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四ページ目『一緒に弁当食べたくて』

これまでのヒーローの鏡:怪物と化した織田を倒したのは運動音痴のドジっ子・月代雪里だった。その正体を暴いた鏡は彼女から話を聞く約束を取り付けた!

 ボクは、待ち合わせ場所の駅前に居るのだが、約束の時間まで一時間もある。

 昨晩、興奮のあまり、寝れなかったのだ。

 夕方前まで寝ていたから、ってのもあるんだろうが『ファンタジーへの入り口の真ん前に立っている』と、考えるだけで眠れなかった。


 結局、寝付けたのは朝の六時。読みかけの漫画や、ラノベを読んでみたが、全く集中できなかったのでベットで悶絶しまくった。

 当たり前だ! ボクは、ファンタジーの世界に、足を踏み込んだんだから。世界のどこにもない、ボクだけのたった一つのファンタジーが!


 一個最悪だったのが、そんな悶絶シーンを、母さんに見られたことだ。

 だから、勝手に入ってくるなっての……しかも、変に勘ぐりやがって、ボクが月代つきしろにホの字だと思ってやがる。

 まぁ、あながち間違っちゃいないんだろうが、この悶絶は恋だの、愛だの、甘っちょろい事象でしているわけではないんだが、母さんにそんな事を言っても、しょうがないので『デートがあるから』と、言う事にしておいた。

 こうしておく事で、母さんは幸せなのだから。


 未だに体が痛いのに加え、朝寝早起きで、正直横になっていたかった。

 ベンチに座りながらうとうとしていると。

「植木君、こんにちは」

 月代が待ち合わせ場所に現れた。時計を見るとまだ三十分はある。ボクが思うのも何だが、意外に早いな。

「やめろよ『植木君』なんて、下の名前『きょう』って読んでくれて、構わないんだぜ」

「…………まさか『植木君』が、こんなに早く来てるなんて、思わなかったよ」

 ん~、呼んでくれないのね。

 ヒロインに苗字で呼ばれるなんて、チョット格好がつかないんじゃないか?


「全っ然! 寝れなくてね。そう言う月代も早いな。まだ、三十分もあるぜ」

「誰かを待たせるのって、嫌なの。だから、大体三十分前行動かな」

 そうドヤ顔する彼女の格好に、違和感を感じた。

 学校以外で会うのが初めてだから、とか、そう言うわけじゃなくて……

「なぁ、月代。今日のファッションだけど」

 クルッと、一周りしてポーズを決める月代。

「どう? お出かけする時の一張羅よ♪」

 音符なんか出して……薄ピンクのワンピース、なかなかに可愛いが……

「ワンピースの下に『ジャージ』を穿いてくるって、お前のセンス飛び抜けてんな、それとも人知れず流行ってんの?」

 その一言でギョッとして、自分の下半身を見るなり、彼女は驚愕の行動をとった。

 あまりに恥ずかしかったのだろうか、動転したからか、スカートに手を突っ込み、その場でジャージを脱ごうとしていた!

