73話 干渉し過ぎ
『暗くなってきたし、今日はこれくらいにしておくかー』
『はぅー、疲れましたー』
練習終了を知らせると、アリスはベッドに突っ伏した。
『寝るのは良いが、晩飯を食べて風呂入ってからにしろよー』
装備状態を解除し、収納空間に入れていた服を素早く着せ、アリスを起こす。
『……そう言えば、兄さんは一体何処から物を取り出しているんですか?』
顔だけをこっちに向け、そんな事を聞いてきた。
『【収納】というスキルを使ってる。まぁ、アイテムボックスと同じ感じかな?』
同じと言うか、アイテムボックスを【吸収】した時に手に入れたスキルなのだが、まぁ、そこまで言う必要も無いだろう。
『なるほど。じゃあ、兄さん! 私の持ち物も預かってもらえませんか?』
アリスがポケットから何かを取り出し、そう頼んでくる。
取り出された物は、小さな袋だった。
何となく予想はつくが【鑑定】する。
《アイテムボックスLv.2》
やはりか。
アリスが、アイテムボックスから、一つの封筒と小瓶を取り出した。
『何かはよく分からないが、大切な物なら、自分で持っていた方がいいんじゃ無いか?』
『いいえ、大切な物だからそこ、自分よりも強い兄さんに預かっていて欲しいのです』
アリスが、まっすぐこちらを見て言ってきた。
『まぁ、持ち主がそこまで言うのなら、構わないよ』
アリスから封筒と小瓶を受け取り、そう答えた。
『ありがとうございます! それでは、ご飯とお風呂に向かいましょう!』
そう言うアリスは、時々見せる、無理やり作った笑顔だった。
………
……
…
『すぅっ………すぅっ』
アリスは、食事と風呂を終えるとすぐに寝てしまった。
まぁ、数日間の奴隷生活に加え、いきなり現れた魔物の同行初日。
疲れない訳が無いだろう。
朝食の時間まで、ゆっくり寝かせてやろう。
……ただ、暇だ。
合成魔は、睡眠を必要としない。
ベッドから伸び、ギュッと俺の服の裾を掴んでいる手を見る。
これさえ無ければ、暇潰しも出来るのだが……。
下手に動いて起こす訳にもいかないし……、
動かずに出来る事を考えるか。
動くのを諦め、収納空間を探り何か暇を潰せる物を探す。
そう言えば、アリスが預けてきた物って何だろう?
ふと気にになり、小瓶と封筒を取り出す。
まずは小瓶を【鑑定】する。
《小瓶》
わかってるよ!
何の小瓶か分かれば良かったのだが……、まぁ、無理だよね。
中身は入っていたのか? 小瓶を目の前に持ってきて揺らす。
すると、小瓶の底で透明な液体が動くのが見えた。
少し開けるくらい良いだろう。
勝手にフタを開け、中に入っている液体【鑑定】する。
ーー《特殊毒》ーーーーーーーーーーーーーーー
水溶性の毒薬。
効果は弱く、生物を殺すほどの効果は無いが、植物への影響力は強い。
戦争時、相手の田畑に蒔く、もしくは、水源に混ぜ、相手の食糧に致命傷を与える用途で使われていたが、
あまりに被害が大きすぎる為、使用禁止となった。
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奴隷商人達の策略の証拠として、あの牛車から取ってきていたのだろう。
なかなか賢い子だ。
そうなると、もう一つの封筒も大体予想がつくが、中身を取り出し確認する。
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近年、我々が手を焼いていたラントヴィルト夫妻と、その娘の排除に成功した。
早急に、ラントヴィルト領から奴隷を回収せよ。
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この短い文章が書かれていた。
犯行を決定付ける文章だ。
いくらお偉いさん達とつながっている奴隷商人達も、この二つを出されたら言い訳は難しいだろう。
奴隷商人達が、この二つが他の人の手にある事を良しとする訳がない。
俺が奴隷商人の立場だったら、全力で探し出し、隠蔽の為に所持者諸共消そうと考える。
奴隷商人達も、方法は違えど同じ事を考えている事は間違いないだろう。
『いいえ、大切な物だからそこ、自分よりも強い兄さんに預かっていて欲しいのです』
アリスのこのセリフも、恐らくこの辺りの予想から出た言葉だろう。
自分が殺され、証拠隠滅をされる。と言う確率を減らす為だろうな。
アリスの寝顔を見ると、目尻から涙が流れているのが見えた。
「お父様……お母様……」
そんな寝言が聞こえる。
確か、アリスの両親は行方不明になっていた。
予想の範囲を出ないが、アリスの名前の文字化けしていた所には《ラントヴィルト》の文字が入るのだろう。
アリーシア・ラントヴィルト
きっとコレが、この子のフルネームだろう。
奴隷商人達の利益の為に、自分の両親が消された。
それを決定付ける手紙を見たこの子は、どんな気持ちだったのだろうか?
