30話 お姉様最高同盟
動けなくなった森狼にトドメを刺そうとした、その時、再びあの感覚に襲われた。
あー、何これデジャヴ?
そして目の前には、ユーストレイアの妹で、創造と破壊を司る女神トーリウルスがいた。
女神はタイミングが悪いらしい。
「仲良くなれたそうですね」
先制攻撃をかける。
二度も、あの長い話を聞くのは遠慮したい。
「はい! そうなんですよ! でも、何で知ってるんですか?」
まぁ、嘘をつく理由もないし正直に答えておく。
「レイアが話に来ましたからね。嬉しそうに話してましたよ」
ここで、『もうその話は聞いたアピール』をする事によって、話を回避する作戦だ。
「本当ですか!? ふふふふふ〜」
嬉しそうに、ニヤけているトール。
どうやら長話は避けられそう。
「本当に……本当に私のお姉様は最高です!! あの時だって………」
うん、普通に話し始めた。
非常に長かったので割愛。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本当に、あなたにはお世話になりました。何とお礼したら良いのか……」
「お礼なんて要りませんよ。幸せそうで何よりです」
別に、何をしたと言う訳でもないので遠慮しておく。
取り敢えず、消されずに済んで良かった。
『今生きている』それだけで充分だ。
「そうだ! 貴方を『お姉さま最高同盟』に入れてあげましょう! それが良いですね!!」
トーリウルスが、『素晴らしい事を思い付いた』と言わんばかりに、両手を合わせ提案してくる。
いや、本当に遠慮したい。
「あの、トーリウルス様?」
「何ですか? あ、それと私達は同じ同盟に所属する者。言わば《盟友》です。
私の事はトールと呼んでいただいて構いませんよ」
ちょ、もう同盟に入れられてるし!!
「いや、俺の様な一般市民が、その様な素晴らしい同盟に入れて頂くのは恐れ多いですよ」
『どうにか回避しなければ』とオブラートに包んだ、大人の断り方をするが、
「御安心を、同盟は私と貴方の2人しか居ませんから!」
全く理解してくれない。
そんなのわかってるよ! 誰が好き好んで、そんな訳の分からない同盟に入るんだ。
「今はトール様1人しか居ないのですか?」
取り敢えず自分の数を引いておく、
「いえ、貴方と私の2人だけです。レイアお姉様を悪く言う虫けら同然の神々や、信仰と言いながら、私利私欲のためにレイアお姉様の名を語る、地を這う有象無象などには、入る権利すらありません」
おお、この人本当に人の真意を汲んでくれない。
それに100%善意で言ってくれてる分、タチが悪い。
「ちなみに、その同盟に所属するとどうなるんですか?」
同盟に入る事を回避できなさそうなので、入るデメリットじゃなくメリットに目を向ける。
メリットが大きかったら喜んで入る所存です。
「そうですね……強いて言うならですが、貴方は今、神界No. 1のユーストレイアと《友達》という関係にありますよね? それに、更にNo.2である私と《盟友》という関係になりますので、神々から下手に手出しをされる事は無くなりますね」
「末長くよろしくお願いいたします! レイア様最高です!」
素晴らしい掌返しである。
神界No. 1、No. 2とパイプが出来るとか! これを逃すわけにはいくまい。
「よろしい! その返事を待っていましたよ! 口調はレイアの話す感じでお願いします、盟友なのですから。
それでは、これからよろしくお願いしますね? 盟友」
俺の呼び方は《盟友》で決まったようだ。
やっと話に一区切り着いたところで。ふと視線を外にやる。
その視線の先に、あるはずの物が無くなっていた。
森狼の死体がなくなっていたのだ。
いや、別にとどめを刺した訳ではないから動けるのかもしれないが、トールの結界は外の時間も止めるはずだろ?