「バカ! お前、やめろ。ここ駅前だぞ!!」

「え!? あっ!!」

 ボクとしては、ちょっとしたラッキースケベになりそうだったんだが、こんな公衆の面前でソレはやっぱりありえない。

 何より端から見たら『彼女に公衆の面前で服を脱がした男』と、見られてしまう

「チョット、お手洗いに~」

 顔面を真っ赤にして、そそくさと公衆トイレへ走っていった。途中ずっこけてカバンの中身をぶちまきえていたのは、流石としか言い様がない。

 あ、ぶちまけてるの弁当じゃん。

「巻き起こるなぁ~」


 十分ほどして、トイレから戻ってきた。

 その顔は『今、待ち合わせ場所に着きました』とでも、言ってきそうな感じだった。トートバックはパンパンでジャージの裾が飛び出していた。

「植木君、こんにちは」

 こいつ、マジか……

「早いのね。待った?」

「……いや、待ってないよ。ボクも、今来たとこ」

 ボクは気の利く男なのさ。

「そう……じゃあ、行きましょっか」

「どこに行くんだ?」

「海浜公園に行って、お弁当でも食べましょ」

 にっこりスマイルで、ボクを見る月代。

「作ってきてきてくれたのかい?」

 これは勿論、嫌味だ。

「グホッ!」

 目にも留まらぬスピードで、ボディブローを見舞ってきた。

 ニコニコしているが「そこには触れるな」と言う圧をかけてくる。コワ~……

 結局、ボクらは近くのコンビニで、弁当やおにぎりなどを買って、海浜公園までやってきた。

 母さんが作った以外の手作り弁当を、食べられるチャンスだったんだがなぁ……


 ここはボクの住む地域でも一番広い公園だ。

 観覧車があったり、でかいアスレチックがあったり、夏場は噴水広場で水浴びもでき、一年を通じて楽しむことができる”公園”と言うか、テーマパークに近い場所だ。

 ボク等は、ピクニックエリアにレジャーシートを敷いて、お弁当を食べながら話をしていた。

「良い天気ですね」

 サンドイッチを食べながら、月代が言う。 

「あぁ、そうだな」

 天気なんてどうでもいい。今すぐ雷雨になったって構わん! ボクは、そんな話をしたいわけじゃない。

「あのさぁ」

「コンビニの食べ物も、レベル上がったよねぇ」

「どうでもいい」

「ちょっと前は、ここまで美味しいもんじゃなかった!」

「いや、知らんし」

「特に、デザート系の進化はめまぐるしいものがあって……」

 月代は、シュークリームを取り出しながら話している。完全にボクの話を聞いていない。「教えてくれる」って、言ったくせに!

「聞けって、月代!」

 持っていたシュークリームを落としそうになった。落とせ、バカ。

「お前、昨日『質問に答えてくれる』って、言ったよな? そんな、昨今のコンビニ事情なんて、どうでもいいわ」

 月代は小さく溜め息を吐き、シュークリームを一口で頬張った。

「わかりゅわしたよ(わかりましたよ)。て、らにがひひたいほ(で、何が聞きたいの)?」

 飲み込んでからしゃべれよ。行儀悪い。


「そうだな……まず、一昨日、ボクを襲ってきた怪物は何だ?」

「……植木君を襲ったのは『血雷ぢらい』と、呼ばれているモノ」

「地雷?」

 月代は首を振る。

「それは、地面に埋める奴そっちのイントネーションは”嫌い”だけれど血雷のイントネーションは”未来”と同じね。血で上がって、雷で下がる。漢字にすると『血ぃ吸うたろか?』の血に、『風神雷神』の雷で『血雷』……”し”に点々じゃなくって”ち”に点々ね」

 無駄に細けぇな……

「その、血雷ってのは一体何なんだ?」

「……植木君は、寄生生物って知ってる?」

「えっと、寄生虫的な? サナダムシとか?」

「そう、奴らはそれに近い存在」

「……生き物なのか」

「うん、突然この世に生まれ落ちたのか。はたまた、別の何かがそれに進化したのか。それは解ってはいないけれど。血雷は、れっきとした生き物なの。書店に並んでいる、動物図鑑なんかには載っていないし。学会も存在の公言もしていない。まぁ、動物学者でも、その存在を知っている者は皆無なんだけど。しかし、血雷は確実に存在している。ちなみに、血雷目・血雷科・学名は『Spark Mine』」

 もっとこう”悪魔の生物”とか、そんな感じかと思ったら学名までついちゃって……

「血雷は、人間や動物に寄生する」

「人間だけじゃないのか」

「勿論。他の寄生する生物と同じように、寄生されても宿主には自覚がない。そして、本体に外的ショックや、精神的ショックが起こると、宿主を怪物に変え、破壊の限りを尽くすようになってしまう。私達はそれを『踏む』と、呼んでいる。踏まれて血雷化してしまうと、自我を保てなくなってしまう」

 なるほど……と言うことは…………? あの時漫画を落としたんだよな。そしたら血雷が出て……なんで漫画落としたら出てきたんだ?

