33話 天才的な作戦
森狼が、誘き寄せられて出てきた。
こいつら、本当にアホだな。所詮は犬っころだ。
俺の獲物は君たちであって、ここでズタボロになっている芋虫は、君たちを釣る餌なのだよ。
そんな事、予想もしていないであろう森狼達は、こちらを睨みつけ威嚇してくる。
ここまでは、計画通り。
後は、迷彩烏になって飛び去り逃げた風を装い、ある適度距離とったら森に着地。
そして、【超光学迷彩】を使いつつ、トカゲになって近付き奇襲をかける。
森狼達は、俺が逃げる様子を目撃しているのだ。油断しないわけが無い。
さらに、マッドワームの方に意識が向くので、隙だらけの所に奇襲を仕掛けられる。
ハハハハ! 完璧だ! 完璧過ぎる! 俺は天才だったようだ。
この天才的な作戦を遂行するために、早速迷彩烏になって逃げる。
そしてある程度離れたところでトカゲに変身……した所で、違和感を感じる。
あれ? 身体が大きくなってない?
前は、全長15cmくらいの極一般的なトカゲだったはず、しかし、今はパッと見1mくらいある。
いや、デケェよ。
突然の急成長。
何があったし?
過去を振り返る。
…………
【Lv.26になりました】
【ウォールウォーカーのレベルが上限に達しました】
【ウォールランナーに進化しました】
……あ、そう言えば、貴族のお坊ちゃんを【吸収】した時にウォールランナーに進化したな。
自分のレベルが、【吸収】した魔物はレベルキャップに到達すると進化するのか、とか思った記憶があるな。
それにしても、ウォールランナー、デカイ……、これもう街に入れなくね? 超目立つじゃん…。
………ウォールランナーって名前長いな……、一々そう呼ぶの面倒だ。
直訳すると壁走者か、
これからは、壁走者と呼ぼう。
命名、壁走者。
つか、この世界の魔物、名前が安直な上に長いんだよな。
森狼も本当はフォレストウルフだし、森毒蛇もフォレスト・ポイズンスネークだしな。
名前への愚痴は置いといて、
壁走者になり【超光学迷彩】を使う。
一応Lv.3になったので、消費SPは1秒間に8である。
今の総SPが3299だから…400秒くらいか。
あまり時間がないな、急ごう。
やっと、森狼たちの所まで戻ってこれた。
進化したから、走る速度上がるかも? と思ったが、そうでも無かった。
と言うか、おそらく、変身した魔物の違いによる、ステータスの差異はほぼ無いと思う。
全て、俺のステータスが反映されている可能性が高い。
何故なら、
『空を飛ぶ』とか、条件が全く異なる場合を除いて、森毒蛇になっても、壁走者になっても、
下級兵士になっても、迷彩烏で地面を走っても、試した事は無いけどマッドワームで走っても、移動速度は変わらない。
……って事は、森狼になっても走る速度変わらないって事だよな!?
体感、前世の時に全力で走った速度より少しだけ遅いくらいだと思う。
つまり、高校2年生男子の全速力より少し遅いくらい。
うわー、マジか……すげー遅いじゃん。
って今は、森狼狩りが先決だ!
自身を【鑑定】して残りのSPを確認する。
––––––––––––––––––––––––––––––
Lv:32
HP:3299 / 3299
SP:2475 / 3299
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うわー、100秒くらい経っちゃってたか……、
つか、ここまで来てから【超光学迷彩】使えばよかったじゃねーか!!
絶対、SP無駄に消費しただけだよね!?
まぁ、やってしまったものは仕方がない。次からは気を付けよう。
重要なのは、『過去を悔やむ事より、これからどうしていくか』だと思うんだ。
開き直った訳ではない。
木の陰から覗き込む。
そこには、マッドワームの解体を終え、今まさに去っていこうとしている、森狼の姿があった。
あ、やばい!
「ちょっ、待って!」
声を出した時には遅かった。
森狼たちは、俺が動き出す前に、走り去って行った。
「ええー」
取り残された1匹のトカゲは、そう呟くしかなかった。
【超光学迷彩がLv.4になりました】
あ、スキルレベルが上がった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二度目の挑戦でございますよ。
前回の失敗の原因は、元の場所に帰ってくるのに時間が掛かり過ぎた事にある。
それならば、一番時間のロスになっていたであろう地面の移動を除外すれば良い。
要するに、地面に降りない!
今回の作戦は、俺の持つ吸収物の中で最速を誇る迷彩烏で、逃走から奇襲までこなす事により大幅な時間短縮を現実のものとしたのだ。
(まだ実行していないので未定です)
SPも全快して、準備万端。
沼の近くに森狼がいる事も確認済み。
よし! いくぞ!
まずは、マッドワームを誘き出します。
そして、極力森から遠ざけたところで戦闘開始。
マッドワームが瀕死になるまで斬り刻みます。
▼森狼さんがログインしました。
▼日影さんが迷彩烏に変身してログアウトしました。
ある程度離れた所で、【超光学迷彩】発動。
方向転換して、森狼たちの方に向かおうと、そちらを向いた所で、予想外の展開が起きた。
森狼が3匹とも、マッドワームには目も向けず、一心に空を見上げていたのだ。
正確に言うなら、俺の飛んで行った方向、つまり今俺がいる所を凝視していた。
おっと? これは完全に俺の事を警戒しているね?
普通に考えてみれば分かることだろう。
突然空を飛んでいた鳥が消えるのだ、不審に思わない訳がない。況してや、自分の敵である。
まずいな、警戒を解いてくれないと奇襲にならないじゃないか。
正直、真っ向からの勝負をする気はない。
そのまま、持久戦に持ち込まれる。
俺のSPが尽きるのが先か、森狼たちが警戒を解くのが先か。
………
……
…
しばらく経って、
変色していた体が元の黒に戻って行った。
あ、SPが尽きた。
俺を見つけると同時に、3匹の森狼がこっちを向いて吠え始める。
完全に警戒しちゃってるね。
これでは、奇襲は難しそうだな。
作戦失敗。
今回はこのくらいしておいてやる。
やっと追いつきました!