時々見せる無理した笑顔も、他の人を心配させないようにする配慮だろうか……。
『また、予想外な事していますね。盟友』
突然、そう頭の中に話しかけられた。
『俺も、予想外の方の登場に驚きを隠せないよ。申し訳ないが、今はお姉様の話を聞く元気は無い』
声の主を見て、そう言っておいた。
『今回来たのは、盟友に良い事を教えてあげようと思ったからであって、お姉様の素晴らしさを語りに来た訳では無いですよ』
あの超シスコンのトールが、レイア以外の事で動くとは……意外だ。
『何か失礼な事を考えますね?』
俺の考えを読んだのか、ジト目でそんな事を言ってくる。
『考えてないよ。それで、良い事って?』
無理やり話を戻す。
『まぁ良いでしょう。話を戻して、良い事と言うより、そこで寝ている娘にとって良い報告、ですね』
アリスに優しく微笑み、トールはそう話した。
姉の話をしなければ、本当に女神様に見えるのだが……。
『その娘の両親は、まだ死んでません。盟友の行こうとしていた場所に幽閉されています』
朗報だった。
普段は強がってるが、実は夢で見て涙を出すくらい両親の事を考えているこの子を、もしかしたら笑顔にできるかもしれない。
『しかし、何でそんな曖昧な言い方なんだ?』
俺が行こうとしていた場所《スタツ遺跡》に、アリスの両親《ラントヴィルト夫妻》がいるとはっきり言えば良いのに。
『神は、一個人干渉し過ぎてはいけませんから』
結構ガッツリ干渉している気がしなくも無いのだが……。
なんて心の中で突っ込んでいると、トールがアリスの頭に触れていた。
『何をしているんだ?』
『ふふ、特別サービスです。この子も、この子の両親も何も悪い事はしていないのに、酷い目にあっている。手助けくらい問題ありません』
悪戯っぽく笑い、ウィンクをしてくる。
トールの事だから、何かスキルを与えたのだろう。
気になって【鑑定】してみる。
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名前: アリーシア・g)&*,€♪
種族:人間
年齢:11
職業:無し
Lv:13
HP:106
SP:216
ATK:70
MATK:130
DF:45
MDF:114
PS:鑑定Lv.2、真眼Lv.1、魔力操作Lv.2、
(new)劣化模倣
AS:回復魔法Lv.1、防御結界Lv.1
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【劣化模倣】と言うPSが増えていた。
何だこれ……、
早速【検索】する。
ーー《劣化模倣》ーーーーーーーーーーーーーー
創造を司る神トーリウルスが創り出したスキル。
見様見真似で、相手の持つスキルを習得することが出来る。
生物の種類によって限界がある。
上位スキルを真似しても、そのスキルの基礎スキルLv.1しか習得出来ない。
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つまりアレか?
相手が風魔法を使ってるのを見たら、レベル1だけど習得できるって事か?
【検索】曰く、
スキルの習得には、それに近い行動の反復練習を、永遠に繰り返すしかないらしい。
その練習過程をすっ飛ばして、いきなり習得……。
今ならハッキリ言える。ガッツリ干渉してるじゃねーか!!