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八ページ目『獲得と喪失』

これまでのヒーローの鏡:植木鏡は怪我をした月代雪里の為に地雷達を処理することになった!

 月代は少しだけ神妙な表情になっていた。

「植木君をおだてる為に言うわけじゃないんだけど……君の血雷処理能力は、私より上……」

「エッ?」

 ボクは目を輝かせる。

「昼間に言わなかったけど、バスターにはイメージしたことを現実に再現する力があるの。例えば、ここからあのアスレチックの上まで一跳びで行く。って、なった場合」

 言うと月代は、スッとベンチから立ち上がり、アスレチックへ向けジャンプする。まぁ、ジャンプというか大股で一歩移動した感じだが……そして、何故かずっこける。

「アタタ……絶対に行くことはできないじゃない。……でも、頭の中で私が一跳びで行くというイメージをしていれば……」

 左手に黄色い光が収束し、大鎌が姿を現す。それと同じくして着ていた制服も変わっていた。変身魔法少女みたいだ。禍々しいセーラー服だが。

 ふわっという感じでアスレチックの上にジャンプしていき、ゆるやかな軌道を描き、戻ってきた。

「こう言うとができる。自分で言うのも何だけど、普段おっちょこちょいの私が、あんな怪物と平然と戦っているの、おかしいでしょ?」

 あっ、自覚あったのか。

 やはり、ボクの推理は正しかったみたいだね。

「起動させた私はもちろん、バスター(コレ)に触れている人が、この恩恵を受けることができる。河川敷で戦った時感覚がいつもと違わなかった?」

 そして、ボクにバスターを渡してくる。試してみろってことか……

 握った拳を見つめ、少し息を吸って軽くジャンプした。

 次の瞬間、ボクはアスレチックの上に移動していた。そして、辺りに突風が吹き荒れる。

「……瞬間移動?」

 そう、ボクがイメージしたのは、瞬間移動。しかし、実際には超高速で移動したって感じだろう。さっきの突風がその証拠。

 そして、同じようにして月代の元へ戻った。

「やっぱり……私より才能を感じる」

 ヒッヒッヒッ、流石ボク! 伊達に漫画、アニメ、ゲームばっかり見てないぜ!

 この程度の超高速移動容易にイメージできる。

「まだ、ほんのちょっとしか触れてないのにこれなんて……」

「……でもさ、これって『絶対に倒す』って、イメージしていれば誰にも負けなくない? なのに、なんで月代つきしろは劣勢だったんだ?」

 当然の疑問だと思う。

「再現するには、詳細にイメージしなくちゃならなくて『絶対に倒す』っていう事なら、相手がこう来て、こう来るから、私はこうして、こうするって事細かにイメージするの」

「ふんふゴガァッ……!」

 ボクは腹を抑え、その場に膝をつく。この女、いきなり腹パンをかましやがった!

「と、このように、イメージできていない事柄があると、意味がない。まぁ、中には不意打ちも効かないバケモノ染みた人もいるけど」

 なっ、なるほどな。こりゃあ常勝無敗って訳にはいかなそうだな。

「お前、本気で殴ったろ……」

 ニヤつき顔で見下してきた。どんだけ嬉しいんだよ。

「戦闘って生ものだからね。何より、お互いが『相手を倒す』ってイメージで来るから、結局は”意志の強さ”とか”相性”が重要になる」

「お互いがって、もしかして、マインスイーパー同士で戦うこともあるのか?」

 首は横に振られる。どう言うこと?

「ないこともないけど、これって元々は血雷ぢらいの力なのよ」

「……なんとまぁ」

 その後も、マインスイーパーの事、バスターの事、血雷の事など、根を掘って、葉を掘ってやった。

 ちなみに、そのイメージ再現能力で、骨折を治したりはできないとの事。「どんな感じに折れてるか確認できないからイメージ出来ない」って事らしい。逆を言えば、見えてる怪我なら治せるってことになる?

 そして、居候すると言うことでお互いを上の名前で呼び合うのもおかしいと言うことになり『きゅう君』『雪里せつり』と、呼ぶ取り決めもした。

 ……なんとなく『せっちゃん』とは呼びたくはなかった。


「ヒッヒッヒッ。大体理解した。さ、お夕飯食いそびれたから帰ろうぜ」

 年間何百作と作品に触れているボクを舐めちゃあいけない。補完することは容易い。

 ボクが先に公園を出る。

「ごめんなさい」

「なんだ、急に? 謝られるようなことした? 寧ろ、ボクは雪里を褒めたいくらいだぞ」

「その……撫詩子(なでうたこ)さんの事……」

 !!

