表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/90

64話 自分は自分



トールに言われた通り、『魔物だから〜』とか『元人間だから〜』とかは考えず、自分は自分と考える。


これからは、自分のやりたい事を正直にする事にした。


取り敢えず、奴隷商人達への嫌がらせも兼ねて、奴隷達を解放する方向で決まった。


鍵のついている扉を、力尽くで抉じ開ける。


流石、19.600の物理攻撃力、


木と鉄で出来た扉は、難なく壊れた。


魔物状態では恐怖で会話が成り立たない可能性があったので、下級兵士に変身しフードで顔を隠し、牛車の中に入っていった。


突然、扉が見るも無惨な姿になったので、中にいた人達は唖然としていた。


「何で奴隷なんかになっているんだ?」


そう、全員に聞こえるように尋ねる。


尋ねるが、返答が返ってこなかった。


あれー? 割と普通に話しかけたと思うんだけど、失敗した?


周りを見回すと、全員かなり疲弊していて、HPも減っている様子だった。


疲れていて話せないのか? と思い、全員にヒールをかける。


全員、HPが満タンになるまでヒールをかけたので、かなり顔色が良くなった。


が、未だに答えてくれる者がいない。


どうすればいいのかわからず、途方に暮れていると、


「ワシが話そう」


牛車の奥にいた老人が、そう言って出てきた。



………

……



この老人は、村長らしい。


そして、今運ばれている人々は、全員同じ村の人だそうだ。


「つまり、ある日突然、農作物が出来なくなり食糧難を迎えた」


村長が無言で頷く。


「その時に金や食料を貸してくれたのが、前の奴隷商人だった」


「あぁ、彼奴らは『あなた達を見殺しになんて出来ない』なんて言って近付いてきたんだ」


若者の1人がそう答えた。


「ただ、返せなくなったので、村人達全員を奴隷として要求してきたと?」


「突然、『今すぐ金を返せ! それが無理なら村人の命を差出せ』なんて言ってきたんだ」


「しかも、利子の分も上乗せされていて、金額は倍以上になっていたんだ」


「抵抗はしなかったのか?」


そこまでされて、はいはい、と従ってるとは思えない。


「ちゃんと、待って欲しいとは言った。しかし、今すぐ返せの一点張りだったし、用心棒として、レベル100を超える冒険者を連れて来て、逆らったら殺すなんて言い出しやがったんだ」


「悔しいが、100レベルを超える冒険者に太刀打ちできるほどの腕の者は、俺たちの村にはいないからな……」


牛車内の村人全員が、本当に悔しそうに顔をしかめた。


確かに、力で脅されてはどうしようもない。


しかし、あの中に100レベルを超える戦士なんていたか?


