42話 ノウの葛藤
目が醒めると、毛布の中にいた。
記憶が曖昧だ。
未だぼーっとする頭を整理する。
確か、合成魔に戦いを挑んで、その後…………、うっ!
頭痛と共に思い出されるのは、自分を逃げさせるために、合成魔の凶弾に倒れる仲間たちの姿。
ああああ! ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい!
きっと彼らはもうこの世には居ない。
謝っても仕方がないのは分かっている。
でも、私には、ただ謝る事しかできなかった。
『あ! お母さん! 目が覚めたのね!』
最愛の娘、ノイルが尻尾を振りながら近寄ってきた。
『あら、ノイル』
娘の顔を見て、暗い気持ちが幾分かマシになった気がする。
『良かったー。心配したんだよ?』
そう言いながら身体をこつりつけてくる娘が、可愛くて仕方がない。
『ゴメンなさいね? 心配かけちゃって』
心配させてしまったお詫びな、顎で頭を撫でてあげた。
『いいよいいよ! それより聞いてよお母さん! お父さんに決闘をやめるようにお願いしたんだけど、やめないって言うんだよ? お母さんも反対だよね!? 』
その言葉に、「うん」と頷くことはできなかった。
ノウは迷っていた。
確かに、合成魔は得体が知れなさ過ぎる。
正直、ゲイルを戦わせたくはない。
しかし、あいつは容赦と言うものを知らない。
敵意がないとは言っていたが、何処まで信用していいかわからない。
今後の群の事を考えると、そんな危険な魔物を野放しにしておくよりは、倒してしまった方が良いとも思う。
『ゴメンなさい、それはお父さんが決める事、私にはどうしようもないの』
『そんな、お母さんまで……』
自分の母なら賛同してくれると思っていたノイルは、見るからにガッカリしていた。
ノイルに何て声を掛ければいいのか分からず、黙っていると、
『ノウ様!! ご報告があります!!』
1匹の森狼が息を切らした入ってきた。
『わかりました。話しなさい』
ノイルにゴメンなさいと言い、自分から離れさせ、報告を聞く。
『ノウ様のお供として行った3匹が、ついさっき帰還しました!!』
その報告は、嬉しいと共に、とても信じられないものだった。
『本当ですか!? 容体は?』
『疲弊はしているものの、傷は全て塞がっていて、もしかしたら、ノウ様より良いかもしれません』
『そんな、まさか……』
彼らは、自分の代わりに弾丸を受け続けていた。
下手すると、いや、自分が最後に見た彼らは死は免れない位の怪我していたはず。
生きている事自体が奇跡の様なものなのに、自分より容体が良い訳がない。
『詳しい話が聞きたいですね。
彼らに、「元気になったら私の元に来てください」と伝えて下さい』
自分と別れた後、何が起こったのか、それを知るために伝言を頼んだ。
………
……
…
彼らはすぐに来た。
彼らと私だけにして欲しい、とノイルに頼んだところ、快く承諾してくれた。
『あの時は、本当に申し訳ありませんでした』
先ずは、彼らの命を危険に晒してしまった事について謝る。
彼らは『気にしなくてもいい』と、許してくれた。
『ありがとうございます。
それでは改めて、おかえりなさい、身体の具合はどうですか?』
『未だに信じられないのですが、あれだけの事があったにも関わらず怪我らしい怪我が見つからないんですよ』
『傷も塞がってるし、軽い疲労感があるくらいですね』
2匹の言う事に偽りはなく。
ぱっと見怪我らしい怪我はなく、流血の後はあるものの、傷口は完全に閉じている。
水浴びをしたら、まったくわからなくなるだろう。
【鑑定】もしてみたが、あれだけ減っていたHPが8割近く回復していて、[流血]の文字が無くなっていた。
私達森狼は【自動回復】と言うスキルを持っているが、2人ともレベル1。
少なくとも、レベル1の【自動回復】では、[流血]のダメージに回復が追いつかず、生き残れるとは思えない。
それこそ、回復魔法でも使わなければ……、そこで思い出す。
『俺の持つスキルですか? ……そうですね回復魔法は持ってますよ』
…………まさか……。
信じられない。あの魔物がそんな事するはずがない!
しかし、回復魔法を使わずにあの窮地を脱出できるとは思えない。
まだ、そうと決まったわけではない。
そう自分に言い聞かせ、彼らに質問を続ける。
『あの後、覚えている事はありますか?』
『そうですね……ノウ様を見送った後、意識が遠くなっていって、そこから記憶がありません』
『僕も一応、そこまでの記憶はあります。ゴメンなさい。あの時、動けてさえいれば……』
そう話すのは、ノウが合成魔に襲いかかった時に突き飛ばして、弾丸から彼女を守った森狼だ。
『いえ、私が帰ってこれたのは、あなたのお陰でもありますよ。
あの時、貴方が突き飛ばしてくれなかったら、私はあそこで息絶えていたかも知れません』
『僕にはもったいないお言葉……』
その森狼は、自分が守るべき女王がピンチの時も、仲間が攻撃を受けている時も、眺めていることしか出来なかった。
そんな悔しい思いをしていたのだろう。
ノウの優しい言葉に感余って泣き出してしまった。
自分の毛布を渡し、涙を拭くように促すと、
会話を再開した。
『記憶が無い……ですか。目が醒めるまでに、何か感じた事はありませんか?』
『そうですね……、強いて言うなら、身体が冷たくなり死を覚悟した時に、やたら温かい光が身体を包む感じがした気がします』
ほかの2匹も、その言葉に同意をする。
温かい光……
ノウは昔、怪我している所を人間に見つかり、回復魔法で治療してもらった事がある。
その時、温かい何かに包まれた感覚がした事を思い出す。
……ダメです。
彼らが生きて帰ってこれた理由。
「合成魔が彼らに回復魔法を使って助けた」意外の理由が思いつきません。
彼らにその事を話した。
彼らは驚いた様子だったが、何処かでそんな気がしていたのだろう。
あっさりと受け入れていた。
理由を聞いて見た所、
彼らが言うには、ノウが見えなくなった途端攻撃の手が止み、その後は意識を失うまで何もしてこなかった。
何より、『自分たちが生きているのが何よりの証拠だろう』だそうだ。
『正直、あの合成魔は危険なのか迷いますねー』
この会話を聞いている者が他にいるなんて、彼らは知る由もなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『なるほど、合成魔は話が通じるのね! 直接示談しにいきましょう!』