46話 ノイルの頼み
『逃げて欲しい? もしかして、決闘から?』
『そう! 後2日あるし、その間に出来るだけ遠くに逃げてくれないかな? 決闘から逃げるなんて、貴方のプライドが許さないかもしれないけど、今回だけはお願い!』
そう言って頭を下げてくる。
うん、そんなプライド持ち合わせて無いし、逃げれるなら逃げたいです。
でも、この狼が、何でそんな事を言うのか気になった。
『どうして、俺が逃げないといけないんだ?』
決闘に乗り気な態度を取っておく。
そうすれば、理由が聞けるかもしれないしな。
『理由を言わなくちゃダメ?』
勿論、
『何の理由がわからないのに、決闘から逃げる訳にはいかないだろう?』
理由を聞かなくちゃ止めない、的な事を言っておいた。
『わかったわ! 話せば良いんでしょ?』
うん、素直に白状するんだ。
『ゲイルは私のお父さんで、群のリーダーをやっているの、それで…………』
《割愛》
要するに、
自分の父の群は、近くの大きな群から分裂して出来た。
その為、いつ他の群に滅ぼされてもおかしく無いほど、規模が小さいらしい。
今は、森狼の中でも異例の強さを誇る父が、目を光らせているお陰で群が成り立っている。
つまり、父に万が一の事があったら、その群の滅びに直結するらしい。
『なるほど、群の為にも、父に危険な橋を渡らせるべきでは無いという事か』
『はい、父にも考え直すよう言ったのですが、聞き入れてくれなくて……』
娘さんは色々考えてるのに、父親ときたら……、
ゲイルだっけ? 多分、あいつの今の一番の決闘の動機って『溺愛してる嫁を傷付けられた』からだろ?
しかも、嫁さんが俺に攻撃を仕掛けてきた原因ってあいつだよな?
はは、ゲイルさんとやらは、人の上に立つべき人物では無いな。
まぁ、理由は聞けたし、そろそろ本音を話すか。
『まぁ、逃げたくても逃げられないんだけどね』
『どうして?』
『逃げたら、全世界のフォレストウルフに指名手配するって脅されてるから』
正直に、ゲイルの言っていた脅しの内容を伝える。
『お父さんにそんな力は無い!
そんな事ができる狼なんて、ギルディアお祖父様くらいしかいないわよ』
やっぱり、ゲイルの嘘だったか…………あれ? ギルディア? 聞いた事ある名前だな。
『……ねぇ、ギルディアってどんな狼?』
嫌な予感がしたので、一応聞いてみる。
『ギルディアお祖父様? 私達フォレストウルフの、生ける伝説みたいな方ね。最近はお年を召して、隠居しているって聞いたけど』
昨日、その生ける伝説を【吸収】しちゃいましたけど!?
また森狼に恨まれる原因ができた。
つか、
『お祖父様? え、親族なの?』
『うん、お父さんのお父さんだよ』
そこの繋がりもあったのかー!!
世の中狭いな。
うん、ギルディアを【吸収】したのは黙っておこう。
『……そんな事より、やはり嘘だったのか』
無理やり話を戻す。
『うん、だからお願い! 逃げて欲しいの!』
俺がやらかした事を知らないノイルは、何も突っ込んでこなかった。
『オーケー任せろ!!』
即答だった。
だって断る理由無いし? 気兼ねなく逃げれるなら、それに越したことは無い。
………
……
…
話も終わったので、ノイルと別れ、【探知】を発動する。
そこにはノイル以外の何者かが離れていくのがわかった。
……まさか、ね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ゲイル様!! ご報告があります』
ゲイルの元に、1匹の森狼が現れた。
『お前は、ノイルの監視役か……話せ』
ノイルが余計な事をしないか監視する為に、尾行を付けていたのだ。
『ノイル様が、合成魔と思わしき魔物と接触しました』
やはりか。
ノイルの事だから、自分が説得できないとなれば、相手に行くだろうと予測していた。
『様子はどうだった?』
恐らく、【念話】で話していただろうから、会話の内容を聞くことは出来ない。
となると判断根拠は、彼らの話している様子だ。
自分は、合成魔に脅しをかけておいた。
そして、未だに、合成魔がこの森にいると言う事は脅しを信じている証拠だ。
脅しが効いているとなると、合成魔は決闘を回避する事ができない。
一方、ノイルの方は決闘を止めて欲しい。
ノイルが余計な事を言わなければ、確実に揉めるだろう。
『そうですね…………、会話が終わった後、ノイル様はご機嫌でしたし、会話中も打ち解けていた様子に見えました』
ノイルの機嫌が良いとなると、決闘回避の目処が立った、という事だろう。
あいつは余計な事、《ゲイルの脅しが何の根拠も無い嘘だった》と言ったのだろう。
『わかった。もう下がって良い』
監視役を下がらせる。
さて、どうしたものか、とのゲイルは考える。
このままでは、確実に合成魔は逃げる。
…………打ち解けていた? もしかしたら。
ゲイルの脳内には、人として、いや、親として最悪の作戦が思い付いていた。
いや、しかし、打ち解けていたとしても、釣られてくれるだろうか?
正直、少し話をしただけの相手を助けに来るとは思えない。
しかし、可能性は0ではない。
他の方法も無いし、やってみる価値はあるだろう。
『お前ら! 命令だ! 今すぐ、ノイルを捕らえろ!』
自分の部下達に【念話】送りつけた。
そう、
《ノイルを人質にし、合成魔を呼び寄せる》
それを実行する為に。