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二十九ページ目『突然の幕切れ』

これまでのヒーローの鏡:ルルルの兄で次男坊のセイン・カルミド・G・グロォインは憑依種血雷だった。その姿はミノタウロス!

脳筋パワー系かと思いきやなかなかの策士。鏡は構成虚しくピンチを迎えていた。

「あっそ」

 生気のない目がさらに生気をなくし、ボクに向かってトゲ付き棍棒を振り下ろしてくる。さっきのとは比べ物にならない勢いだ。

 けどとてもゆっくりに見える……

 事故る時は 時間の流れがゆっくりに見えると言うそれなんだろうな。前にも体験した事があるっけ。

「ヒヒッ」

 笑いが出た。

「何笑ってんだよっ!」


 セイン(ミノタウロス血雷)の手が止まる。ボクが何かしたからとか、突然の慈悲とかではない。

 喉元から真紅に輝く刀身が突き出していた。

 それが勢いよく引き抜かれるのと、大量の血を噴出しながら倒れていった。


「もーホントにキョーちゃんはあたしがいなきゃダメダメなんだから」

 宙返りをしながら華麗に着地したのは、フロクシル・ヌーベル・ディアトネルこと、ルルルだった。

 ボクが彼女の存在に気づいたのは、中指を立てた辺り。

「ルルル……サンキュ。でもお前なんで……」

「ちゃんとでっかいのも倒したよー。それに……色々吹っ切れた」

「本当に大丈夫なのか?」

「セインお兄様には容赦しない……お父様、お母様をあんなにした奴を兄だとは思わない!」

 ……強い子だなぁルルルは。ボクが同じ立場だったらと考えると同じように振る舞えるかわからない。

「なぁにをご陽気に喋ってやがる!」

 まだトドメを刺せていなかったようだ。

 首から下を血で汚したセインはすでに立ち上がっていた。


 なんとか想力(そうりょく)で痛みは和らげたボクは、トリアイナを構える。

「ルルルゥ……テメェもマインスイーパーだったのかよぉ~」

「あなたを処理します!」

 にしてもセインの奴しぶといなあんな大量に血を流してるのに、まだまだ元気じゃないか。


 ボクとルルルは連携はバッチリだ。一年半も共に戦ってきたのは伊達じゃない。

 主に接近戦はルルルが行いボクは遠くから攻撃をする。

 このスタイルがボク達の戦い方。

 本音を言えば、ボクが最前線で戦いたい所なんだけど、近距離戦闘においてはボクよりルルルのが一枚上手なんだ。

 なのでボクは中~遠距離戦闘を強いられている。まぁ、バスター的にその方があっているんだが……


 水球に閉じ込められたセインが何事かを喋っている……

 セインを閉じ込めている水球は、ボクの『深海への(いざな)い』と言う技。

 あの中は、深海と同じような水圧がかかって、中にいる者を押し潰す技……あの野郎なかなかタフだな。

「ルルル、いいぞ!」

「ハイヨー」

 ルルルから返事があると、ベリベリと焔赤(えんせき)の塗装は剥がれ、その下からは深緑の刀身が姿を現した。そして、それは輝きを増していく。


『森羅万象剣!!』


 深緑に変わった焔赤の刀身は、元の倍ほどの大きさになった。

「でぇぇいっ!」

 思い切り踏み込んだルルルは一瞬のうちに水球を飛び越える。

 着地の後三回の切断音と共に、水球は弾け飛んだ。そして、中にいたセインは左ツノ、右腕、左足が切断され崩れ落ちる。

「やったか?」

 いやまだみたいだ。流石に立ち上がることはできなさそうだが、苦痛や怒りなどが入り混じった顔になり、()く。

「痛えぇ、……痛よぉぉぉおっ!!!!」

 残った手足をばたつかせもがいている。

「――殺す!! ルルルも、テメェも! 必ず殺すッ!」

「ヒッヒッヒッ、叶わない夢だったね♪ もうここで処理されちゃうんだから」

 なんだかとても主人公らしくないセリフだな。

 ボクはトリアイナを振り上げた!