「もう植木君は、目の当たりにしているから知っていると思うけど、踏まれると元の形を保つことはできなくなり、血管が赤黒く浮き上がるの。その血管が稲妻に似ていることから、血雷と名付けられたのよ。諸説あるけど」

 確かに、怪物の体の模様は雷のように見えた。それが全身に浮かび上がる様を思い出し、鳥肌が立った。

「血雷には自我があるんだけど、一体何が目的なのかは全くわかっていない。しかも、困ったことに一度寄生されると、取り出す手段は今のところない」

「マジか……」

「唯一、宿主が血雷から開放される方法は『死ぬ』しかない」

「そんなことって」

 二人の間に、暗い空気が流れた。周りで戯れる家族連れの声が、妙に大きくはっきり聞こえた。

 この中にも、すでに血雷に寄生されている人間が居ると考えると、ゾッとする。

 死ぬしか解決方法がないなんて……

「で、その血雷を処理してるのが、私達なの……あ、分かってると思うけど、今話してる事は他言無用だからね」

 ボクは目を輝かせ月代を見つめた。さっきまで青ざめていたのにすぐこれだ、ボクって奴は……

 雪里は額を抑え「やれやれ」みたいな感じをしているが、今は気にしない!

「で、私は、血雷処理機関”みんなのて”の『マインスイーパー』なの」

 ……ヒッヒッヒッ! 香ばしい感じになってきました。ボクの目は、さらに輝きが増していく。涎なんかも垂らしながら。

「みんなのては政府の機関で、一応給料も出てるわ」

「マジ! じゃあ、ボクもなれたりするの!?」

「『じゃあ』の、意味がわからないけど、それはできない、条件があるのよ。植木君じゃ無理ね」

「えーマジかよー」

「そして、持っていた大鎌は対血雷専用兵器『バスター』。血雷は一般的な銃火器などではダメージを与えることができない、コレはそ――」

 話は途中だったがボクは昨日のように矢継ぎ早にねだった。


「手伝わせてくれよ!」

「なんかあるだろ?」

「ボクもマインスイーパー(それ)になりたい」

「どうやってなるんだ?」

「教えて。教えて! 教えて!!」

「あとその武器見せて!」

「貸して!」

「触らせて!」


 それは、おもちゃ屋の前の子供も泣き止むレベル

 手を握ったり、肩を揉んだり、口元を拭いてあげたりしていると、流石に月白がキレだした。

「あぁ! うるさい! いい? 植木君にできることなんて、コレっぽっちもないんだからね!」

 月代は、小指の先を見せながら怒った。

 そう言うと、残っていたシュークリームを全て食べ、レジャーシートを片付けてしまった。

「ひみのふうとーり(君の言うとおり)」

 飲み込んでから喋ろうぜ。

「ふはぁ……質問には答えたわ。だから、コレで終わり! 今回は特別、誰にも言わないって言うなら見逃してあげるから、月曜からはまた一クラスメイトとして接してね。あと、ゴミは植木君が片付けてよ!」

「おい、チョット待て! もっと、聞かせろ」

 月代はスタスタと行ってしまう! ここで逃す事はできんからな。もっと……もっと、もっと! 話を聞かせてもらわないと!!

 ボクもそのままで追っかければいいのだが、律儀にゴミを袋に片付けている。真面目かっ! すると、携帯の着信音が鳴った。

 鳴っているのは、ボクのじゃない。

 ボクの着信音は有名RPGシリーズ、六作品目のレベルアップ音だ。となると、月代のか?

 彼女は未だにパカパカのガラケーを取り出した。

 ボクはその間に追いついて肩なんかを揉んでいる。


「はい雪里……エッ!? 河川敷で血雷が出た?! 了解です! じゃ植木君! 私急用ができちゃったから、行かなきゃ! また月曜日学校で! ちゃんと休むのよ」


 そう言うと、目にも止まらぬスピードで走って行ってしまった。

 …………丸聞こえだぜ月代ちゃんよお!

「おい待て! 今の話は!? ………………ヒッヒッヒッ! 逃さねぇぞォ」

 こんなチャンス、百万回転生しても絶対訪れないぜ……

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