三十四ページ目『剣を撫で詩を詠む』
これまでのヒーローの鏡:近田と共にウタちゃんに挑もうとする鏡。果たしてうまくいくのだろうか?
「チクショォォッ!! ツッカエネェナッ!!」
とにかく逃げないと、出来ればルルルと合流できたら御の字だ。
ボクは人気のない路地を駆けていた。
近田と協力してウタちゃんと戦う腹積りだったのだが、まさかあいつ、ボクの方に攻撃してきやがった。そこはまだいい「一緒に戦おう」なんて約束したわけじゃないからな……
一撃だった。たったの一撃でライフほぼ満タンだった近田がやられた……
そして、ボクは危険を察知して逃げる! もとい、ルルルと合流する為に移動を開始した。
連絡してみてもやはり出ない……今の所、ウタちゃんが追ってきている様子は…………背後から爆音!
「なんだ!?」
煙の中から現れたのは、セリさんだった。
ウタちゃんもいる……ボクを狙っているってわけではないようだ。二人で戦っている。
セリさんが、押してるっぽい?
「あら植君、こんなとこにいたのね?」
涼しい顔をしている彼女だが、かなり汗をかいている。ライフはボクと同じくらい。近田がいなくなったのでこれはチャンスぞ!
「……セリさん、ここは共闘しませんか?」
近田の二の舞は避けなければ。
「…………いいですわ。セリも同じ事を考えてましたし」
セリさんは新しく三つのチャクラムを出しウタちゃんのいる方を向く。
『アッハッハッハッハッ!』
突然ウタちゃんは笑い始めた。額に手を当て、とても愉快そうに……
「あなたいいよ! 凄く凄い! わたしに傷つけるなんてよっぽどだ。戦いはこうでなくちゃ……一方的な戦いは虐殺だ」
そこからも腹を抱え笑っていた。
「名前を、わたしに名前を教えて! わたしの記憶にあなたを記録させて!」
「……山風セリと言いますわ」
「山風って言うのね。あなたに出会えてわたしは死合せだ。さぁ、死合おう!」
「あの方かなりイッちゃってる系ですわね」
「……」
ボクも同感だよ。
「くるくるくるくる、ぼくらは回る。止まってしまえば死神くるぞ」
そう言ったウタちゃんは、風と共に消えた。
そして、再び姿を現した時にはセリさんのライフはゼロになっていた。
「え? なにが――」
セリさんが消えていった。
「……次はあなたよ植木」
圧倒的じゃないか、生命の城は!
強すぎる。流石、六ヶ月の研修期間を二週間で終えた実力者……
「やるしかないか……」
ボクがどこまで戦えるかわからない。セリさん達が一瞬だったんだ……
いや、できるはずさ! だってボクはホシノハネのスーパーエースだから!
ボクはファンネルバクーを五基展開させ、ウタちゃんに向かって飛ばしたが、あっけなく一振りで全て蹴散らされてしまう……
「マジかよ」
そこから、ボクは使える技は全て試したが大した効果もなく、搦め手で攻めてみても、圧倒的なパワーの前ではなす術はない。
「強い、ただただ強い……」
辛うじて海神の一撃がいい仕事をした。
クレイモアを持つ手をぶっち切ってやったのだが、何事もなかったかのように元通りになってしまった。
ぶっち切ったという事実が大事、無敵じゃないという事がわかったからね!
この人ウタちゃんの皮を被った悪魔なんじゃないのか?
あんなに優しくて笑顔が素敵だったウタちゃんは一体どこに……いや今も笑ってはいるんだけど……
「ハッハッハッ、植木と言ったね君は…………君の事も記録したよ。山風とは違う面白さがある」
突然身悶えるウタちゃん
「はぁ~今日は本当に楽しいなぁキューインボイの加護に感謝するよ。死合せだ……マインスイーパーになれてよかったと、始めて思った……」
なんて、ヤバイ女に成長しちまったんだ……
ウタちゃんの想力が増していくのがわかる。これは、ヤバイのが来るパターンだろ!
「これで終わり、すべて終わり。わたし達は心を動かす為に生きている。止めるな止めるな、前へ踏み出せ」
なんだ? 詩か? トリアイナを構え一歩後ずさる。さっきセリさんがやられた時もなんか言ってたな。
クレイモアの刀身に軽く触れると、ボクの目の前は真っ白になった。
× × ×
気が付くとボクは転送前にいた通学路に立っていた。手にはなくなっていたタブレット端末。そこには戦況のようなものが表示されていた。
登録されている者は今回の訓練に全員参加しているようだ。
ボク、セリさん、近田、景綱は退場という事になっている。残りはルルル、雪里、ウタちゃん……
「帰るか」
久々に一人の帰路だ。読みかけの少年ジャンプでも読んで帰ろうとか思ったが、少しタブレットを眺めながら帰ることにした。
訓練所では消えてしまったこのタブレット。アプリ上では訓練所にいる人間のライフが表示されている。
雪里、ルルルは同じくらいまだ余裕はある。ウタちゃんはボクとセリさんで削ったが半分四分の三位だ……結構頑張ったのにそんなもんかよ……
まだ二人はウタちゃんとは遭遇してないのかな? 一気に減ることはなくちょっとずつお互いのライフを減らしていった。
なかなか決着がつかないままボクは自宅に帰ってきた。鞄の中にタブレットをしまう。
「後で確認すっかな」
「お帰りキョーちゃん今日はカレーよ」
「お~まじかやったぜ」
そのまま家族が待つリビングでくつろぐのだった。
「ルルルちゃんはどうしたんだ?」
「今日は帰り一緒じゃなかったんだ」
カレーを食べ終わり、お風呂に入ろうとリビングを出た時ルルルが帰ってきた。
「ただいまぁ」
ちょっと浮かない顔をしていたように見えたが。ボクの顔を見た途端にいつもの元気が戻ったみたいだ。
「おかえりルルル」
「ふぇ~んキョーちゃ~ん」
泣きながらボク位抱きつくルルル。
「おいどうしたんだよ?」
どうしたもこうしたも、ウタちゃんに負けたのだろう。
「あのね、えっとね……」
「おぉ玄関で情熱的だねぇ」
うわおじいちゃんに見つかった!
ついでに未来さんにも……パクパクと何かを言おうとしているみたいだが何も聞こえない……視点も定まっていない。まだルルルに馴染めていないんだな。全く未来さんは……
一通り夕飯とお風呂も入り終わり元ボクの部屋で少年ジャンプを読みふけっていると。
「キョ~ちゃ~ん、話し聞いてよ~」
「なんだよ。何があったんだ?」
「も~あの人強すぎだよ~」
彼女はボクに抱きつきながら語り始めるのだった。




