七ページ目『戦いの跡』
これまでのヒーローの鏡:河川敷で血雷に襲われていた月代雪里を助けることができた植木鏡。このままマインスイーパーになれるのかと思いきや、彼女は姿を消してしまうしかし! 食卓に姿を表したのだった
ここでボクの家族の話をしよう。
ボクの家はおじいちゃん、父さん、母さん、姉、ボク、の五人で暮らしている。
おじいちゃん金太郎は、ひょうきんな人だ。
盆や正月に親戚一同が家に集まると、必ず何か余興をしてくれる。この前はチンドン屋やってたな。
今は畑仕事なんかに精を出している、パワフルなおじいちゃん。
ボクはおばあちゃんっ子だ。そのおばあちゃんは、ボクが小学生の頃亡くなっている。
父さんは佐久也と言う。
とても落ち着いていて、何事にも動じない人。
堅物っぽい印象を与えがちだが、割と柔軟な思考を持っている。
友達が泊まりに来てゲームしていると、よく乱入してきたりする……これがまた強いんだ。友達にはちょっと自慢だったりする。そんな父さんは、婿養子。
母さんの明日歌は超心配性で、おじいちゃん譲りのお調子者。いい年こいて年不相応の洋服を買ってくる。最終的に、その服は姉のものになる。
そして、ノックせずに部屋に入ってきたりする厄介な人だ。しかし、なかなかどうして憎めない。
ボクの三つ年上の姉は未来さんだ。ビジュアルはそんじょそこらのアイドルなんか目じゃないレベル。何度か芸能界のスカウトされそうになったことがあるが、母さんの手によって阻止されている。
まぁ、もし母さんが許したところで、絶対に未来さんでは芸能活動なんてできない。
緊張しーのあがり症で、人と目を見て話せない、人見知り。所謂、コミュ障なのだ。
ボクが高校に入りたての頃、一切ボクに目を合わせなかったり、話しかけても塩対応だったりしたことがある。なんでかと最近になって聞いたところ。高校の制服を着ているボクが別人みたいで、人見知りしてしまったようだ。
ちなみに、未来さんは貧乳だ。
とまぁ、こんな具合に、少しばかり変な家族だ。
お夕飯には帰ってくるようにと、家訓があり、今日はギリギリセーフだろう。
そんな一家団欒の席に、ギプスを着けた月代が着席していた。
「え? なんで月代いるの?!」
あまりの展開に、気の利いたリアクションが取れない。
月曜まで会えないと、思っていたのだが、こんなに早く再会できるなんて……
「なんでって、両親が海外に転勤になって、せっちゃんはうちで預かることになったって、言ったじゃない」
は? せっちゃん? 両親が海外?
「いや母さん、何言ってるかよくわからないんだけど?」
「せっちゃんは日本に残りたいんだ。引き取り手として、幼馴染みのお前がいるうちで引き取る事になったんだ」
父さんまで……
「ワ、ワタシも、い、妹ができたみちゃいで、しゅれしいわ」
カミカミだな! 未来さんは! 顔青いわ。
おじいちゃんは気にしない感じで食べてるし。
今晩は唐揚げだぁい!
「は? 幼馴染み?」
ボクには、ウタちゃんこと撫詩子と、言う幼馴染みがいる。
保育園から家族ぐるみでの付き合いになる、左右にある泣き黒子がチャームポイントの女の子。
高校は別だが、休日ともなるとよく家族一緒に出かける仲だ。
ウタちゃん両親は、海外に転勤があるような仕事じゃない。
ちなみに「ヒロインランク」はBだ。
それに月代は、高校で始めて出会っているので、幼馴染みとは呼べない。
「幼馴染みは、ウタちゃんだろ? 月代は高校からの知り合いだぞ」
家族四人箸を止め「何言ってるんだ」的な視線を送ってくる。
何言ってんるんだ。は、ボクのセリフ!
「ウウウ、ウタひゃん?」
なんで名前聞いただけで怯えてんだよ! 未来さんは!?
「ウタちゃんだよ。撫詩子! 裏に住んでるだろ!」
「裏に撫さんなんて住んでたかしら?」
「さぁ? そんな珍しい名前なら覚えていると思うが」
オレはすぐさま家を飛び出し走った。
皆、何言ってんだよ!
