6話 完全にホラー、ついでに初殺生
デッサン人形に変身した。
どうやら、関節を動かす事は出来るようだ。
もしかしたら、歩けるんじゃないか?! と思いチャレンジしてみたが、右足を少し上げた瞬間右側に倒れた。
二足歩行の生物の凄さを実感した。
歩くのは断念……。
早速、収納空間に入れておいた紙束の中の一枚を取り出し、机の上に置く。
そして、その紙に這い寄る。
歩く事ができないので、這って移動しています。
木製のテーブルって、凄く滑るんだな。しかも、自分の手も木で出来てる。
もう、ちっとも前に進まない。
木製の、顔もない、デッサン人形が、ガタガタと音を鳴らしながらテーブルの上を這って移動しているとか……キモい……超絶キモい。
紙の真横にたどり着いたので、折り紙を開始する。
うわ、凄く折りづらい。
身体が硬いので、しっかりと折り目をつける事はできるけど、なんと言うか関節が思った以上に狭い。
移動中も思ったけど、想像以上に動きにくい。
それにしても、のっぺりとした顔のデッサン人形が1人でに紙飛行機を折る図とか…………。
ハハハ、完全にホラーだろ、怖いわ。
一番初めの、『紙が自分で勝手に折れて行く様子』や、『テーブルの上を、ガタガタ移動するデッサン人形』も、完全にホラーだろうけど、
多分、今のが一番気持ち悪いな。
さっさと終わらそう。
………
……
…
意外と綺麗に折れた。
こんなに動きづらい身体で折り紙ができるのか? と心配だったが、予想外に上手くできたと思う。
完成した紙飛行機を【吸収】して、準備完了。
霧状になって、窓より上に行き、紙飛行機に姿を変え、風が窓から吹き込んでないのを見計らって窓から飛び立った。
おお! 俺! 飛んでるよ!
乗り物に乗って飛ぶのとは違う。自分の体で、風を感じて飛ぶ。
今まで感じた事のない、表現のしようがない何かに、感動を覚えつつ新たな出発に胸を躍らせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
このまま、どこまでも飛んでいける! そんな風に思っていた時期もありました。
あの後、風に煽られ急降下し、中庭の木に突っ込んだ。
いやー、落ちるの早かったな。
思ったよりも飛んでない。
まぁ、飛んでる時に見えた、中庭にある池に池ぽちゃしなかっただけ良しと思おう。
さて、『紙飛行機でフライ アウェイ作戦』がダメとなった今、どうやって逃げよう?
宝石とかに姿を変え、転がって逃げるのはどうだろうか?
いや、それは時間がかかりすぎる。
それに、キラキラ光って目立つし、見つかった時お持ち帰りされてしまうかもしれないので却下。
それなら、デッサン人形になって歩いて逃げる?
完全にホラーだし、かなり目立つわ! それに、あれ歩けないし……、這って移動するのは、遅いし、怖い。
どうしようかと周りを眺めていた時、視界の中に地面を移動する小さな何かを捉えた。
何あれ、トカゲ?