そんな強そうな奴はいなかった気がする。


それにしても、村の窮地に突然現れて、良い顔をして金を貸してくれた。


しかし、規格外の利子をつけて今すぐ返すか、それが無理なら命を差出すように言ってくる。


そこまでされていて、何故原因が奴隷商人達にあるって気が付かないのか…………。


「はぁ、何でそんな契約を結んだんだ?とは言わない。何で仕組まれてるってわからなかったんだ?」


「仕組まれていた、とは?」


村長が首を傾げる。


「奴隷商人達が『水源に毒を混ぜ込んで畑をダメにした』って言っていた」


さっき聞いた事を伝える。すると、


「俺たちがこうなったのも、計画されていたことなのか!? ふざけんな!」


若者の1人が壁を殴りながら、そう怒鳴った。


「今から逃げればいいだろ?」


扉は開いている。


手錠を外してやれば、逃げることは容易い。


「もう手遅れです。仮とはいえ、奴隷契約をさせられてしまいましたから」


村長は冷静に、そう答えた。


「ちなみに解除する方法は?」


「契約者、つまり奴隷商人達が命を落とせば解除されますが、契約に『殺害不可』が含まれています」


なるほど、初めから対策されていて、自分達では倒せないのか。


奴隷商人、話を聞けば聞くほど嫌いになっていくな。


「でも、これは完全に計画犯だし、王国に訴えたら助けては貰えないのか?」


こんな人を嵌める様な事態、王国の警察的な組織が許すとは思えない。


国が味方についてくれれば、流石の奴隷商人でも諦めるしか無いだろう。


そう考え、聞いてみるが、


「国王は良い人だが、我々の意見は国王の耳には入らないだろうな」


「国のお偉いさん達は、奴隷制度は賛成だからな」


村人達はため息をつきながら、そう答えた。


イマイチ、彼らの意見にピンと来ない。


そんな俺の反応を汲み取ってくれたのか、説明し始めた。


「奴隷制度は、金さえあれば好みの異性を自分の物にできる。つまり金持ちの為にある制度なんだよ」


「そして、貴族達は金だけはある」


なるほど、金持ちの立場にいる大臣が、奴隷制度の要でもある奴隷商人を責めるわけが無い。


「国王はアテにはできない……じゃあ、どうしようもないな……」


ドンヨリした空気がこの場を支配する。


「領主様が生きていれば……」


村人の1人が、ポツリとそう呟いた。


「領主?」


「あぁ、俺たちの村のある地域を収めていたラントヴィルトというお方だ」


「ラントヴィルト伯爵は良い人だった」


皆が遠い目をしてそんな事を言った。


「そのラントヴィルトって人は今は?」


「行方不明になっておられる」


………

……



ラントヴィルト伯爵は、伯爵という地位にいながら、奴隷制度に反対していた珍しい貴族だったらしい。


だから、その人が収める地域では、奴隷商人が好き勝手動けなかった。


しかし、最近突然、伯爵夫婦とその娘が行方不明になったらしい。


そして、伯爵の加護が無くなった所為で、この様な事態が起こっても助けは無いとの事。


伯爵夫婦失踪も、奴隷商人達が絡んでいると考えたほうが良いな。


しかし、商人如きが貴族に太刀打ちできるとは思えない。


何か原因があるのだろう。


そのことを考えていると、商人達の声が近づいてくるのが聞こえた。


「若い男と女は高く売れる! 囮に使うのは老人だ!」


どうやら囮作戦は決行されるようだ。


「なんで扉が開いとるんだ!?」


「逃げて無いか確認しろ!!」


商人達は、牛車の扉が空いている事に気がつくや否や、牛車内に雪崩れ込んできた。


「良かった! 逃げてない!」


若い奴隷商人が、そう報告する。


「安心するのはまだ早い! 全員いるか確認しろ!」


後から来た、特に偉そうな奴隷商人が、他の商人達に命じる。


言われるがままに、確認し始めたところで俺の存在に気がついた。


あ、見つかった。


「お前、何者だ!?」


商人全員が、腰にさしている短剣を引き抜き、こちらに向けてくる。


ここで暴れられたら、周りにけが人が出るかもしれない。


どうにかして、外に追い出さねばならない。


何か良い方法は無いか。


そう考えながら相手を見ると、剣を抜き、威勢良くしているが、明らかに逃げ腰である。


こいつらだったら脅したら逃げて行くんじゃないか?


そんな気がしてきた。


脅すなら、魔物の姿に変身するのが良いのだが、牛車内で変身できるやつとなると…………あれしか無いか。


地獄蜘蛛ヘル・スパイダー


牛車内の村人達を踏まない様に変身する。


商人達は、その姿を見た瞬間、


「なんでこんなところに魔物が!?」


「おい! あいつ、《ヘル・スパイダー》だぞ!?」


「うわぁあああ!! 逃げろぉおおおお!」


悲鳴をあげ、剣を捨てて逃げ出した。


すげー簡単だった。


ただ、恐怖を感じたのは商人達だけでなく、村人達も顔が引きつっていた。


そりゃそうだ、自分の体より大きい蜘蛛とか無理無理。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