三十一ページ目『ラッカーパーティ』
これまでのヒーローの鏡:鏡を巡ってルルルと倉宮の喧嘩が勃発!
って、バカッ!! ボクはラブコメなんてやりたくないっての!!
今日一日、クラスの誤解を解くことに遵守した……が、全く解くことはできなかった。いっその事、記憶書き換えてやろうかとか思ったが雪里にこっぴどく叱られるけっかに……こりゃ明日には学年、明後日には学校中に広がってるに違いない……いや、もうすでに学校中に広がってる可能性ある。SNSでぶっぱしてやがったからな……嫁を探しに留学してた。とか、ルルルは旦那を追ってはるばる日本に留学してきた。とか言われかねんぞ!
「確かにアカタカク王国では、ボクとルルルは夫婦だったけどあれはそう言う設定で!」
今は雪里の誤解は解いている真っ最中。
「はいはい、そうですね。わかってますよ」
何ちょっと怒ってんだよ……
「キョーちゃん設定ってどーゆーこと!?」
その日はボク、雪里、ルルルの三人で帰宅していた。本当ならここに倉宮がいそうなものだが、なんとか撒いてやったぜ。
「待て怒るなって……くっそぉあぁもう! 痛いって殴んなよ」
「はいはい、痴話喧嘩はそこまでにしてね。私はあっちだから、また明日」
「ユキちゃんまた明日ー」
ルルルは満面の笑みで雪里に手を振るのだった。
雪里と別れ、ルルルと二人きりになる。怒りはだいぶ収まったみたいでよかった。
……一年以上共同生活をした身としては、格別な思いはないのだが…………アカタカク王国で別れた時のキスが頭をよぎる。
自然と彼女の唇に目が行ってしまう……
ぷるんとした唇、健康的な白い歯、元気っ子の印の八重歯、ぬるっとザラッとしていた舌がボクの口内を…………生唾を飲む。
「ねぇ聞いてるのキョーちゃん?」
「え? 何だ?」
「だから家着いたって」
やましいことを考えていた間に家についたっぽい。
「お、そうか着いたか……うんじゃあな」
ボクは玄関へ向かっていく。
ドアノブに手をかける。何故か背後にルルルの影……
「あの、ここボクの家なんだけどなんか用あるのかな?」
「用もなにもあたしの家でもあるじゃん」
………………やっぱりかぁ。
夕飯の食卓にはボク、父さん、母さん、おじいちゃん、未来さん、ボク、ルルルが着いていた。
ルルルがいるからなのか、いつも以上に賑やかな食卓になっている。
雪里の時のように幼なじみということではなく、やっぱりと言うか当然の流れというか……ボクの留学先での彼女という設定だ。
日本語留学で来日した彼女のホームステイ先として、旦那であったボクの家に来ている。今回は記憶の操作なしだ。
家族に夫婦関係だったことは内緒にしてある……そんなこと聞いたら母さんがまた激しくうるさいからな。
ついでに寝床まで同じだ……またボクのベッドは占領されてしまった……ルルルは「一緒に寝よ」と言ってくれたが……ボクはリビングのソファに枕と布団を持っていく事にするよ。
学校が休みの日にシスターに招集を受けた。
「で、シスター今日はどうしたんですか? 特別訓練か何か?」
「訓練してあげたいのは山々ですが、本日は会議に呼ばれています」
「会議?」
「はい、日本に展開しているマインスイーパーの会社が一同に会す定例会議『第漆社会議』です」
× × ×
無理矢理着させられたスーツを身に纏い、シスターと共にやってきたのは会議の開催される会場。
会場と言っても会議室とか市民会館みたいな所ではなく、地雷処理機関「みんなのて」の総本山だ。
人でごった返しているのかと思いきや、そんなことはなかった。二、三人の塊がちらほらあるだけ。
ボクとシスターは、控室に通される。
「意外に人少ないんですね?」
「主要幹部が出席すればいいだけですから」
「にしても、なんでボク達なんですかなぇ?」
