70話 装備を買おう
適当な料理屋に入り、美味しそうにご飯を食べるアリスを眺める。
暇なので、何となく【鑑定】
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名前: アリーシア・g)&*,€♪
種族:人間
年齢:11
職業:無し
Lv:13
HP:106
SP:216
ATK:70
MATK:130
DF:45
MDF:114
PS:鑑定Lv.2、真眼Lv.1、魔力操作Lv.2
AS:回復魔法Lv.1、防御結界Lv.1
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弱いなー。
俺に付いて来るつもりなら、装備とか買わないとダメかな?
今着てる服も、ただの布で出来ているし、防御力は期待できない。
それに、他の奴隷より綺麗な服だったとはいえ、あまりいい服ではない。
下手すると、憲兵に声をかけられそうなレベル。
保護者役として、憲兵に連れて行かれるのだけは阻止したい。
よし、食べ終わったら装備でも見に行くか。
名前の文字化けについては、面倒そうなので突っ込まないでおこう。
今後の事を考えながら、アリスの方をジッと見ていると、
「あの、嫌という訳ではないのですが、そんなにジッと見られると、少し恥ずかしいです」
アリスが頬を赤く染めながら、そんな事を言ってきた。
「あ、ごめん」
食事中の人を凝視するのはダメだろう。
アリスに謝罪をし、目をそらす。
「もう食べ終えたので、目をそらさなくても良いですよ?」
いつの間にか、アリスが食べていた料理の皿が、空になっていた。
「それで、さっきは私の顔を見て、何を考えていたんですか?」
アリスが首をかしげながら、そう聞いて来た。
「あぁ、今からアリスの装備を買いに行こうと思ってな」
考えていた事を打ち明ける。
「そんな、食事代を出して頂くだけでも申し訳ないのに、装備なんて……買ってもらう訳にはいきません」
一緒に村に来て欲しい、なんてワガママ言っていた奴が、突然遠慮し始めた。
「遠慮なんてしなくて良い、俺は魔物だから金使わないし」
「でも…………」
「あと、俺は村や町に滞在する事は少ない。だから、最低限の装備は持ってないとすぐ死ぬぞ?」
流石に、死ぬ、まで言われては断る奴はいないだろう。
「…………」
だが、未だに、快く了承してくれる気がしない。
この子の遠慮するラインがわからないな。
この頑固者を、どう説得したら良いか考える。
…………あれ? 心なしか、迷っている様子がさっきと違う気がする。
別のことで悩んでる?
「一つだけ聞いても良いですか?」
アリスがうつむき気味で口を開く。
「なに?」
「兄さんが装備を買おうとしているのは、私を死なせたくないから、ですか?」
なんでそんな事を聞くのか、わからなかった。
俺自身は装備なんて要らない。
その装備を買いに行くのだから、アリスの為以外、理由なんて無いだろう。
アリスは、割と賢い子だし、考えればわかると思うんだけど……。
「そうだな、アリスが死ぬ確率を少しでも減らす為に、装備は不可欠だからな」
そう答える。
「〜〜〜っ!!」
アリスは、いきなり顔を伏せ、唸り始めた。
ここで『どうした!? 悪い物でも食べたのか!?』と見当違いの事を言うのがテンプレなのだろうが、
生憎、俺は鈍感系主人公では無い。
「え、何? 照れてるの?」
ニヤニヤしながら、アリスの顔を覗き込む。
まぁ、仮面をしてるから分からないんですけどね。
「兄さん! デリカシーに欠けますよ!? さぁ、直ぐにでも装備を買いに行きましょう!」
顔を隠しながら、思いっきり袖を引っ張ってきた。
「行く気になってくれたのは嬉しいが、まだカネ払ってないから! 袖引っ張るのやめて!」
………
……
…
村の中を、怪しい二人組が歩いていた。
1人はあまり綺麗では無い服を着た少女、もう1人は、フードを深くかぶり、胡散臭い仮面をつけた男だった。
はい、俺たちです。
ちなみに、【暗躍】を使っているので、周りからは、アリスが独りでブツブツ話しているようにしか見えないだろう。
俺が見える人には、変な仮面をつけた不審者と少女。
見えない人には、独り言を言い続けている怪しげな少女。
どちらにしても、不審者街道まっしぐらです。
ちなみに、この事をアリスにも話したが、『周りからの痛い視線よりも、兄さんと話せない方が嫌です』などと言って会話を止めることはなかった。
この子強いなー。
少し歩くと、道具屋にたどり着いた。
色々と物色する。
金属系の鎧は、小柄で力の無いアリスには相性が悪い。
かと言って、布の鎧では丈夫さに欠ける。
軽くて丈夫、そんな装備無いかな?
そこで、ふと思いついた。
俺を装備したらどうなるのだろう? と。
下級兵装一式に変身している時、物理攻撃は、しっかり無効化されていて食らわなかった。
って事は、俺を装備すれば、装備者も【物理攻撃無効】の恩恵を受ける事が出来るかも知れない!
それに、俺の防御力も反映されるのなら、物理防御、魔法防御、共に19.699になる。
そんな装備するだけで2万近くの防御力を得る凶悪な装備、他には無いだろう!
そうと決まれば早速試す。
試着室に連れ込み、フード付きマントに変身し、装備してもらう。
アリスが『ちょっと兄さん! こんな所で……』なんて言っていたが華麗にスルー。
収納空間から鉄剣を取り出す。
「一体何をする気なのですか?」
アリスが、少し不安そうに聞いて来た。
「耐久実験」
簡潔に、分かりやすい単語を選ぶ。
「え……」
アリスの顔が引きつっていた。
自分が装備しているのは、ただの布製のマント。
それに対して武器は鉄剣。
普通に考えれば、鉄剣がマントを切り裂き、自分が切り裂かれる所しか想像出来ないだろう。
完全に言葉の選択を誤っていた。
「ごめん、説明不足だった。俺が持つ【物理攻撃無効】のスキルが、装備しているアリスにも反映されるかどうか、試したいんだ」
「なるほど、信用していない訳でないのですが、少し怖いですね……」
安心はしてくれたようだが、少し不安が残っているようだ。
どうフォローしたものか。
そうだ。
「大丈夫。俺がアリスを傷つける訳ないじゃないか?」
優しくこう答えておく。
何処かで、『人の好意を利用するなんて最低ですね』と言う罵倒が聞こえた気がするが、気にしない。
傷つける気はないのだから、嘘は言ってない!
うん、嘘は言ってない。
重要な事だから二回言った。