしくてね? 攫われたらどこかに売り飛ばされちゃうらしいのよ?』
『あんたも旅をするなら気を付けなさいよ?』
と忠告されたのだ。
途中から完全に、おばさん達の井戸端会議に変わっていたとは言わない。
「わかってますよ〜〜♪」
アリスは、鼻歌交じりにそう答えてくる。
うん、分かってないね。
………
……
…
村を脱出し、しばらく歩いた。
そろそろ偽狼に変身し、スタツ遺跡まで一気に行くか。
アリスにその事を知らせ、変身しようとしたところで、3つの気配が【探知】に引っかかった。
『兄さん……敵ですか?』
さっきまで有頂天だったアリスも、気が付いたようだった。
『わからん、取り敢えず警戒しよう』
反応がある方を凝視する。
すると、
「おいおい、そんなに睨まないでまくれよ」
「そうだぜ? 俺たちは別に怪しいもんじゃ無いからさ」
そちらの方の木の陰から、3人の男が出てきた。
絵に描いたような盗賊らしき男達。
店員のおばさんが言っていた事は、本当だったようだ。
おそらく、待ち伏せをしていたのだが、俺達が自分達に気付いているとわかり、仕方なく出てきたのだろう。
まぁ、こっちは鎧を着ているとはいえ、武器を持っていない丸腰の少女。
これが、彼らがノコノコと出てきた大きな要因である事は間違いないだろう。
つか、完全にこちらを舐めているのがわかる。
手には獲物をチラつかせているのは、脅しのつもりだろうか?
一応【鑑定】
名前を覚えるのも面倒なので、盗賊A、B、Cで良いか。
––––––––––––––––––––––––––––––
名前: 盗賊A
職業:剣士
Lv:31
HP:401
SP:25
––––––––––––––––––––––––––––––
––––––––––––––––––––––––––––––
名前:盗賊B
職業:弓師
Lv:35
HP:266
SP:109
––––––––––––––––––––––––––––––
––––––––––––––––––––––––––––––
名前:盗賊C
職業:魔術師
Lv:33
HP:200
SP:456
––––––––––––––––––––––––––––––
盗賊と言う職業はないらしい。
まぁ、【鑑定】があれば、誰でも見れるステータスに、『私は犯罪者です』何で書くやついないよね。
気をつけるべきなのは、魔法使いか。
『私が丸腰だから、殺意までは感じませんが、並々ならぬ悪意を感じます』
アリスが、冷静に分析をして報告してくる。
『あぁ、おそらく、何かしらのアクションはしてくるはずだ』
『見逃してはくれませんよね?』
『あぁ、間違いないな。最悪戦闘になるな』
『…………』
《戦闘》
その言葉を聞き、アリスが黙ってしまった。。
こんな子供に、いきなり大の男3人と戦えという方が無理な話だろう。
『一言も発していないのが魔法使い、あとは見ての通りだ。逃げるか? それとも俺が代わりに戦おうか?』
『いえ、自分で戦います。今から、もっと危険な遺跡に向かうんです。兄さんの足を引っ張らないよう、戦いに慣れておきたい』
まさかの、自分で戦う宣言。
『それに、人を攫って奴隷にするとか、許せません』
たくましい子である。
『わかった。アリスの動きに合わせるよ。ちなみに、オススメは鉄剣と【高速射出】を使った遠距離攻撃だ』
自分がよく使う黄金コンボを伝えておいた。
「君本当に可愛いね」
「お兄さん達と遊びに行こうよ?」
盗賊A、Bが近寄って来る。
「ゴメンなさい、予定があるので」
アリスは、律儀に断りを入れていた。
【真眼】で、こいつらの悪意は感じ取れているのだから、問答無用で切り捨てれば良いのに。
「そんな、釣れない事言わないでよ」
まぁ、そう簡単に引き退るはずはない。
盗賊Aが、一定の距離を開けつつも、進路を塞いで来る。
「お兄さん達が噂の、人を攫って奴隷商人に売っていると言う盗賊ですか?」
アリスは、盗賊Aを見てそう尋ねる。
「へぇ、もう噂とかになっちゃってるのか〜」
「まぁ、それを知って、君に何ができるのかな?」
盗賊Aが、後ろにいる盗賊Cに合図を送る。
その合図を見、盗賊Cが動いた。
「バインド!」
盗賊Cがそう唱えると、アリスの周りに魔法陣が現れ、そこから鎖が伸びる。
しかし、その鎖がアリスを拘束する事は無かった。
魔法の鎖は、アリスが持つ剣によって切り裂かれていたのだ。
「なるほど、【対魔力攻撃】。こういう効果があるんですね」
手に持つ剣を眺め、そんなことを呟いている。
「こンの、クソガキが!!」
盗賊Aが、剣を振りかぶり走って来る。
「ウィンドスラッシュ」
そう唱え、薄緑色に淡く輝く剣を、振り下ろした。
「あああああああああ!!! いでぇ!いでぇよ!!!」
そう叫びながら転げ回る盗賊Aを見てみると、剣を持っていた腕が、肩からバッサリと斬り落とされていた。
うわぁ、根元から斬り落とされてる。
アリスさん、一切の容赦がない。
何だろ? やはり、奴隷商人が関わってるって所が気に入らなかったのかな?
まぁ、アリスさんの俺TUEEEはこれで終わらなかった。
盗賊Bが放った矢を、【風魔法】で吹き飛ばし、鉄剣を射出した。
放たれた鉄剣は、盗賊Bの心臓を貫き、息の根を止めた。
魔法を使おうとしていた盗賊Cに、大音量の【念話】を送り詠唱を邪魔し、怯んでいるところを正面から斬り裂いた。
逃げ出そうとしていた盗賊Aを脅し、依頼人の名前を聞き出し、息の根を止めるまでを、ノンストップで華麗にこなしていた。
うん、俺が助ける間もなく、全てが終わった。
どうやら、アリスは怒らせないほうが良さそうだ。