74話 兄妹の証
『忘れ物は無いな』
朝食も食べ終え、宿を出発する。
『ありません。あの、これから何処に向かうんですか?』
『《スタツ遺跡》って所に向かうんだけど、その前に道具屋によっても良いか?』
アリスには、両親が生きているという事は言ってない。
『まだ生きている、だけですからね。盟友達が辿り着いた時に生きているとは限りません。この事は黙っていた方が良いですよ』
と、トールからアドバイスを貰ったのだ。
『別に寄るのは構いませんが、何か欲しいものがあるのですか?』
『ああ、お前さんを餓死させる訳には行かないからな』
そう、食料品や調理器具を買いに行くのだ。
『そんな……『悪いから遠慮するってのは無しな』
遠慮してくるのは目に見えていたので、先に断っておいた。
『……ありがとうございます』
少し困った笑顔を浮かべ、受け入れてくれた。
昨晩考えていたのだが、アリスがやたら変な所で遠慮するのは、ワガママ言った事により、俺に愛想を尽かされ、捨てられる事を怖がってのことだろう。
そう考えると、離れようとすると頑なに嫌がるのも説明がつく。
道具屋に到着する。
『アリス、今から道具とか選ぶから、自由にしてて良いぞ』
と言ったのだが、
『私も一緒に選びます』
どうやら付いてくるらしい。
まずは、調理器具の魔道具のコーナーに行く。
《火魔法を組み込んであるコンロ》を見つける。
これがあれば、外で調理ができるだろう。
まぁ、料理なんてしたこと無いんだけどな。
いや待てよ、【吸収】すれば、俺も【火魔法】が使えるようになるんじゃ無いか!?
買うことが確定した。
他にも、【光魔法】を内蔵してあるライトスタンドも見つけ、買い物カゴに入れる。
後は、鍋に食器などを入れた。
こんなに考え無しで買っても、贅沢しなければビクともしない、王城から奪ってきたヘソクリ様々である。
寝る用の寝袋的な物を見つけた。
地べたで寝るよりはマシだろう。
買い物かごに入れた。
まぁ、買う物はこれ位かな?
会計を済ます為に、レジに持って行こうとした所で、とあるものが目に入った。
アレをあげたら喜んでもらえるだろうか?
そんなそぶりは見せなかったが、
突然の両親の失踪、
頼れるのは何の関係も無い魔物、
いつも、いつ捨てられるかわからない恐怖と戦っていたのだろう。
そんなアリスを少しでも安心させてやりたかった。
どうせならサプライズにした方が喜んでもらえるかも。
『アリス、後は会計するだけだから、外で待っていてくれるか?』
買うところを見られないように、外に行くように促す。
『荷物持ちでも何でもしますよ?』
やはり簡単には離れてくれないかな。
『大丈夫、買ったらすぐに【収納】するから。外で待っていてくれ』
『……わかりました』
不安気な顔をしていたが、何とか引き下がってくれた。
『ありがとな。アリスは本当に良い子だ』
少しは不安を和らげられるかもと考え、頭を撫でておく。
………
……
…
会計を終え、アリスに渡す物以外を収納空間に突っ込み、外に出た。
入口のすぐ隣でしゃがんでいるアリスを見つける。
「お待たせ」
「……いえ、意外と早かったですよ」
元気がないご様子。
うーん、少しくらいは元気になってくれれば良いのだが。
「アリス、少し目を瞑って」
サプライズの為に、アリスに目を閉じるように言う。
「??」
突然何を言い出すのですか? と言う反応をしながらも、素直に目を瞑ってくれた。
うん、素直なのは良い事だ。
「そのままジッとしていてね」
コクリと頷いてくれた。
よし、出来るか自信ないけど……、さっき買ったものを取り出し、
アリスの前髪を7、3分けにし、髪留めを片方につける。
うん、我ながら悪くない出来だ。
「目開けて良いよ」
俺の言葉通りに目を開いたアリスに、鏡を差し出す。
「……………」
アリスは、鏡を見て固まってしまった。
あれ? 反応がない。
気に障ったかな? やはり素人がやるべきじゃなかったか……。
「い、一応その髪留めは二つセットになってて、『友達とお揃いを使おう!』って書いてあったから選んだ訳でして……」
心なしか、アリスの目に涙が溜まっていっている様に見える。
ちょ、泣くほど嫌だったのか!?
「もう一つは【吸収】したから、これをこう着ければ、ほら、俺が装備に変身した時に、本体を髪留めにすれば、違和感無く……」
一応、『装備品に変身した時に、意識のある部分を髪留めにすれば、同じ目の位置で周りを見る事ができる』
『戦闘時に、前髪が邪魔にならないように』
『ただのプレゼントより、お揃いを買った方がアリスを安心させれるのではないか?』
と言う一石二鳥ならぬ、一石三鳥だと思い、実行してみたのだが、失敗したかもしれない。
「い、嫌だったら、返してくれて良いから!」
髪留めを回収しようと手を伸ばすと、思いっきり弾かれた。
「全然嫌じゃない。でも、これはどういう意味なんですか?」
そう話すアリスからは、泣くのを必死にこらえているのが見て取れた。
「さっき言った通り、俺が装備になった時に、意識を髪留めに持ってきて、同じくらいの目線にしようと言う目的もあるけど、せっかく兄妹になった事だし、設定だけでなく、実際に形のある証があった方が良いかなと思って……」
「…………」
俺の返事を聞くと、アリスは再び黙ってしまった。
「信じても……良いんですか?」
途切れ途切れになりながらも、そう聞いてくる。
何に対しての『信じる』なのかはよく分からないが、
「ああ、もちろん」
即答した。
「突然……居なくなったり……しない……ですか?」
突然居なくなる、多分両親の事を思い出して、そう尋ねてきたのだろう。
「突然居なくなったりはしない。少なくとも、大切な妹の安全が確保されるまでは、一緒にいる」
出来るだけ優しく、そう答える。
「…………一緒にいても…………良いん…………ですか?」
「ああ、これからよろしくな。アリス」
「…………うぅ……にいさぁあああああん!!」
アリスの涙腺が爆発した。
「ちょ、こんな所で泣くな! 俺が虐めて泣かしたみたいに思われるじゃねーか!」
アリスが大声で泣くから、村人達がチラチラと見てくる。
「兄さんが泣かしたんじゃないですか……。嬉しかった……嬉しかったから我慢出来なくなったんじゃないですかぁあああ」
泣くほど喜んで貰えるのは、仕掛け人冥利に尽きるのだが、店先で泣かれると……、周りの視線が……。
「うぇええええん!」
あーあ、もう収集つかないやつですね。
しかし、アリスは泣き虫過ぎると思う。
「出来るだけ早く泣き止んでくれ」
もう周りの視線は諦めた。
まぁ、森の時と違って、俺は何も悪い事はしてないから、問題無いだろう。