「盟友? どうなさいました?」
俺の動きに違和感を感じたのか、トールがそう尋ねてきた。
「いや、外にいた筈の瀕死のフォレストウルフが居なくなってるんだよ」
「あ、そう言えば話している間に逃げて行きましたよ?」
まぁ、居ないのだから逃げたと考えるのが妥当だろう。
「でも、トールが前に使った結界は外の時間も止まっていたよね?」
「あー、あの時は時間がおしていましたので停めていましたが、今回はその必要がなさそうなので停めていませんよ」
あー、使い分けができるのね。
森狼が【吸収】できなかったのは痛いな。
まぁ、神界No.2と繋がりができただけでも良しとしよう。
プラス思考大事。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ゲイル族長! ノウ様! ご報告があります!』
2匹の居座る、洞窟の最深部に1匹の森狼が現れた。
『わかりました。話しなさい』
族長の補佐を務める、ノウが話す様促した。
『例の「マッドワームキラー」についての事です』
良い報告ではないのは、報告しに来た者の顔を見ればわかった。
『今日は現れなかったのですか?』
『いいえ、5番隊が担当する沼に現れました。しかし……』
『マッドワームは手に入らなかったのですね?』
『……はい、その通りです』
報告者は、言いにくそうにしていた。
何故なら、
『マッドワームは、今の我々にとって重要な栄養源なのだぞ?
だから、狩りの部隊を減らしてまでそちらに戦力を回しているのだ。
それを逃すとはどういう了見だ?』
今まで黙っていた族長のゲイルが、静かな怒りを露わにしながら口を開いた。
そう、マッドワームはとても栄養価が高く、そこそこな大きさがある。
その為、食糧として最高の素材であったのだ。
それを、簡単に手に入れる方法がある、その方法に人員を割かない理由がない。
『ははははい! 心得ております! 申し訳ございませんでした!』
報告者は完全に怯えていた。
他の森狼より、一回りも二回りも大きなゲイルに怒りを向けられているのだ。
恐ろしく感じないわけがない。
『まぁまぁ、ゲイル様落ち着いて下さい、何か理由があるのでしょう。
貴方は報告を続けなさい』
このまま報告者が怯えていたのでは、報告するのもままならない。
そう思ったノウは、ゲイルをなだめ、説明を続けるよう促した。
『はい、実は「マッドワームキラー」に反撃にあったのです』
『反撃ですか? 今まではそんな素振りは見せなかったと伺っているのですが?』
『その通りです。何時もなら、我々を見かけるだけで早々に立ち去っていくはずなのです。でも、今回だけは違った、そう三番隊の隊長から報告を受けております』
『気になりますね。普段と違う、今回だけにしか無かった事はありませんでしたか?』
『はい、今回は戦う前に、近くの茂みに向かって何か叫んでいたそうです』
『なるほど、それからいつも通りに横取りをしようとしたら返り討ちにあったと……。
「マッドワームキラー」の戦力について、何か聞いていますか?』
『はい、聞いた話によると、何やら鉄と木で作られた棒を持っていたそうです』
『ただの棒に返り討ちにあったのですか? 5番隊は強者が居ないのですか?』
『確かに、5番隊には特出した力を持つ者はいません。
ただ、相手の持つ棒が少々奇怪な棒らしく、聞いた話によると、何やら爆発音を発し、気が付いたら隊の1人が脚から血を流し動けなくなっていたとの事です』
『大きな音を出し、離れた相手を攻撃する武器……ですか。ご苦労様でした。もう下がって良いですよ』
その発言を聞き、報告に来た者は去って行った。
『もしかしたら…』
『ああ、人間の持つ「銃」だろうな』
『やはり、そうなりますよね。でも、動き回る我々に1発で命中させるとは……かなりの腕を持っていると考えていいですね』
『そうだな、それにしても、何故唐突に我々に歯向かって来たのだ? まぁ、大体予想はつくが、』
『そうですね。食料として横取りするだけで無く、倒し切る直前に出て行って経験値も頂く。という作戦は少し強欲過ぎましたかね?』
『獲物が倒れる直前まで近くで待機してて、横取りをするタイミングを見計らっている。
俺が相手の立場だったらブチ切れる自信があるな』
日影「そう言えば、いつ仲直りしたの?」
トール「盟友と別れた後すぐですよ」
日影「え? あれから結構経ってるよな? 忙しかったとか?」
トール「いや、特に忙しかった訳ではないのですよ? ただ、ちょっと記憶が曖昧で……」
日影「ちなみに、最後の記憶は?」
トール「仲直りした後、お姉様が甘えて良いと言って下さったので散々甘えて、自室に戻った後……の記憶がありませんね」
日影(あー、うん、関わらない方がいいな)