41話 地獄の果てまで
ゲイルの我慢は限界だった。
ノウの帰りが遅いのだ。
もう日が陰ってきているというのに……あいつは何をしているのか?
普段なら心配などしない。
何故ならノウは強い、そして何より賢い。
ノウに絶大な信頼を置いているゲイルだが、今回だけは嫌な予感がしていた。
ノウが出てから胸騒ぎが止まらない。
…………
迎えに行ってやってはどうだろうか?
そうだ、そうしよう!
実行に移そうとした時、洞窟の入り口付近が騒がしくなった。
帰ってきたのか……まぁ、ノウが殺られる筈がない。
ゲイルは、柄にもなく安心しつつ入り口に向かった。
………
……
…
ゲイルは、帰ってきたノウの姿を見て驚愕した。
所々には血の跡があり、見るからにボロボロだったのだ。
ノウは自分の顔を見るなり、今にも倒れそうな身体をピンと張り、
『ゲイル様、御報告があります!』
報告を始めた。
………
……
…
『ノウ、ご苦労だった』
その言葉を聞くや否や、ノウは、張り詰めていた糸が切れたかのように倒れ意識を失った。
ノウの介抱を他の森狼に任せると、ゲイルは洞窟の外に飛び出した。
そして、近くの丘を駆け上がり、【念話】を使って叫んだ。
『おい! 合成魔!!
明日の朝、この森で一番大きな沼の前で話がある!!
絶対に来い!!
もし逃げでもしてみろ! 地獄の底まで追い掛けてその首元噛みちぎってやる!!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はぁ、やってしまった。
ステータスを見てみる。
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ステータス
Lv:47
HP:2492 / 4799
SP:0 / 4799
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0になったSPを眺めて思う。
なんにもする事がないな。
あいつらにトドメを刺していたら、今頃レベルが上がって、スキル使いたい放題だったんだけどな。
あの後、申し訳ない気がしてきて、有り金ならぬ、有りSPを全て【ヒール】につぎ込んだ。
ちなみに、【ヒール】と【回復魔法強化】とがレベル4になった。
まぁ、じきに目を覚ますだろう、という事でその場に放置してきた。
惜しい事をしたかな……。
やってしまった事をグダグダ考えても仕方がない。
日も落ちてきたし、そろそろ寝るか……。
そう思い、木の枝に止まった所で、頭に怒鳴り声が響いた。
『おい! 合成魔!!
明日の朝、この森で一番大きな沼の前で話がある!!
絶対に来い!!
もし逃げでもしてみろ! 地獄の底まで追い掛けてその首元噛みちぎってやるからな!!』
あー、頭がガンガンする。
誰だよこんな時間に大声出す馬鹿は……。
…………え? 今合成魔って言ってた?
まさかの名指し、
うーわ、面倒ごとに巻き込まれる予感がする。
逃げるか…………とも思ったが、地獄の底まで追いかけるって言ってるし、声の怒り具合からして、本当にやりかねん気がする。
追われる身になるのは懲り懲りなんだよな。
王都での事を思い出し、しみじみと思う。
つか、なんでこの声の主はこんなに怒ってるんだ? 俺何かしたっけ?
心当たりは…………まさか……
いや、そうと決まったわけではない!
ちょっと調べてみよう。
ー《フォレストウルフ・クイーン》ーーーーーー
フォレストウルフの特殊進化。
身体能力は、普通のフォレストウルフとさほど変わらないが、優れた子孫を残す事ができる。
その為、危険度は【D】とされている。
フォレストウルフ・キングの番の内、本当に愛された雌のみが進化する事ができる。
その為、クイーンを狩るとキングが荒れて、森の危険度が上がる。
しかし、放っておくと強いフォレストウルフが増えてしまう。
もし見かけたらギルドに連絡して、討伐部隊を組んで、狩りましょう。
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あははー、予想通り……。
さっきの声の主は、フォレストウルフ・キングだろう。
完全におこですね、いや、激おこぷんぷん丸くらいかな?
うん、顔を出すだけにして、戦いになりそうだったら全力で逃げよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
丘から帰ってくると、明らかに不機嫌な様子の森狼が待っていた。
『お父さん、おかえりなさい。
お母さんがギズだらけで帰ってきたんだってね。』
その狼は、自分とノウの最愛の娘、ノイルだ。
『あぁ、そのようだな』
素っ気なく返すが、
『冷静な風を装わなくていいよ。さっきの【念話】聞こえてたから』
あの【念話】聞いていたら、冷静なフリををしてるのがバレてしまうのも仕方がないだろう。
何故ノイルが【念話】を聞く事ができたのかと言うと、
ゲイルは、合成魔が何処にいるのかわからなかったので、【念話】の届く範囲全域にいる全ての生物に送ったからだ。
しかも、こんな時間に大声で。
完全に迷惑行為である。
『で、ノイルは俺に何の用だ?』
『お父さん……合成魔と決闘しないで』
ノイルはそんな事を言い出した。
今回被害にあったノウは、ゲイルにとって最愛の妻であると同時に、ノイルにとっては最愛の母のはず、
それなのに、何故そんな意見が出てくるのか、ゲイルにはわからなかった。
『何でだ?』
『何でって……あのお母さんが倒された相手なんだよ!? そんな相手に決闘を挑むなんて危険過ぎる!』
ノイルは、必死に決闘をやめるよう迫ってくるが、
『俺はノウより圧倒的に強い』
『単純なステータスならそうかもしれないけど……』
『それに、あいつはノウを傷付けた。
許すわけには行かない!』
最愛の妻を傷つけられたのだ。
ゲイルの中に「やめる」なんて文字は無かった。
『考え直す気は?』
ノイルの顔には、考え直して欲しい、そう書いてあったが、
『ないに決まっているだろ』
ゲイルは即答した。
『お父さんの頑固者!!』
そう残して、ノイルは走って行った。