一分もしないうちにウタちゃんの家に着く。
電気は点いていないし、人の気配もない。
「うわっまじか!?」
表札には「撫」ではなく「月代」と、書かれていた……
ボクは何が何だか分からず、生まれて初めて団欒をすっぽかした。
今は近所の公園のアスレチックの上にいる。
「なんだこれ?」
去年の夏、家族揃って海水浴に行ったんだ。
ウタちゃんはなかなか派手な水着を着ていたな。
泊まった旅館には大浴場がなく、時間で借りれる家族風呂たった。ウタちゃんが入っていることを知らずに入ってしまったのは、良い思い出だ。
……彼女は笑って許してくれた。
中学生の時、些細なことで大喧嘩したことがあった。
結果的にボクが悪くて、ウタちゃんの好きなケーキを買って謝りに行った。その時だって笑顔で許してくれたんだ。
笑顔が素敵な女の子だった。
ボクとは違い、誰からも好かれる子だった。よく、大人達に怒られ、問題児扱いを受けるボクにも、分け隔てなく接してくれた。そのことは家族も知っている。
なのに、ボクの家族は誰も覚えてない。
この前学校を休んだ日も「ウタちゃん」と、母さんは名前を言っていた。
その日までは覚えていたんだ。
しかし、今は覚えていなかった。しかも、表札までも変わっている。
一瞬、おじいちゃんの仕業かと思ったけど、月代なんてきっと知らなかったろうし、こんな大それたことはしない。
「全くなんなんだよ。この奇妙な物語的な展開ぃ」
「お母さん達が、帰りまってるわよ」
公園入り口近く、微かな街灯に照らされた場所に月代が立っていた。
「月代!? お前どういうことだよ?」
突然の悩みの種の登場で、アスレチックから落っこちそうになった。
「……私が、なんでこんなになってるかわかる」
右腕のギプスを見せびらかせながら言ってくる。
「植木君は、私を手伝う義務があるわ」
不意打ちだ。
「へ?」
「絶対に、ダメだし、不本意だけど……私の代わりに血雷処理をして欲しいの」
…………………………??!!!
「なんだってぇ!」
流石に今回はアスレチックから落っこちた。中腹くらいで引っかかり、怪我は無いようだが、ぶつけた部分は流石に痛い。
一呼吸置いて、アスレチックから跳び降りる。
「それ、本当か」
月代の肩を掴み揺する。
「ほ、本当です」
「どっ! だらっしゃらららぁぁいぃ!!」
我ながら訳のわからない言葉が出た。
謎テンションのまま、ボクは近くにあったシーソーを一人で上下させたり、回転する球状のアスレチックを高速回転させ、鉄棒を引き抜こうとしたり、馬の形をしたバネが支柱のグラグラさせて遊ぶ遊具を「これでもか」と、グワングワンさせた。
「本当に、本当にいいんだな!」
「いいですよ」
返事に覇気がないが、いいのだろう。
「ひゃっひゃっひゃっ!! おい月代これ夢かぁぁ!?」
未だにグワングワンさせながら大声で問いかけた。
「夢じゃないわ……」
思い切り後ろへ倒れた時、ボクは手を放し馬の遊具からわざと落馬。かなり、鈍い音がした。視界がチラつく……
「だ、大丈夫?!」
「ヒッヒッヒッ、そうだよな。これ、現実だよな! だって! 痛ってーもんっ!」
我ながら最高に「ハイッ」に、なっていたようで、近所のジジイが「うるせえ」と、怒鳴ってきた。
ボクはそれに最高のスマイルで返事なきを得たのだった。
「プハァ、すまんな月代取り乱しちゃって」
「落ち着いたみたいね」
ボクは落ち着きを取りもどし、缶ジュースを飲みながらベンチに座っていた。今晩は少し蒸し暑い。にも関わらず、月代はホットのコーンスープを買ってしまっていた。
「私の腕が治るまでの間って約束よ?」
「そうか、なら治りそうになったらまた怪我してくれ。イタッ」
こいつ、ギプスで殴ってきやがった。ほら、自分も痛いんじゃん。ザマァ!
「ふざけた事言わないで」
「これって、オレもマインスイーパーの一員になれたってこと?」
首を横に振られる。
「今の植木君じゃ、いくら血雷を倒そうともなることはできないよ。あくまで君は、私のお手伝いって感じ」
「んだよ。まぁ、そう簡単になれないよな」
「意外に素直なのね」
「あぁ、もうボクは完全にファンタジー世界の住人だからね。それだけで嬉しいんだ」
「そんな楽しいことばかりじゃないんだけどね……」
「え?」
辺りは暗いので表情はうまく読み取れなかった。
「これだけは約束して……『無茶はしない』」
できるかなぁ~自信ないぜ。
「あぁ、わかった」
「……まぁいいわ。どうせ私がバスターを起動させないとダメだからね」
「えーーーーっ!」
「当たり前よ。バスターは、マインスイーパーたる証なのよ。”お手伝い”の植木君が起動できるわけないじゃない」
くっそ~絶対出世してやる……
「血雷の情報等は私がやりとりするから、君は処理だけしてくれてればいいから」
「そうか、まぁそれでもいいよ……てか、なんで急にボクを手伝わせようと?」
たしか、去り際に「二度と私には関わらないで」とか、言っていたはずなのに……