「総本山に一番近いのは私達なんですよ」
「へぇ~……」
「おっ? そこにおるのは植君やないか?」
「?! 驚きましたわ。あなた本当はマインスイーパーでしたのね」
この似非関西弁と、少し小馬鹿にしたようなしゃべり方は、セリさんと近田だ。
「……植木さんお知り合い?」
「全く隠してたのね! 本当に仕様もない方ですこと」
「なんや、エライべっぴんさんと二人かいな? 月代ちゃんはどないしたん?」
「えっと……」
めんどくさいなぁ。ボクはセリさん達に、一年半ほど前チュパカブラ血雷の事件の後の事を、掻い摘んで説明した。
「かくかくしかじかって事なんだよ」
「なるほど、お友達だったんですね」
「ふむ、ですわ。あなたも大変だったんですわね」
「ホンマにべっぴんさんやな~」
若干一名はは聞いてなさそうだわ。
『お集まりの皆さん会場の用意ができましたので入室お願いします』
待合室にアナウンスが有り、ボク達は指示通り会場に入っていく。
長テーブルが口の字に配置された簡素なもので、それぞれどこに座るか名札とお茶が用意されていた。
全員が着席する。大体二十人位だろうか?
今日本に展開している会社はボク達ホシノハネ、みんなのて、B×R、生命の城、スイートホーム、第五計画、KONDOHの七社。
司会進行は、みんなのての髭が立派なのおじさん……色々熱心に話しているけど、ボクにとっては完全に催眠術だよ。
やば! あくびしてるのシスターに見つかった……刺すような眼差しがボクに突き刺さる。こりゃ折檻だな。トホホ……
× × ×
会議の内容はと言うと、憑依種血雷に関することだ。
全国各地でも存在が確認されているらしい。特徴は以下。
・知性があり、言葉を話し理解する。
・人間の状態と血雷の状態を使い分けられる。
・人間時も血雷と同等の力を使える。
真新しい情報はなかった。チュパカブラ血雷、ミノタウロス血雷の二体と対峙した感じでわかる。もちろん寄生種よりも遥かに強いってのも特徴と言えばそうだろう。
「とここで、ホシノハネの植木鏡さん……」
「んあ? ……はい?」
突然、髭のおじさんから名指しされる。ボクはちゃんと聞いてたぞ! 怒られる言われはない。
「君はアカタカク王国で憑依種血雷の拉致現場に遭遇したらしいね。その時の事を聞かせてもらえないかな?」
あぁ、そのことか……
ボクは一部始終を丁寧に話した。数分間の出来事だったので説明は短い。
「……――って感じです」
「はい、ありがとう」
会場はザワついていた。
確かに、憑依種ってだけで目にした事がない人も居るだろう。それに加えて、そいつらを凌駕する者の存在だ。ザワつくのは当たり前の流れ。
「落ち着いてください。他に彼のような者を目撃したという人はいませんか」
…………特別いないようだ。
「植君もしかして、デマこいた?」
「何言ってんですか。デマなわけ無いでしょ!」
近田の野郎……
「はいはい、静かに……日本では少ないようですが、世界で見るとちらほらある話なので彼の言ったことは嘘ではないでしょう」
ほら見たことか……何悔しそうな顔してんだよ、似非関西人。
全世界ではボクの一件を含めて三件、似たような存在の確認が取れているらしい。
この事態重く見た各社の幹部達が、このような形で情報共有の為、会議を開いたと言う事らしい。しかし、こんな話を聞かされたから、なんだって言うんだ? ただでさえ血雷処理は後手なのに、対処のしようがない。「はい頑張ります」「気を付けます」としか、言う事ないっての。
「そこで! 私達、みんなのてから一つ提案があります……戦力強化の為各社合同での演習訓練を行うのです!」
会場にいた人はその一言でピタリと身体が止まる。
そのリアクションを見て、髭のおじさんは不敵に笑うのだった……




