47話 死刑執行
決闘前日、
暫くこの森には帰ってこれなさそうだ。
きっと、ゲイルは、俺が決闘から逃げた事を根に持っているだろうし。
少し寂しい気もするが、あまり長く居ると面倒ごとに巻き込まれそうなので、早めに退散する方が良い。
ちなみに、夜に出発しなかった理由としては、
目的地までの道のりの中で、危険な所があるかもしれないから、万全を期して行こうと言う理由だ。
一応ステータスを確認する。
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Lv:74
HP:7499
SP:7499
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よし、両方満タンだな。
早速、迷彩烏に変身し出発した。
【探知】を使い、出来るだけモンスターの少ないところを選んで進む。
【探知】のレベルが低いせいで、あまり広い範囲を見る事はできないが、
その範囲内だけでも、目まぐるしく動く点……。
低レベルな所為で、魔物を全て探知してしまっているせいだな。
うぇ、気持ち悪っ。
自身の安全のためにも、スキルのレベルを上げ、見える範囲を拡げるべきだ。
しかし、今でさえ気持ちが悪い。
これの範囲が広がるとなると……うわ、耐え切れる気がしない。
まぁ、スキルのレベルが上がれば、範囲が広がるだけで無く、ある程度対象を選べるようになるらしいのでそこに期待しよう。
ちょうど森から抜けたところで、振り返る。
あまり良い思い出は無いけど、今思えばそんなに悪く無い気がしてきた。
うん、気が向いたらまた来よう。
そんな事を思い、再び、アース大空洞目掛けて進もうと思った所で、
『おい! 合成魔!
ノイルを反逆罪として捕らえた。
明日の決闘が終わり次第、こいつを死刑とする。もし、ノイルの命が助けたければ、必ず決闘に参加しろ』
そんな【念話】が届いた。
またかよ! もう【念話】での指名は無いと思っていた。
さすがに、もう無いとは思っていたのだが、
あったね…………。
つか、あいつなんて言った?
ノイルを死刑?
ノイルはあんたの娘でしょうに……。
もしかして、人質って事?
俺を呼ぶ為に、実の娘を?
うーわ、最低かよ。
俺の中のゲイルのイメージは、これ以上に無いくらい下がっていたはずなのに、今の発言で底が抜けた。
大体、何で俺とノイルが話をした事を、ゲイルが知っているんだ?
あの時、周りには何もいなかったはず…………、そこで、ふとあの時【探知】に魔物が映ったのを思い出す。
あ、あれ、森狼だったのか。
もしかして、跡をつけられていた?
まぁ、俺がノイルを助ける理由が無いよね?
会ったの一回だけだし、別に仲が良いって訳でも無いしな。
はは、しーらねっ
………
……
…
いつの間にか、岩集めとスキルのレベル上げを再開している自分がいた。
別に、助けに行くとか、そんなつもりはない!!
ただの、俺への新たな脅しだったら、ノイルはすぐに解放されるだろ。
うん、その様子を影からこっそり見に行くだけ。
それ以上の事はしない。
別にノイルが殺されようとも、助ける気は無い……と思う。
まぁ、さすがに俺を呼ぶ為だけに実の娘を殺すとか、そんな事するわけないよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
決闘当日
明らかに魔物が多い地点を【探知】が捉えた。
そこを見てみると、木が無く、広場みたいになっていた。
恐らく、そこが決闘の場所だろう。
つか、決闘しろとか言っておいて、場所も時間も決めてないって、あいつはアホなのか?
まぁ、愚痴っても仕方が無いし、この場所に向かった。
………
……
…
飛んでいると目立つし、体力やSPは温存しておきたい。
ある程度近付いたら、地上移動に変え広場ギリギリまで行き、木の陰から眺めています。
勿論、【暗躍】の発動も忘れない。
確か、森狼の女王は【感知】持ってたからな。
おお、何十匹もの森狼が集まり、その真ん中には、他の森狼よりも一回り以上大きいゲイルと、鎖に繋がれたノイルが居た。
うん、完全にアウェイ!
何この森狼大集会……。
これ、俺が出て行ったら袋叩きだろ?
怖っ。
まぁ、出て行きませんけどね。
森狼達が何か動きを見せるまで、暫く眺めておく事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『遅い!』
そんな【念話】が聞こえて目が醒める。
あ、いつの間にか寝てた。
見る感じ、かなりお怒りのご様子。
俺が出発したのは朝、
現在昼過ぎ。
いつの間にか結構経ってたな。
4〜5時間くらい?
それだけ待たせられたら腹も立つよな……今日はあと半日くらいあるけどね。
まだ、約束の期間内だけど、
『合成魔! どこかにいるんだろ?! 早く出て来い!』
ゲイルは【念話】を使いそんな事を叫んだ。
おお、超呼ばれてる。
まぁ、出て行くわけ無いけど。
木の陰から観察を続ける。
『出て来ないなら、もう死刑を執行するしか無いな!』
そう宣言した。
どうせ脅しだろうし、大丈夫だろう。
あいつもアホだよな。
実の娘を人質にするとか、説得力が無さ過ぎる。
それに、何で俺が、一回話しただけの相手を助ける為に、決闘に応じると思っているんだ。
人質役のノイルも、眠そうに地面に倒れこんでいるし……あれ? 力尽きて倒れてる……何て事は無いよな?
【鑑定】を使う。
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名前:ノイル
Lv:34
HP:126 / 542
SP:367
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俺を騙すために、そこまでするのか……、スゲーな。
演技だよね?
心なしか、演技じゃ無い気がしてきた。
そう言えば、【念話】は対象を選んで送れたよな?
本人に聞いてみるか……。
『なぁ、大丈夫?』
早速、【念話】の対象をノイルにして送った。
『……まさか……、合成魔!? 何で逃げて無いのよ!!』
心配してやったのに、いきなり怒鳴り声が頭に響く。
『怒鳴るなよ。頭に響くだろ?
つか、お前本当にピンチなの?』
ノイルも森狼なのだから、信用できるとは思えないが、一応聞いてみる。
『……こんなのどうとでもなるわ。だから早く逃げて!』
どうやら、ピンチのようだ。
少し話しただけだが、あいつは嘘をつけるタイプじゃない気がする。
『抵抗しないの?』
『抵抗すると、動けなくされるから……』
なるほど、ノイルのHPが減っている理由はそういう事か。
『とにかく! 私は大丈夫だから、貴方は早く逃げて!』
『最後に質問いいか?』
最後に一つ確認したいことがあった。
『本当に最後だからね?』
どうやら、答えてくれるらしい。
『今の状況は、俺を誘き出す為の演技?』
『……、そうよ。演技なの! 貴方が出てきたらみんなで囲って殺す気だから! 私の事なんて気にせず、さっさと逃げて!』
明らかに、そう答える様子が演技だった。
『なんか、間があったけど、わかったよ。じゃあな』
そう言って、【念話】を切った。