21話 本当の外道
大砲の準備の仕方を習った。
正直【検索】を使えば全てわかるのだが、やはり手順がわかるだけの素人がやるより、熟練の人に任せておいた方確実だろう。
そう思い、はい、はい、と適当に相槌を打ちながら準備が終わるまで待った。
「なるほど、これで準備完了ですね!」
ついに準備も完了した様子だった。
「ああ、後はこの導火線に火をつければ……」
後はこの大砲を吸収するだけ…、
もうこの人に用は無い。
ご退場願おう。
え、さっきまで人の事をゲスだのと酷いことを言ってたけど、お前の方がよっぽど外道だろう?
いや俺人間じゃないしノーカンノーカン。
「ありがとうございました! もう貴方に用はありませんのでおやすみなさい」
そう言い、しゃがんでいるその人の後頭部を銃の持ち手の部分で殴った。
「がっ!な、なにを…」
上手く入ったらしく、上司の兵士の身体が傾いていく。
ただ、このまま逃げると、突然貴族の息子がいなくなった事になり、この人が罰を受けるかもしれない。
流石に大砲の準備の件でお世話になった(利用した)人に迷惑をかけるのは気がひけるので、
「俺は合成魔です。貴族の息子は合成魔に喰われたと伝えておいてください」
あいつの行方を伝えておいた。
上司の兵士が気絶したのを確認すると、装填済みの大砲を【吸収】した。
気がつくと東から日が昇り始めていた。
どうやって逃げるか…、
そう考えていると突然世界が停止した。
いったい何が!?
周りを見回すと何処かで見たことがあるような服を着た女性がいた。
その女性の放つプレッシャーはまるでこの世の者とは思えない。
圧倒的な力を前にしてる感覚、
その女性の服装はレイアの着ていたローブそのものだった
「めが…み…」
「ふふ、わかりますか?
あれ? 様が抜けてますよ?」
女神様が、長い銀髪を掻き分けながら、黄金の瞳を細めて微笑む。
微笑んでるだけなのに動けない。
この人がその気になれば、俺どころかこの世界自体が簡単に消し飛ばせるだろう。
何故か、そう確信が持てた。
「……女神様がどうしてこんな所に?」
「ユーストレイアの言っていた友達とやらがどんな人間なのか気になっただけですよ。
なるほど、驚くほどの腐れ外道ですね」
酷い言われようである。否定はできないけど。
「俺を消しにしたのか?」
ついさっき人を殺めてしまったばかりなので心当たりはバッチリある。
「いいえ、 私もユーストレイアを敵に回すような事はしませんよ。
…………あ、人を殺してしまったから自分を消しに来たのかと思ったのですか?」
ニコニコしているが相変わらず圧がすごい。
「違うのか?」
「ふふ、違いますよ。『魔物』と『人間』は違うと判断しているのは人間だけです。
神にとってはどちらも生き物。
人が魔物を退治しようが、魔物が人を襲おうが、我々神にとっては違いありません。
同じ生き物の、ごく自然な命のやり取りですよ」
宗教が盛んな、教国の人達が聴いたら倒れそうな発言だった。
「それで良いのか女神様」
「生きる為には、他の生物の命を貰うしかありません。それは自然の摂理です」
「じゃあ、俺が人を何人やろうとも干渉してこないのか?」
「ええ、そんな事で神が罰を下していたら、我々は一番初めに人間を滅ぼさなくてはいけません。
人間ほど多種多様な生物を殺めている種族は居ませんからね?」
確かにそうだ。
動物などは自分たちが食べるため生きる為に他の生物を殺すが、
人は違う、食べる為以外にも、レベル上げの為、
自分達の住みやすい環境を整えるた為、
何かに使う素材の為に他の生物を殺めている。
「それならば、一体何の用でしょうか?」
殺人を罰しに来たのではないとなると、何故俺の元に来たのか さっぱり見当もつかない。
「貴方は…」
さっきの微笑みは消え、鋭い目つきで此方を見てくる。
「貴方はどうやって!?
どうやって、あのユーストレイアの心を掴んだのですか?!」
えらい個人的な用事だった。
「…………はい?」
あまりに予想外な質問だったので、反応ができなかった。
「だから! どうやってユーストレイアと仲良くなったのですか?!」
ズンッと詰め寄ってくる。
「いや、特に何も?」
特に何かした覚えもないので、正直に答えておくが、
「そんなわけありません! あの子とあなたのやり取りを見ていましたが、初めは貴方の事を敵視とまでは言わないけど仲が良い様子には見えなかった!
それに、会話の中で怒らせ泣かせたにも関わらず、 最後には笑顔で別れたではありませんか!!」
信じてもらえなかった。
つか、しっかり覗き見してんじゃねーよ。
もはや、さっきの神聖で圧倒的な存在感は跡形もなく消え去っていた。
「取り敢えず、あなたは一体どちら様?
レイアのお姉さん?」
「名乗り忘れてましたね。私はトーリウルス。
ユーストレイアの妹で創造と破壊を司る女神です」
「へー、レイアの妹……は? 妹!?」
「はい、妹ですよ?」
確かに、銀髪と黄金の目、顔立ちなどは何処となく似ているが………、
明らかにトーリウルスの方が大きい。
色々と…
あ、でも用事の内容から残念な感じは似ていると思う。