32話 泥に触るのって、何年ぶりだろう
それにしても、森狼を【吸収】できなかったのは痛手だ。
前回は、相手がこちらを完全に舐め切って居たから勝てたのだろう。
しかし、こちらが抵抗すると知られてしまった。
つまり、今後は警戒される事は勿論、奇襲の狼数を増やしてくるかもしれない。
何より、森狼を全て逃してしまったので、こちらの手の内はバレていると考えて良いだろう。
対策を立ててくるだろうな。
はぁ、もう逃げたほうがいいのかな?
一応、初めの目標である『マッドワームを吸収して【穴堀】を手に入れる』については、クリアしている。
マッドワームは森狼を取り逃がした後、ちゃんと【吸収】しましたとも!
仲間に置いて行かれた森狼と違い、こちらはしっかりトドメを刺していたからな。
あっちもトドメを刺していば……。
過去の事を悔やんでも仕方がない。
これからの事を考えよう。
ちなみに、この事考えながらも【穴掘】のスキルレベルを上げている最中です。
勿論、マッドワームの姿で……。
正直、あの気持ち悪い生物になるのは嫌なのだが、安全地帯(沼の中)で安心してスキルのレベルを上げるのには、この姿が一番手っ取り早いのだ。
安全第一ですよ。
意外と泥の中ってひんやり冷たくて気持ちがいい。それに、からだに絡みついてくる感じがなんとも言えない……ちょっとハマりそう。とか思ってない。
お、5まで上がった。
どうしようかな、逃げようかな?
前の俺だったら、逃げていただろう。しかし、見てしまったのだ、森狼たちのステータスを!
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PS:身体強化、自動回復、減音、
魔力操作Lv.、同族意思疎通
AS:クイック、嚙みつき、風魔法
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【嚙みつき】以外、すべて欲しいスキルである。
あ【風魔法】も要らないわ。
自分の起こした風に巻き込まれて死ぬとかシャレにならない。
【身体強化】が要らないわけがない。
絶対どこかで使い道があるだろ。
【自動回復】は、こんな弱肉強食の世界で生きていくには必須だろう。
【同族意思疎通】
名前の通り、同族間で可能な、言葉以外でのコミュニケーションツールの一つらしい。
【念話】の下位互換的な感じだろう。
これがあれば、森狼の会話も盗み聞きできるし、会話が出来れば和解も出来るかもしれない。
それに、これから出会うかもしれない魔物とも、言葉を交わす事が出来たら、無駄に危険な橋を渡らなくて済むかもしれない。
よし! 目標『森狼1匹』危険な戦いは極力避ける方向で行こう!
後ろ向きな方針が決まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
穴を掘るのに飽きたので、木の上で一休みです。
【穴堀】のスキルは穴を掘ると言うよりは、穴を掘る時の補助の役割を担っている。
実際に使ってみたが、自分の進みたい方向にある土が脆くなるのだ。
だから簡単に掘る事ができる。
このスキルがあれば、人の手でも簡単にトンネルが掘れてしまうだろう!
何故なら、柔らかくなった土を掘り出す簡単なお仕事だからだ。
すごいスキルを手に入れてしまった。
ちなみに、このスキルはレベルが上がると崩せる範囲が増え、より硬いものが崩せる様になっていく。
レベル1だと泥や柔らかい土しか掘れないが、5まで上がれば、土であればなんでも掘れるようになった。
恐らく、レベル10になる頃には、岩すら砕く事ができるだろう!
出来るといいな……(願望)
そんな事考えていると、視界の中に動く影を見つける。
あ、森狼じゃん、今日も来てるのか。
【穴掘】を手に入れた今、俺にマッドワームを倒す理由はない。
ハハハ、ご苦労様、無駄足だったけどな。
もう、マッドワームは手に入らないぞ! 帰れ帰れ。
いや待てよ?
沼を見張っていれば、簡単に獲物が手に入ると思っている。
そう思っているから、わざわざここに足を運んでいるのだ。
じゃあ、もし沼に来ても、何も手に入らないとわかったらどうなる?
間違いなく、ここには来なくなるだろう。
それは困る!
ここに来てくれないと、森を飛び回って森狼を探さなければならない。
それは面倒……じゃなくて、危険が多い。
え? 森狼の跡を付け、住処を見張ればいい?
いやいや、相手のテリトリーに近付くとか無理無理。相手の数がわからないし、住処の近くで戦いが始まった場合、援軍が来るのは間違いない。
数の暴力って言葉があるよね。
それに、森狼は連携が得意だと聞く。
ハハ、無理ゲー。
倒すなら、極力数が少ない時に戦ったほうがいいだろう。
つまり、マッドワーム狩りに来ている今が一番の好機と言えよう。
生物が一番油断する瞬間は何時でしょう?
そう! 獲物を手に入れた直後です!
これを使わない手はない。
早速、マッドワームを誘き出して森で誘導する。
そして、森狼が乱入してくるまでひたすらボコる。
すまんな、マッドワームよ。
お前に恨みはない。
安らかに眠ってくれ。