表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/90

74話 兄妹の証



『忘れ物は無いな』


朝食も食べ終え、宿を出発する。


『ありません。あの、これから何処に向かうんですか?』


『《スタツ遺跡》って所に向かうんだけど、その前に道具屋によっても良いか?』


アリスには、両親が生きているという事は言ってない。


まだ(・・)生きている、だけですからね。盟友達が辿り着いた時に生きているとは限りません。この事は黙っていた方が良いですよ』


と、トールからアドバイスを貰ったのだ。


『別に寄るのは構いませんが、何か欲しいものがあるのですか?』


『ああ、お前さんを餓死させる訳には行かないからな』


そう、食料品や調理器具を買いに行くのだ。


『そんな……『悪いから遠慮するってのは無しな』


遠慮してくるのは目に見えていたので、先に断っておいた。


『……ありがとうございます』


少し困った笑顔を浮かべ、受け入れてくれた。


昨晩考えていたのだが、アリスがやたら変な所で遠慮するのは、ワガママ言った事により、俺に愛想を尽かされ、捨てられる事を怖がってのことだろう。


そう考えると、離れようとすると頑なに嫌がるのも説明がつく。


道具屋に到着する。


『アリス、今から道具とか選ぶから、自由にしてて良いぞ』


と言ったのだが、


『私も一緒に選びます』


どうやら付いてくるらしい。


まずは、調理器具の魔道具のコーナーに行く。


《火魔法を組み込んであるコンロ》を見つける。


これがあれば、外で調理ができるだろう。


まぁ、料理なんてしたこと無いんだけどな。


いや待てよ、【吸収】すれば、俺も【火魔法】が使えるようになるんじゃ無いか!?


買うことが確定した。


他にも、【光魔法】を内蔵してあるライトスタンドも見つけ、買い物カゴに入れる。


後は、鍋に食器などを入れた。


こんなに考え無しで買っても、贅沢しなければビクともしない、王城から奪ってきたヘソクリ様々である。


寝る用の寝袋的な物を見つけた。


地べたで寝るよりはマシだろう。


買い物かごに入れた。


まぁ、買う物はこれ位かな?


会計を済ます為に、レジに持って行こうとした所で、とあるものが目に入った。


アレをあげたら喜んでもらえるだろうか?


そんなそぶりは見せなかったが、


突然の両親の失踪、


頼れるのは何の関係も無い魔物、


いつも、いつ捨てられるかわからない恐怖と戦っていたのだろう。


そんなアリスを少しでも安心させてやりたかった。


どうせならサプライズにした方が喜んでもらえるかも。


『アリス、後は会計するだけだから、外で待っていてくれるか?』


買うところを見られないように、外に行くように促す。


『荷物持ちでも何でもしますよ?』


やはり簡単には離れてくれないかな。


『大丈夫、買ったらすぐに【収納】するから。外で待っていてくれ』


『……わかりました』


不安気な顔をしていたが、何とか引き下がってくれた。


『ありがとな。アリスは本当に良い子だ』


少しは不安を和らげられるかもと考え、頭を撫でておく。



………

……



会計を終え、アリスに渡す物以外を収納空間に突っ込み、外に出た。


入口のすぐ隣でしゃがんでいるアリスを見つける。


「お待たせ」


「……いえ、意外と早かったですよ」


元気がないご様子。


うーん、少しくらいは元気になってくれれば良いのだが。


「アリス、少し目を瞑って」


サプライズの為に、アリスに目を閉じるように言う。


「??」


突然何を言い出すのですか? と言う反応をしながらも、素直に目を瞑ってくれた。


うん、素直なのは良い事だ。


「そのままジッとしていてね」


コクリと頷いてくれた。


よし、出来るか自信ないけど……、さっき買ったものを取り出し、


アリスの前髪を7、3分けにし、髪留めを片方につける。


うん、我ながら悪くない出来だ。


「目開けて良いよ」


俺の言葉通りに目を開いたアリスに、鏡を差し出す。


「……………」


アリスは、鏡を見て固まってしまった。


あれ? 反応がない。


気に障ったかな? やはり素人がやるべきじゃなかったか……。


「い、一応その髪留めは二つセットになってて、『友達とお揃いを使おう!』って書いてあったから選んだ訳でして……」


心なしか、アリスの目に涙が溜まっていっている様に見える。


ちょ、泣くほど嫌だったのか!?


「もう一つは【吸収】したから、これをこう着ければ、ほら、俺が装備に変身した時に、本体を髪留めにすれば、違和感無く……」


一応、『装備品に変身した時に、意識のある部分を髪留めにすれば、同じ目の位置で周りを見る事ができる』


『戦闘時に、前髪が邪魔にならないように』


『ただのプレゼントより、お揃いを買った方がアリスを安心させれるのではないか?』


と言う一石二鳥ならぬ、一石三鳥だと思い、実行してみたのだが、失敗したかもしれない。


「い、嫌だったら、返してくれて良いから!」


髪留めを回収しようと手を伸ばすと、思いっきり弾かれた。


「全然嫌じゃない。でも、これはどういう意味なんですか?」


そう話すアリスからは、泣くのを必死にこらえているのが見て取れた。


「さっき言った通り、俺が装備になった時に、意識を髪留めに持ってきて、同じくらいの目線にしようと言う目的もあるけど、せっかく兄妹になった事だし、設定だけでなく、実際に形のある証があった方が良いかなと思って……」


「…………」


俺の返事を聞くと、アリスは再び黙ってしまった。


「信じても……良いんですか?」


途切れ途切れになりながらも、そう聞いてくる。


何に対しての『信じる』なのかはよく分からないが、


「ああ、もちろん」


即答した。


「突然……居なくなったり……しない……ですか?」


突然居なくなる、多分両親の事を思い出して、そう尋ねてきたのだろう。


「突然居なくなったりはしない。少なくとも、大切な妹の安全が確保されるまでは、一緒にいる」


出来るだけ優しく、そう答える。


「…………一緒にいても…………良いん…………ですか?」


「ああ、これからよろしくな。アリス」


「…………うぅ……にいさぁあああああん!!」


アリスの涙腺が爆発した。


「ちょ、こんな所で泣くな! 俺が虐めて泣かしたみたいに思われるじゃねーか!」


アリスが大声で泣くから、村人達がチラチラと見てくる。


「兄さんが泣かしたんじゃないですか……。嬉しかった……嬉しかったから我慢出来なくなったんじゃないですかぁあああ」


泣くほど喜んで貰えるのは、仕掛け人冥利に尽きるのだが、店先で泣かれると……、周りの視線が……。


「うぇええええん!」


あーあ、もう収集つかないやつですね。


しかし、アリスは泣き虫過ぎると思う。


「出来るだけ早く泣き止んでくれ」


もう周りの視線は諦めた。


まぁ、森の時と違って、俺は何も悪い事はしてないから、問題無いだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