 ファンタジー世界の住人になれたことに気を取られ、超大事なことを忘れていた。

 ボクって奴は……クソだ。

「気付いているとは思うけど、記憶を改竄したのは私なの」

「……」

「血雷の事で、どうしても身近な方がやりやすくて……」

「……ウタちゃんはどうなったんだ? 消えたの? 死んだの?」

「ごめん、わからない……」

「そっかぁ……分かった」

「……怒らないの? 幼馴染なんでしょ?」

 正直ここで怒ってしまったほうが、いいんだろうけど。そんな気分になれなかった。

「別に気にすんなって、もしかしたら生きてて、ひょっこり会えるかもしれねぇじゃん? それより、記憶改竄したことで、ボクの家族の脳に影響とかないだろうな?」

「本当に、ごめん」

 ん? 雨か? 

 ……今日は星がよく見えるな。

 星々が歪む。

 街頭の明かりも歪んでいた。頬を水滴が滑り落ちた。


 ――あぁ、ボクは今、泣いているんだ。


   ×   ×   ×


 まさか、ボクの為に新しく唐揚げを作っているとは思わなかった。しかも結構な量だ。

 なんとかそれらを胃袋に押し込み、今は風呂から上がったところ。

 なんだか色々あった一日だったな。自室へ向かう為、アイス片手に階段を登る。

 月代雪里が一般生徒ではなく、マインスイーパーと呼ばれる怪物達と戦う戦士だった。

 幼馴染のウタちゃんは消え、代わりに雪里がボクの幼馴染ということになった。加えて居候するなんて……てか雪里あいつどこで寝るんだ? 未来さんの部屋かな?

「――あっ」

 ボクの部屋に布団が敷かれていた。ボクの部屋にはベットがあるのに。

「って、オイ」

 なんで、雪里こいつボクの部屋で、ボクのベットで寝てるの? 

 そこでハッと気がつく。

 小学生の頃、ボクとウタちゃんは、こうして一緒の部屋で寝かされていた。きっと、その時の記憶は残ったままなんだ。

 オイオイ、高校生だぞ。てか、なんで雪里の奴がボクのベッド使ってるのさ!

 まぁいいや、疲れた…………!!!

 ボクは目を疑った。

 雪里の奴、今日ボクの家での生活初夜だろ? なんでこんな自由なの? ここボクの部屋よ。

 自宅に居ると勘違いしてるか、お得意の天然なのか……

 布団の上には、彼女の制服! 畳まれてないことから脱ぎっぱなしか?

 少し気が引けたが、制服を畳みベッドの脇へ。

 ほら、シュシュまでほっぽらかしで……水玉のシュシュをひっ掴む。ん? シュシュにしては形状が。

「――――!! これはッ!!!?」

 完全にパン、パンティーだった……布団の下からはブラジャーまで出てきた……じゃあ、今の雪里こいつはっ!?

 モゾモゾと、雪里が寝返りをうち布団を抱きしめるような形になる。

 とっさに手で顔を覆う。まぁ、指の隙間から伺ってるんだけど。

「だ、だよな」

 薄水色のパジャマを着ていた。これは未来さんのだろう。

「危なかった……」

 けど、ボクの脳内にいる様々なボク達は悔しがりまくっていた。再び寝返りを打った。

「これは、胸元が……」

 生唾を飲む。

 雪里自体、巨乳の部類ではないが、そこそこ大きい。未来さんのぺったんこパジャマは、第二ボタンまで開けられている。

 そこから露わになる白い肌……

「あぁいや! いかん、いかん」

 ボクはゆっくりドアを閉め、自室を後にした。

 溶けかかったアイスは冷蔵庫に戻しまた明日。今日はリビングのソファで寝るとしよう。

 勿論、変な体勢で寝るハメになったので、次の日は体中が痛くて何もできなかった。

 不幸中の幸いか、血雷が出なくて良かった。

 ボクのマインスイーパー(仮)としてのストーリー(人生)は、始まったばかりなんだ。のっけからこんな感じじゃ、ダサいからな! しばらく出てこないことを祈ろう。

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