49話 フォレストウルフとの決着
結局、岩が無くなるまで撃ち続けた。
一応【探知】を使って、森狼が居ない所を狙ったのだが、岩と岩が衝突し砕けた破片が飛び散り、甚大な被害を与えていた様だ。
土煙が消えたので、周りを眺めてみると、完全に地形が変わっていた。
岩だらけ……
倒れている森狼の中で、一回り以上大きい個体を見つける。
ゲイル、あんな所にいたのか。
ゲイルに近寄る。
どうやら、大きめの破片が直撃してしまった様だ。
一応【鑑定】してみる。
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名前:ゲイル
Lv:83
HP:405 / 3604 [流血]
SP:165 / 621
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どうやら骨折もしてるっぽいな。
もう流石に、攻撃してくる意思は無いだろう。
他の森狼も、完膚無きまでに打ちのめされていて、敵意は感じられない。
なんとか、森狼皇帝との約束は守れそうだ。
『降参?』
ゲイルに向けて【念話】を送る。
『そんな事、するわけ無いだろ!』
そう言って、いきなり飛びかかってきた。
『まだ動けるのかよ!』
咄嗟に、近くに落ちている岩の破片を掴みゲイル目掛けて【射出】した。
30センチ以上ある石は、ゲイルの腹にめり込み、吹っ飛ばした。
『あ、やり過ぎた』
ピクピクしている。
今のは俺が悪い、完全に失言だった。
ゲイルにとって俺は、どんな手を使っても(自分の娘を殺す事になっても)殺したいほど恨んでいる相手。
その相手に『降参?』って…………、完全に煽ってますね、ありがとうございました。
それにしても、リーダーが満身創痍の状態……この群大丈夫かな?
敵ながら、若干心配になる。
『ちょっとやり過ぎじゃない?』
そんな【念話】が飛んできた。
『手加減できなかった。つか、お前よく巻き込まれなかったな』
そう、念話の送り主はノイルだ。
『手加減っていうか、一方的な虐殺にしか見えなかったんだけど? 大体、貴方は私を助けに来たんじゃ無いの? 私、死ぬところだったんだけど?』
ノイルの言う事は最もだろう。
めっちゃ申し訳ない。
でも、仕方が無いと思う。だって向こうから凄い勢いで先制攻撃が飛んできたし。
そう説明すると、
『まぁ、確かにフライング気味だったし、仕方が無い……のかな』
渋々と言った感じだが、何とか納得してくれた様だ。
『それより、この状況って群を存続できそう?』
一応聞いておく、まぁ、結果は火を見るよりも明らかだけど……。
『見ての通り、絶望的ね』
予想通りの答えが返って来た。
『あー、やっぱり?』
『リーダーも動ける状態じゃ無いし、群の半分以上が怪我をしているし……』
どうやら、ノイルはゲイルの事を父と呼ぶのは、やめた様だ。
まぁ、あれだけの仕打ちを受けたのだ。仕方が無いだろう。
『あ、そう言えば』
ノイルが何か思い付いたように言った。
嫌な予感がする。
『貴方、【回復魔法】が使えたよね? みんなを助けてくれないかな?』
そんな事を提案して来やがった。
正直、この後の移動もあるし、温存しておきたい気持ちがある。
それに、こいつらは、さっきまで俺の事を殺そうとしていた、敵である。
しかし、これ断れる雰囲気じゃなくね!?
仕方なく、その提案を飲んでおいた。
この惨事の原因俺だしな。
まぁ、元を辿れば全てゲイルが悪いのだが……。
一通り、死なない程度に【回復魔法】を掛け終わった。
『ふぅ、これで死ぬ事は無いだろう』
俺が一息ついていると、
『元々、私たちフォレストウルフが貴方を巻き込んだはずなのに、殺さない様にしてくれただけでなく、魔法で助けて貰えるなんて……、本当にありがとう』
ノイルは、そう言い頭を下げてきた。
別に気にしなくていい、あと、魔法で助けろって言ったのはお前だからな?
そう言おうとした所で、大量の魔物の反応が【探知】に引っかかった。
その足音は直ぐ近くまで来ている。
ただ、この魔物の反応……恐らくあれだよな。
飛び上がり、魔物の集団の反応があった方を見る。
そこには、森狼の大群が走って来ているのが見えた。
その大群の先頭には、ゲイルと同じく他の森狼より一回り大きい森狼と、体毛の色が濃い見覚えのある森狼が走っていた。
『ゲイル! 助けに来たぞ!』
その大音量の【念話】が頭に響く。
どうやら援軍だろうな。
………
……
…
こっそりノイルから送られてきた【念話】に寄ると、
援軍に来たのは、ゲイルの実兄のラディアと言う森狼らしい。
ゲイルが、俺に決闘宣言をした日、その噂を嗅ぎつけたギルディアは、ラディアに『悪魔に魂を売ってくる』と言い残して、行方不明になった。
そして、その2日後、ラディアは『ゲイルがピンチだ。助けに行ってやれ』と言っていたと側近から聞き、戦闘準備をして、出発したらしい。
時系列にすると、
決闘宣言:森狼皇帝行方不明。
森狼皇帝の遺言その1
決闘3日前:合成魔が森狼皇帝を【吸収】
決闘2日前:森狼皇帝の遺言その2
決闘前日:ラディア戦闘準備、出発。
決闘当日:ゲイルの住処に向かう途中、援軍を要請しに来たノウと遭遇、
ノウの道案内でここまで到着し、現在に至る
俺の事を悪魔呼ばわりとか、いろいろ突っ込みどころはあるけど、取り敢えず、
ギルディア! お前俺の事全く信用してねーーじゃん!!
一応、2章はこれで終了です。