59話 命を賭けた約束
俺には関係ない。
しーらねー。
そう思い、その場を離れようとしたところで、目の前におっさんが飛んできて、壁にめり込んだ。
そのおっさんは、セドル・リウスだった。
「お前ら!! とにかく来た道を逃げろ!!」
セドルは、そう叫ぶ。
そして、兵達を逃がすために、弓を構えた。
ステータスを見た感じ、完全に瀕死状態である。
出血もひどく、血だらけだし、左足は曲っちゃいけない方向に曲がっている。
立っているのも辛い状態なはずなのに……矢を撃ち続けている。
すげーなこの人。
頑張れー。
そう心の中で応援しつつ、その場を離れようとすると、
「そこに居るのは、合成魔か?」
突然声をかけられた。
いや、なんでバレだし。
「何で居るのがバレたのか?って感じだな。それは、俺の持つ【真眼】と言うスキルの効果だ」
俺の疑問を汲み取ったのか、丁寧に説明してくれた。
【鑑定】してみると、確かにPSの欄に【真眼Lv.3】の文字があった。
【検索】曰く、真実を見るスキルらしい。
その効果は、隠れているもの、擬態しているものを見つけるのに使えるスキルらしい。
ちなみに、人が嘘をついているのもわかるらしい。
「すごいスキルだな。で? なんで俺に声をかけたんだ?」
そんな事より、なぜ敵だった俺に突然話しかけてきたのか気になった。
「お前に助けてほしい」
どうやら、藁にもすがる思いで、俺に話しかけてきたらしい。
「回復してほしいとかか?」
「違う、俺じゃなくて、俺の部下達を助けて欲しいんだ。それに、俺が回復しても状況は変わらないしな」
「要するに?」
自分を戦闘可能にして欲しい、と言う願いでは無いとすると、一つしか思いつかない。
「地竜を倒して欲しい」
予想通り、そんなことを頼んできやがった。
「無理」
もちろん即答。
「伝説の魔物なのに?」
「あれとは別物、今の俺では歯が立たない」
「使えないな」
失礼な事を言ってきた。
「大体、お前らは俺を討伐しに来たんだろ!? 俺がお前らを助けて何のメリットがある?」
命を狙っていた魔物相手に、自分がピンチになったら助けて欲しいだなんて、虫が良すぎる。
超正論を突きつけてやった。
「確かに………、そう言えば、合成魔って、吸収したものの力を自分のものにできるんだよな?」
突然そんなことを聞いてきた。
「ああ、レベルとか手に入るな」
何か考えがあるようなので、一応答えておいた。
スキルや姿形も手に入るのに言ってない?
いやいや、馬鹿正直に全部教える必要無いだろ。
「じゃあ、俺の力をやろう」
そんな事を提案してきた。
なにこれデジャヴ?
確かにレベル196はありがたいが、地竜に喧嘩を売るとか、完全に無茶振り。
物理攻撃しか出来ない俺に、物理防御特化の魔物とか笑えない。
「無理だな。あんたを【吸収】したとしても、勝てる気がしない」
嘘をついても仕方がないので、正直に答えておいた。
「伝説の魔物のくせに、使えないな」
すげー失礼なことを言ってきやがった。
「てめぇこの野郎。今すぐトドメを刺して、条件無しに【吸収】してやってもいいんだぞ」
「わかった、すまなかった。倒すことは無理でも、部下達が逃げるまでの足止めくらい出来ないか?」
こちらの脅しをサラッと流して、そんなことを提案してきた。
足止めか、相手の攻撃のメインは、物理攻撃だ。物理攻撃にはめっぽう強い合成魔なら、時間稼ぎくらいはできるだろう。
「多分出来る」
「じゃあ、それで良い。俺の力をお前にやる。だから、俺の部下達が逃げるまでの時間稼ぎをしてくれ」
「わかった」
交渉が成立した。
「でも、何で部下のために其処まで出来るんだ?」
森狼帝王の時も思ったが、人の為に自分の命を差し出す。その考えが俺には理解できなかった。
「一番確実な方法を選んでるだけだ。このままでは俺は死ぬ。たとえお前に回復して貰ったとしても、地竜が相手では生きて帰るのは不可能。もう先の無いこの命で、部下達を救えるのなら本望だ」
確かに、この怪我では、[出血]によりHPが尽きて死ぬか、他の魔物に襲われて死ぬだろう。
俺が回復をしたとしても、こんな考えを持っている男のことだ、部下を逃すために、死ぬまで地竜に立ち向かうだろう。
しかし、自分の力では、まともな時間稼ぎができない。
その事を理解している。
だから、部下が生還する確率を1%でも多くする為に、戦闘力未知数の伝説の魔物である《合成魔》と言う存在に賭けたのだろう。
「俺が裏切る可能性は考えなかったのか?」
ただ、この策も、俺が約束を守ることを前提にしている。
魔物が約束を守ること前提の策を立てるなんて、トチ狂ってるとしか言いようが無い。
「その時はその時だ。少しでも多くの部下が逃げ切れる事を願うだけだ」
悟ったような返答が帰ってきた。
その予想外の言葉に、何も返すことが出来なかった。
「まぁ、この世界には正義を司る女神、ユーストレイア様が居るんだ。命を賭けた約束を守らないような悪人には罰を与えてくれるだろうしな」
セドルは笑いながら、そんなことを口走っていた。
「わかった。約束は守ろう。ユーストレイア様が見ているかもしれないしな」
甘い、理解出来ない。
そう思われるかもしれない。しかし、何と無くこの男との約束は破ってはいけない。そう思えた。
「ありがとう、あと最後に伝言を頼みたいんだが……」
………
……
…
「わかった、お前のフリをして、撤退を命じ、2人にさっき言っていた事を伝えれば良いんだな」
「ああ、後は頼んだ」
セドルはそう最後に残して、命を絶った。
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Lv:196
HP:196,999〔+9,850〕
SP:196,999〔+9,850〕
ATK:19,699〔+2,167〕
MATK:19,699〔+9,85〕
DF:19,699〔+2,364〕
MDF:19,699〔+9,85〕
PS:
《特殊系》
真眼Lv.3、高速思考Lv.2
《攻撃系》
天弓術Lv.4
《強化系》
追尾Lv.8、物理攻撃大強化Lv.6、
視覚大強化Lv.6
《操作系》
魔力超操作Lv.2、糸大操作Lv.7
AS:
《特殊系》
超光学迷彩Lv.4
《魔法系》
回復魔法Lv.4、土魔法Lv.5、風大魔法Lv3、
闇魔法Lv.5
《強化魔法系》
クイックLv.10
《物理攻撃系》
高速射出Lv.3
《生成系》
魔矢生成Lv.3
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いきなりステータスの数字がぶっ壊れた。
10万の桁を手に入れた。
ただ、ここまで上がっても地竜には追いつけない。
桁が大きくなると、ステータスが急激に上昇するのは知っていたから、もしかしたら地竜を超えるんじゃないか? と期待していたのだが、無理だったようだ。