34話 三度目の正直
空で姿を消したのが悪かったのだ。
それが原因なら話は簡単だ。
『空で姿を消さなければ良い』
つまり、地上に降りるフリをして、木に隠れた所で【超光学迷彩】を発動。
これで、後は前回と同じようにやればいい。
『三度目の正直』って言葉もあるんだ。次は成功するだろう!
え? 二度ある事は三度ある?
そんな言葉、俺の辞書にはない!!
………
……
…
何時ものように、マッドワームを誘き出し、沼から引き離したところで戦闘開始。
案の定、倒す直前で3匹の森狼達が乱入して来た。
よし、釣られてきたな。
迷彩烏に変身して飛び去り、
良い感じに離れたら降下して木の枝留まる……と見せかけて【超光学迷彩】を発動! 森狼達の場所に戻った。
予想通り、森狼達はマッドワームを解体していた……2匹で。
1匹は、解体中の2匹の近くで立っていた。
あれ? 1匹何してんの?
よく見ると、耳をピンと立て空を見回している。
もしかして、あいつ見張り係じゃないか?
まぁ、そりゃそうだ。
前回、空に俺がいたのを見られているのだ。そこを警戒されない訳がない。
どうする? 突入するか?
今特攻をかけたら倒せるんじゃね? という考えが頭を過る。
いや、落ち着け俺。
ここで戦闘を開始すれば、自分の身を危険に晒すのはもちろんの事、相手にも危機感を持たせてしまう。
森狼達にとって『マッドワーム狩りは沼に行けば、安全に楽して獲物が手に入る』と認識し続けてもらわなければいけない。
安全で簡単に獲物が手に入ると思ってくれているから、少人数で沼まで足を運んでくれているのだ。
下手に刺激して、『危険だからもうやらない』って判断されたら俺の目的が達成出来なくなる。
止めないまでも、投入される戦力を増やされるかもしれない。
今の状態がベストなのだ。
よし! 退却ー!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どうやら、『三度目の正直』なんて迷信だったようだ。
そんな、三回やっただけで成功するなんて世の中甘くない。
さて、頭を切り替えて新しい作戦を考えよう。
空は完全に警戒されていることが分かった。
うん、空からの奇襲は止めた方が良さげだな。
そうとなると、地上から奇襲するしかない、しかし地上を移動してると時間がかかり過ぎてしまう。
結果、俺が辿り着く前に、森狼達はマッドワームにトドメを刺し、解体を終え、テイクアウトしてしまう。
うーん、地上を走るのには限度があるしな。
そうだ! ……逆転の発想だよ!
どれだけ急いでも森狼達の準備に間に合わないのなら、森狼達の準備時間を長引かせれば良い。
そう、あいつらが出てきた瞬間、瀕死のマッドワームに回復魔法をかけまくる!!
そうすれば、『トドメを刺す』『解体する』の前に『戦う』と言う一手間を加えられる。
マッドワームは弱いけど、時間稼ぎくらいは出来るだろう。
今日の俺は冴えてるな。
自分の賢さに鳥肌が立つ。
よし、これで行こう!
人の命をなんだと思っているんだ! と怒られそうな作戦の実行が決まった。
早速、マッドワームを森から引き離す。
………
…… 『特に変化もないので割愛』
…
瀕死になった所で、森狼達が出てきた。
マッドワームはどんな感じだ?
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Lv:25
HP:9 / 541 [出血]
SP:66 / 149
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おお、いつの間にか死にかけてる。
そう言えば、今まで気にして無かったけど、異常状態ってHPの後に表記されるのか……。
安心しろ、今治してやるからな!
ヒール!
【マッドワームのHPが22回復しました】
ヒール!
【マッドワームの……】
ヒール!
【マッドワーム……】
ヒール!
【マッド……】
ヒール!
【マッ……】
ヒール!
【…】
ヒール!
【ヒールがLv.3になりました】
【回復魔法強化がLv.3になりました】
お、二つのスキルのスキルレベルが上がった。
ヒール!
【マッドワームのHPが33回復しました】
ヒール!
【マッドワーム……】
ヒール!
【マッ……】
こんなもんでいいだろ。
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Lv:25
HP:262 / 541
SP:66 / 149
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[出血]も無くなり、HPも半分くらい回復している。
自分のステータスを見ていたけど、【ヒール】はレベルが1上がると回復量が10増えて、【回復魔法強化】は1増えるようだ。
元気になってよかったよ。これでもう(俺が帰ってくるまでの時間稼ぎを任せても)安心だね。
マッドワームも回復した所で、迷彩烏になって飛び立った。
………
……
…
この辺りでいいかな?
急いで地面に着地し、壁走者に変身してあの場所目掛けて走る。
この体、スピードこそ遅いものの、スタミナとかないので全速力で走り続けれるってのは凄いと思う。
前世だと50mが限界だったからな……。
まぁ、今回は間に合うだろう。
森狼達も、俺がマッドワームに【回復魔法】をかけたなんて、絶対に気付いてないよな。それこそ【鑑定】でもしない限り、絶対にわからないし。
……あれ? 【鑑定】なんて持ってる奴いなかったよな?
つか、森狼って【鑑定】のスキルを習得できるのか?
【検索】してみよう。
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Q:森狼は【鑑定】を持っている個体は居るんですか?
A:ごく稀に【鑑定】を持って生まれる個体もいます。
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おっと? これはヤバいんじゃないか?
もしもあの中に【鑑定】持ちがいたら絶対に警戒される。
で、でも『ごく稀に』って【検索】さんも言ってるじゃないか!
いや、『ごく稀に』って事は、あいつらの中に入る可能性は0ではないという事だ。
ここで悩んでても仕方がない!!
急いで確かめねば!
………
……
…
沼の木陰から覗き込む。
其処には、ゆっくりと倒れこむマッドワームと、それを取り囲むように並んでいる森狼の姿があった。
どうやら、今決着がついたようだ。
森狼達をこっそり【鑑定】する。
よかった。【鑑定】を持つ者はいなかった。
よし!! 後は【超光学迷彩】を使って近付いて、奇襲をかけるだけだ。
もう決めてしまおう。
そろそろこの作業にも飽きてきたしな。
ささっと、森狼倒して【吸収】してしまおう。