48話 決闘開始
ゲイルがノイルに近付いて行く。
おそらく死刑執行とやらだろう。
はぁ、珍しく自己嫌悪……。
我ながらアホだと思う。
ただの、一回話しただけの他人。
しかも、罠かもしれない。
なのに、見殺しにするのは寝覚めが悪い。
そんな事を思っていた。
遂に、ゲイルがノイルの側に辿り着き、爪をノイルの首元目掛けて振り下ろそうとする。
その爪が、ノイルの息の根を止める前に、森から飛び出した。槍兵鹿で。
何故、槍兵鹿を選んだかと言うと、
森狼では、相手の怒りを買ってしまうかもしれない。森狼皇帝の姿なんて以ての外だ。
迷彩烏は、体が小さいから気付かれない可能性があったし、そもそも地上移動に向いてない。
以上の理由から、槍兵鹿を選んだのだ!
変身してみたかったとか、そんな訳ではない!
『やっと来たか……』
ゲイルは、すぐ俺に気付き、振り下ろす爪を途中で止めた。
『ちゃんと来たんだし、ノイルを放してくれるんだろ?』
嫌々、渋々、誠不本意ながら、ちゃんと来てやったのだ。約束は守ってもらわなければ困る。
『何を言っているんだ? 俺は「助けたければ来い」と言っただけで、「お前が来たら助けてやる」とは一言も言ってないぞ?』
そんな返事が返ってきた。
うわ、汚ねぇ!
『ノイルを助ける為には、俺を倒す以外の方法はない』
何度も突っ込んでいる事だが、親の発言とは思えない。
自分の妻がボロボロになって帰ってきて、腹が立っているのはわかるが、自分の娘の事を雑に扱い過ぎじゃないか?
まぁ、俺が気にしても仕方がないな。
俺が今できる事は、こいつをフルボッコにして、ノイルを助ける事。
あの爺さんとの約束は、努力目標にしておこう。
つまり、約束守れたら良いなー、程度に考えとく。
いつでも戦闘に応じれる様に、下級兵士に変身しておく。
決闘開始と言わんばかりに、ゲイルと睨み合いが始まった。
そして、銃を構えて撃とうとした時、目の前が見えなくなった。
いや違う、舞い散る砂埃で視界がふさがれた様だ。
周りを見てみると、俺を囲う様に風が回転して壁を形成している。
竜巻の中にいるみたいだ。
こんな事が自然に起こるとは思えない……、【風魔法】か!
ただ、これだけの規模のものを、ゲイル1人で起こせるはずがない。つまり、
『すまんな。初めは一対一で戦うつもりだったのだが、ノウが確実に勝つ為に、群全員で戦って欲しいと言うのでな。
諦めて死んでくれ』
全く悪びれた様子もなく、そんな事を言ってきやがった。
やはり、この風の壁は、複数の森狼が維持している様だ。
あのクソ狼が……。
この風の壁は魔法で構成されているので、がっつり干渉を受けてしまう。
突撃するのは危険だし、空を飛び上から逃げる事もできない。
これを抜けるのは難しそうだ。
しかし、魔法という事は、いずれSPが切れて使えなくなるという事になる。
ほって置けば大丈夫か。なんて余裕をぶっこいていたら、壁の外から何か飛んできた。
それは、俺の腕を斬り飛ばし、壁の中に消えていった。
ついでに、俺の斬り飛ばされた腕も、壁の中に取り込まれて行った。
又もや【風魔法】だ。
これは以前に食らった事がある。
確か、風の刃を作り相手に目掛けて飛ばす魔法だったはず。
その風の刃は、追い打ちをかける様に次々に飛んできた。
あれに斬り飛ばされると、壁に吸い込まれて分離した部分の回収ができない。
当たらないに越した事は無い。そう思い、出来るだけ当たり難い様、身をかがめる。
このままでは、相手のSPが尽きる前に、細切れにされて俺が力尽きる。
どうするか……。
…………まてよ? すごい勢いで、飛び出る点なら逃げれるかもしれない。
やるしかない!
鉄剣を出す。
うん、自分の意識はあるのを確認すると、外目掛けて思いっきり【射出】した。
鉄剣は風の壁をつき破り、近くの木に刺さる。
うお、刺さった……ってこんな事に感動している場合ではない!
HPを確認する。
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Lv:74
HP:712 / 7499
SP:7494 / 7499
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結構減っちゃったな。
【回復魔法】を惜しみなくつかう。
今回の戦闘方法は上から岩を落とすだけだからな。
そんなにSPは要らないのだ。
【回復魔法】発動!
100回以上使ったせいで、【回復魔法】と【回復魔法強化】のレベルが6になった。
HPが満タンになった所で、迷彩烏に変身し上空に行く。
さぁ、《隕石》を使うか……、と思った所で思い出した。
ノイルが、言っていた『この群はいつ滅ぼされてもおかしくない』という言葉を。
やり過ぎたらマズイよな。
直撃させない様に気を付けよう。
早速森狼達の真上まで飛んで行き、岩を【射出】を使って落とす。
岩が地面に当たる鈍い音と共に、砂埃が舞い上がり、森狼達がパニックになり逃げ惑う。
うわ、下が地獄絵図。