69話 アリスさん、おつかいに行く
2日間も更新滞らせてしまい、申し訳ありませんでした
「じゃあ、どうして村に?」
話は、村に向かう理由まで戻っていた。
「食事の為だよ」
嘘をついても仕方がないので、正直に答えておく。
「食事ですか? ふふ、ご飯を食べに近くの村に向かうなんて、兄さんは食いしん坊なのですね」
「ちげーよ! 飯を食べるのはお前だ!」
HPの隣に[飢餓]の二文字を携えている少女に向かって、ツッコミ入れた。
「あ、バレてました?」
少し困った声が聞こえてくる。
「俺は【鑑定】を持ってるからな。ちなみに、どれくらいの期間食べてないんだ?」
少し気になり、聞いてみる。
「えっと、4日目ですかね?」
そんな答えが返ってきた。
「ちょ! 結構ピンチじゃねーか! つか、通りでHPの減りが早いわけだよ!」
[飢餓]は悪化すればするほど、ステータスが下がり、HPは減っていく。
さっきから、回復させても回復させても減っていくのは、[飢餓]を拗らせ過ぎているからだろう。
「急ぐから掴まってろ!」
アリスに、しっかりと掴まるように指示し、蜘蛛の糸で固定する。
さらに、【風魔法】で向かい風を打ち消し、【空中移動】を駆使して全力疾走した。
………
……
…
馬で丸一日かかると言われた距離が、3時間かからずして到着した。
「はぁ、はぁ」
なんか疲れた。
「凄い! 私、馬より早い乗り物初めてです!」
当の本人は、呑気にそんな事を言っていた。
「乗り物言うな!」
そうツッコミを入れる。
「もう村のすぐ近くだから、降りて」
流石に、この姿を見られるのはマズイ。
アリスを降ろして、下級兵士に変身し、フードを深く被る。
「よし、好きなだけ食ってこい」
そう言って、収納空間に入れていた貨幣を持たせる。
「え? 兄さんも一緒に行くのでは?」
キョトンとした顔で、そんな事を言ってきた。
「この姿、貴族の息子なんだよ。だから顔バレすると危険だから、1人で行ってきて」
アース大空洞の入り口で、この姿でいるのが危険なのは経験済みだ。
という事で、俺は近くの森に潜んでいる事にしたのだ。
「…………わかりました」
『私が食事をしている間に逃げるつもりですね!?』と、てっきり駄々を捏ねられると思っていたので、
意外にすんなり了承されて、正直拍子抜けだった。
「あ、うん、いってらっしゃい」
アリスは、そのままお金を握りしめ、街の中に入っていった。
………
……
…
アリスは、思っていたよりも遥かに早く帰ってきた。
「おかえり、もう食ってきたのか?」
そう尋ねると、
「いいえ? まだ食べてませんよ。そんなに早く食べれる訳ないですよ」
何言ってるんですかー?みたいな感じで言ってくる。
「確かに、店探したりする時間もあるもんなー。無理に決まってるな」
「そうですよー。ふふ、兄さんったら」
アリスがそう微笑みながら小突いてくる。
「…………いやいや、食ってこいって言ったじゃん! なんで食べてねぇんだよ!」
雰囲気に流されそうになったが、俺はおかしな事は言ってない!
食って来いって言ったのに、食べていないアリスがおかしいのだ。
「別に、私は食べてくるとは言ってませんよ?」
突然そんな事を言ってきた。
会話を思い出してみる。
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『よし、好きなだけ食ってこい』
『え? 兄さんも一緒に行くのでは?』
『この姿、貴族の息子なんだよ。だから顔バレすると危険だから、1人で行ってきて』
『…………わかりました』
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あ、確かに言ってない。
「じゃあ、アリスさんは、いったい何に対して『わかりました』って言ったの?」
「顔バレするとヤバイんですよね?」
「うん」
「だから、私と村の中に行く事はできないんですよね?」
「うん、…………ん? もしかして、それがわかったって事?」
「はい、兄さんが入れない理由がわかりました」
あー、なるほど、
つまりアリスは、『1人で行って来い』に対しての《了解》の意味で『わかりました』って言ったのではなく、
『俺がどうして一緒に行けないのか』に対しての《理解》の意味で『わかりました』って言ったのだろう。
意思疎通って難しいよね。
「じゃあ、村で何を買ってきたんだ?」
もう、ツッコミを入れる気力も無くなったので、スルーしておいた。
「じゃじゃーん! これです!」
そう言ってアリスが取り出した物は、怪しげな仮面だった。
何故こんな物を買ってきたのか理解できない。
「わかりませんか? 仮面を着ければ、顔は見えません! これで兄さんも村に入れますね!」
「確かに、『顔を見られたらマズイ』と言う問題は解決される! お前天才だな!」
あの一瞬で解決策を模索し、実行に移してしまうアリスに、称賛の声を浴びせる。
「えへへ、そんなに褒められると照れてしまいますよー。さぁ、一緒に村に行きましょう!」
そう言って、手を握って引っ張ってくる。
「行こう行こう…………って、そんな訳ねぇだろ!! こんな変な仮面つけてたら、むしろ目立つじゃねぇか!!」
賢いのかアホなのかわからないアリスに、ツッコミを入れた。
「顔さえ見えなければ入れるって言ってたじゃないですか! 兄さんの嘘つき!」
「顔バレについては、入れない理由の一つとして挙げたが、見えなければ入れるなんて言ってねーよ!」
「兄さんと一緒じゃなければ、行きません!」
やはり、駄々をこね始めた。
「もう知らん! 金はあげるから、1人で頑張れ!」
アリスにも見えるように、抑えていた【暗躍】をオンにする。
これで見えなくなるだろう。
諦めて1人で食べに行くまで、物陰にでも隠れていよう。
そう思い、その場を離れようとすると、
「うぇぇええええん! 行っちゃ嫌だぁああああ!」
腰に抱き着かれ、引き止められる。
「ちょ、なんで見える!?」
見えないはずなのに、アリスに捕まった。
「うぇぇええん!」
アリスは、質問に答える事はせず、泣きじゃくる。
すると、
「おい! こっちの方から女の子の鳴き声が聞こえるぞ!」
森の中にいた人達の声が聞こえてきた。
ちょ、マズイ、このままアリスに泣き続けられると、人が集まってきてしまう!
「ちょ、泣き止んで! 人が集まってきちゃうから!」
「うぇえええええん! 兄さんも一緒に行くのぉおおおおお!」
泣きながらも、要求を忘れないあたり、この子はきっと大物になるだろう。
つか、大泣きして人を呼び寄せる作戦ではないのか!?
「もしかして、嘘泣きか!? テメェ、汚ねぇぞ!」
肩を掴んで、アリスの顔を覗き込む。
あ、ダメだ、これガチ泣きですわ。
「わかった! 一緒に行くから泣き止んでくれ!」
「ぐすっ、ぐすっ、…、本当?」
「ホントホント! だから早く泣き止んでくれ!」
もう諦めた。
「……ぐすっ、わかった」
「ほら、これで顔拭きな?」
そう言って、布を渡す。
「……う、ぐすっ……ありがとうございます」
泣いている時は、丁寧な言葉遣いではなく、子供らしい口調だったなぁ。
なんて考えながら、アリスが泣き止むまで頭を撫でておいた。