よし、あれ【鑑定】。
鑑定結果が、頭の中に流れてくる。
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名前: 個体名なし
種族:ウォールウォーカー
年齢:1
ステータス
Lv:3
HP:12
MP:16
ATK:2
MATK:3
DF:3
MDF:4
PS:立体移動Lv.3
AS:なし
危険度:G
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HPとMP以外は、俺よりもだいぶ高いな。
まあ、『ステータスの数字が0ばかり』なんて残念な生物、俺だけだろうけどな。
そう言えば、危険度って初めて見たな……。
取り敢えず、危険度で【検索】だな。
ー《危険度》ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
危険度とは、魔物の強さを、8段階で表したもの。
B以上になると、+、無印、−で、さらに細かく分けられる。
冒険者達は、この危険度を目安に受けるクエストを選ぶ。
危険度【S】:魔王級。
Sランクの冒険者(勇者)がパーティー(6〜7人)を組んで討伐可能。
危険度【A】:準魔王級。
Sランクの冒険者(勇者)が単独、又は、Aランクの冒険者がパーティーを組んで討伐可能。
危険度【B】:
Aランクの冒険者が単独、又は、Bランクの冒険者がパーティーを組んで討伐可能。
危険度【C】:
Bランクの冒険者が単独、又は、Cランクの冒険者がパーティーを組んで討伐可能。
危険度【D】:
Cランクの冒険者が単独、又は、Dランクの冒険者がパーティーを組んで討伐可能。
危険度【E】:
Dランクの冒険者が単独、又は、Eランクの冒険者がパーティーを組んで討伐可能。
危険度【F】:Eランクの冒険者が単独、又は、Fランクの冒険者がパーティーを組んで討伐可能。
危険度【G】:危険度がほぼ無い魔物。
子供でも倒せるものから、大人が少し苦戦するかもしれないものまで様々。
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へぇ、魔王や勇者なんているのか。
まぁ、勇者は魔物の自分としては恐怖の対象以外何者でもないし、
かと言って、魔王も味方なのか? って言われると迷う。
よし、関わらないようにしよう。
一応、種族も見ておくか。
ー《ウォールウォーカー》ーーーーーーーーーーーー
全長15㎝程しかない、トカゲ型の魔物。
魔物の中でも最弱中の最弱。
街でも時々見かけるが、危害を加えてこないし、経験値にもならないので放置されている。
子供にすら負ける。
壁や天井を移動する事ができる。
隠密性が高い。
※最終進化はタイラントタンク
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まぁ、15㎝のトカゲとか前世にいた奴の少し大きいかな? 位だし、完全に子供の遊び道具…じゃなくて遊び相手だろうな。
このトカゲの最終進化とか……大して強く無いだろうな。
まぁ、気になったので【検索】だ。
ー《タイラントタンク》ーーーーーーーーーーーーー
危険度【A】の魔物。
8本ある足の機動力によって、90度を超える壁も余裕で走る事ができる。
また、非常に足が速く、その巨体も合わさって、通った道にある全ての物を破壊し、蹂躙する。
この魔物によって滅ぼされた国は数えきれない。
幻影魔法と隠密系のスキルを持つので、直前まで気付くことができないのも、被害が拡大した理由の一つだろう。
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めっちゃ強かった。
弱いとか言って、ほんっとにすみませんでした!!
それにしても、人々は、何でこんな物騒な魔物に進化するトカゲを放置してるのだろうか?
もしかして知られてないとか?
まぁ、どうでも良いけど……、
それよりも、壁も走れるのはかなり便利だろう。
足もそれなりに早そうだし、隠密性が高いのも嬉しい。
それに、進化先にも期待が持てる。
それに、なんと只今ウォールウォーカーさんは、タイミング良く俺の真下に居ます。
これは、吸収しないと自分の身の犠牲も厭わず、俺に近寄って来てくれたウォールウォーカーさんに失礼ってもんですよ!(←盛大な勘違い)
確か、【吸収】って相手に抵抗されないようにしないとダメなんだよな。
抵抗されない状態……死体……倒すか。
倒すと決めたは良いが、どうやって倒そう。
鑑定石や本になって、上から落ちて潰すか?
いや、地面は土だから死なないかもしれない。
俺には自由に動く方法が無いに等しいので、逃げられたら追いかける手段が無い。
一撃で決めたい。
剣で刺し殺すか……、うん、それが確実だな。
決まったら即行動だ。
狙いを定めて……、
剣に変身して飛び降りる。
ヒュー
ザクッ!
【ウォールウォーカーを倒しました】
【経験値を6獲得しました】
【Lv.3になりました】
【レベルアップボーナスで全回復しました】
何とか一撃で倒せたようだ。
おそらく、こちらに気付く事も無く死んだのだろう。
南無…
殺したの俺だけどな。
それにしても、レベルアップしたら全回復するのか、ありがたや。