22話 仲良くなるには
「それで?どうやって仲良くなったの?」
こっちをじっと見てくる。
「……えっと…」
とても返答に困る。本当に何もしてないんだよねー。
「あ、なるほど、確かに一方的に何かを要求するのはおかしいって事ですね?
その点はご安心を、報酬はちゃんと払います」
俺が、何も報酬が貰えないことを懸念して黙っていると勘違いし、そう言ってくる。
別に報酬目的で黙ってたんじゃ無いんだけど、取り敢えず聞いておく。
「何を頂けるのですか?」
貰えるものは貰っておかないと。
「貴方は此処から逃げる手段が欲しいんですよね?」
「まぁ、さっきそんな独り言言ってましたね」
確かに脱出の方法は幾らか思い付くが、
『より安全に、より遠くに』と条件を付けてしまうとどれも決定打に欠ける。
「そうでしょ? 私は創造を司る女神でもあります。
だから貴方の逃げる手段を与えるのは造作も無い事です」
く、今欲しいものを条件に出してくる。
これを逃すのは惜しい。
それに、女神と繋がりを作っておくのも、今後何か協力が得られるかもしれない。
考えろ…打ち解けた理由…あの時何があったっけ?
「えっと、トーリウルス様はレイア…お姉さんと仲良くなりたいんですよね?」
俺がどうやってレイアと打ち解けたのか知りたいって事は、トーリウルスもレイアと仲良くなりたいと思っているのだろう。
「はい、私の唯一の望みと言っても過言ではないほどに」
へぇ、…………え? 今唯一の望みって言い切った?
時間稼ぎの為に適当に質問したのだが、凄い答えが返ってきた気がする。
この人もしかしたら……
「お姉さんの事、好きなんですね」
「はい!!大好きですよ!
愛してると言っても過言ではありません!」
目を輝かせぐっとこちらに近づいてくる。
あ、こいつシスコンだ。
しかも重度の
「確かに反応が可愛くて、ついからかってしまいますね」
「わかって頂けますか! 周りの神は生意気なガキだのとお姉様の素晴らしさをわかっていません!
この気持ちをわかっていただける方が地上にはいらっしゃるのですね!!」
両手を握られ顔がぶつかりそうな勢いで近づいてきた。
女神様の突然キャラが壊れた。
あ、こっちが本性か…、
「ちょ、近い近い」
「本当に他の神は見る目がありません。もう神界要らないんじゃないですかね? 一層の事私が破壊してやろうかしら…」
一応俺から離れた女神は、真顔で物騒な事を言い始めた。
「ユーストレイアは他の神に嫌われているのですか?」
本人がそんな事言っていたはず、
「はい、彼女の力は強大過ぎるのです。
だから、『ただ運が良くて強い力を得たお陰で
主神になった』などとふざけた事をほざいていますよ。
それを聞いて何度神界を壊してやろうと思った事か…
あっ、でも、あの時涙目になっていたお姉様可愛かったなぁ…」
この女神どうしようもないな。
「そんなに強いのですか?ユーストレイアは」
とてもそうは見えない。
それに『正義と平等を司る』って微妙な気がする。
「はい、お姉様に勝るものなど存在しません」
「身内贔屓じゃなくて?」
この重度のシスコンならありえるだろうと思ったが、
「はい、お姉様の力は、例を挙げるなら
人間が『正義の執行』とか言って同じ人に罰を与えていますよね?
それに絶対的な力を与えた感じです。
そして、この世界の善悪はお姉様によって決められる。
要するに、お姉様は『勝手に法律を作る事ができ、独断で罰を与える事ができる』という感じです。」
「えっと、つまりあいつは『私に逆らったら死刑』とかもできるのですか?」
「そうなりますね、しかもその罰には絶対的な力が発生し逃げる事は不可能です。
彼女の死刑宣告はたった2名を除いて確実に発動します。同じ神ですら例外なく。
ちなみに、死刑以外にも懲役なども可能です」
うわぁ、そんな相手に生意気な事言ってたのか俺は…。
『そう聞くと凄い力ですね』
「はい、この世で最強と謳われる御二方の内の一人ですからね」
「そんなぶっ壊れ性能なやつが2人もいるのですか?」
この世界怖いわ…
「はい、さっき話した死刑執行できない2人にも関係しているですが、1人は御本人でもう1人は『無限の体現者』と呼ばれる龍神ウロボロスです」
「無限の体現者?」
「はい、文字通りの存在です。絶対に死ぬ事はなく、存在そのものが無限と言われている伝説の化け物の事です。
龍などという身でありながら、神々が唯一滅せない相手です」
「大丈夫なのですか?そんな奴がいても」
龍も魔物の一つだ。
そんなのが野放しにされているとか危険すぎる。
「そこについては心配無用ですよ。
そもそも、彼女は世界に興味を示しませんから…。
恐らく今も、別の時空でぼーっと過ごしていると思われます」
野原でボーッと日向ぼっこをしているドラゴン………あー、全然危機感感じないわ。
「そんな龍なんかの話よりお姉様の素晴らしさについて話し合いましょう!」
「先ずはお姉様が………」
「そしてお姉様が……」
「更にお姉様が…」
…………
………
…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あの後しばらく、お姉様の素晴らしさについて語られた。
「そ、そう言えば、貴方はユーストレアと仲良くする方法を知りたいんですよね?」
永遠に続きそうだったので無理矢理話を元に戻す。
「はい! その通りです! いつの間にかお姉様の素晴らしさを語り合って居ましたね」
いや、貴方の一方的なマシンガントークだったでしょうに、
まあ、言わないけど。
「そうですね、一応確認なんですが、貴方はユーストレイアを悪口のような事は言ってないんですよね?」
「はい! 勿論です!
お姉様の悪い所なんて思い付きませんし、あっても全て愛嬌って事で解決です!」
それはお前だけだよシスコン。
「それならば簡単ですよ。自分は味方だとアピールするんです。『困った時は頼ってくれ』とか、その時に頭撫でてあげたりするとより効果的です」
「なるほど! 確かに今まではお姉様の涙目を見てあまりの可愛さに悶えるだけで干渉することはなかった……。それがダメだったのですね!」
ハッとした様に目を見開いている。
「そういう事ですね。少しはその『お姉様愛』を本人に伝えてみたらどうでしょうか?」
「私のお姉様への愛を伝える………、引かれないでしょうか?」
自覚あるんかい!!
「大丈夫です! 何せ相手は自分の姉ですよ? 自分に素直になって、存分に甘えてきてください」
「わかりました! 試して見ます!
ありがとうございました!」
今までの愛想笑い(脅し)と違って無邪気に笑う女神様の破壊力は凄かった。
「それでは、貴方の望みを叶えましょう! どういった物が必要ですか?」
そう言えば、教える代わりに逃走の手伝いをしてくれるんだっけ?
なんか、どうでも良くなっていた。
「いや、それはもう良いいです。それより仲良くなったら報告して下さい」
別に脱出方法が無い訳ではないし、断っておく。
「そうですか? 意外に無欲な人なんですね。
それでも約束は約束なので最低限の手伝いはさせてもらいますね」
そう言うと、彼女は前に手を出す。
その手を向けた先に魔法陣が現れた。