『それは困ります』


「キョーちゃん、危ない!!」

「!!」

 ボクはルルルに思い切りマントを引っ張られ引き倒される。その直後ボクの立っていた場所に光の柱? の、様なものが降り注いだ。


 その光の柱が消えると、少年が一人立ってこちらを見ていた。

 碧髪で赤と緑のオッドアイ肌の色は真っ白な少年だった。今の口ぶりから推測するにこいつはボク達の味方という感じではなさそうだ。

 しかし、この少年からはボク達に対する威嚇とか殺気みたいなのは感じられない。だが、こいつは敵だ。そんな気しかしない。

「君は誰?」

「うんうん、まだ大丈夫そうですね」

 少年はルルルの質問に答える素振りもなく、セインを値踏みするように見ている……

「んだこのガキャア、見せもんじゃねぇぞ!」

「元気もある。なかなか良し……しかし、いささか五月蝿うるさいですね」

 少年がセインに手をかざすと、汚い言葉を吐きまくっていたセインは眠ってしまった。そして、眠ったままの彼を片手で担ぎ、ふわふわとこの場から立ち去ろうとする。

「いや待てよ!? 何勝手なことしてんだ。こっちはそいつを処理し……オイ」

 ボクは質問をし終える前に少年は消えてしまった。

「は? なんだよ? これ……」

 なんて言うかボクの知ってるパターンではない……普通ならここで名乗ったりするようなもんだろ。

「……とにかく、本部に連絡しなくちゃだね!」


 ☓   ☓   ☓


 あれから二日経った。

 アカタカク王国の人々の記憶は、ホシノハネの本隊の方々の力でほぼ塗り替えられ何もなかった事になった。そして、ルルルの父だった国王は彼女の生き残った兄が世襲していると言う事で、なんとか丸く収まっている。

 兄弟内のギスギスの問題が無くなったわけではないが、かなり少なくなったので、晴れてルルルは王宮での生活を送ることができるだろう。

「ネー本当に行くの?」

「うん、まぁな」

 ボクは今、部屋の片付けをしている。王宮への引っ越しの為ではない。

 ホシノハネが日本に支部を設立したので異動が決まった。


 ここ最近教官から連絡がありアカタカク王国でのモヤモヤも一通り片付いたのでようやく行くことに。

「さびしーよー。キョーちゃんずっとここにいてよ」

「ゴメンな……」

「いーじゃんいーじゃん!」

 駄々こねると思ったけどさ、こういう所まだ子供だよな。

「元々はルルルが心配でここに来ただけなんだ今やその不安は解消されただろ? だからボクはここにいる理由はそんなにないんだよ……」

「…………あたしの事嫌いになった?」

 潤んだ瞳でにじり寄ってくる。なんでそうなる……

「そう言う事じゃないんだ……」

 日本が地元だし、どうせならそっちで活動したいと思うのは自然な流れではないだろうか?

「たまに手紙書くし、王国(ここ)にも年一……二クールに一回は帰ってくるよ」

「ニクール?」

 いやそこ引っかからなくていいって。

「半年に一回って事」

「……そんな寂しすぎるよ……」

「いいじゃないか。王宮は前ほどじゃないだろうし、もしなんかあったら後輩君達が助けてくれるって」

「…………で」

 ボクの携帯が鳴る。教官からだ……ナイスタイミング。

 迎えに来たとの連絡だった。

「ルルル……ボクはもう行くよ」

「ウン」

 悲しそうな顔をするので、ポンポンと頭を撫でてやるとルルルは咲いた花のように笑顔になった。

「そう、ルルルは笑顔が一番だよ」


 家の前には教官が直々に待ってくれていた。

「とても大変だったみたいだね。お疲れ様」

 ボクなんかよりルルルのが、現在進行形で大変なんだな。

「いえ……ボクは大丈夫です。さ、行きましょう」

「ルルルさんとの別れはいいのかい?」

「はい、さっき済ませてきました」

 ボクは教官の乗ってきたであろう車に乗り込む。

「キョーちゃん!」

 聞こえてきたのはルルルのボクを呼ぶ声だった。

 彼女の目は腫れぼったい感じだった……泣いていたのかな? 全く懐かれたもんだ。

 窓を開ける。

「向こう行ってもがんばってね」

「ああ」

「ちゃんと寝る前にはトイレ行くんだよ」

「ああ」

「ご飯食べたら歯も磨いてね」

「うん」

「人の言うことは聞くように」

「もう! 母さんかよっ! 人の心配してないで自分の心配でもしてろって」


「植木さん、もういいですか行きますよ?」

 すでに教官が運転席に着いていた。

「ハイ大丈夫です行ってください」

 コクっと頷く教官。

「あっキョーカン待って! これが最後」

「はぁ? ……………………!!?」

 ルルルの方を振り返る眼前には彼女の顔があった。目一杯頭を押さえつけられ…………唇に感触が……ボクはルルルとキスをしていた。情熱的なやつの。

 ボクの口にルルルの舌が滑りこみ、舌同士が触れ合った。温かい、そして口の中をちょこっとザラッとした彼女の舌が這う。全身鳥肌が立った……こ、これは――……

 謎の快楽で意識が飛びそうになったが、数秒後ルルルは離れてくれた。

「さ、キョーカン行ってください」

「はい、ではお元気で」

 車が発車する。ボクは半ば放心状態でルルルを見つめていた。ボンヤリと小さくなっていく彼女を。

「これがヒロインランクAの力か」


 最後に衝撃的な思い出をもらってしまった。アカタカク王国の事は一生忘れなさそうだ……





『大好きだよ……キョーちゃん』






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