二十五ページ目『青天の霹靂』
これまでのヒーローの鏡:トライデントのバスターを手に入れた! そして、フロクシル・ヌーベル・ディアトネルことルルルと共同生活を強いられる。しかし、彼女の言動にタジタジの鏡は夜風に当たる為、部屋を飛び出して……
「ウウウ、ウタひゃん!?」
はっ!? 未来さんみたいな感じになってしまったよ!
そこの刻まれていたのは、一ヶ月ほど前に忽然と姿を消した、ボクの本当の幼馴染『撫詩子』その人の名前だった。
顔写真はまだ掲示されていない……同姓同名か? それはないだろう珍しい名前だ。
雪里は「どこへ行ったかわからない」と言っていたが……まさか、ウタちゃんもマインスイーパーだったとは……
と、言う事は雪里の奴、ウタちゃんがマインスイーパーだって知ってたんじゃ無いのか? あのヤロー、ボクに嘘教えたな……絶対許さねえ。「ごめんなさい」なんて、謝ってきやがって……
もやもやした気持ちで施設内をうろつくと「資料室」みたいな部屋を発見した。
鍵は開いている。
何気なく入ってみる事にした。
「久しぶりにこう言う場所に来たかも」
資料室と言うか図書室って感じだ。本屋さんなどはよく行くのだが、図書室みたいなとこは雰囲気違くて……なんか、緊張する。
入り口そばにあった新聞っぽいものを手に取った。スタンドライトがあったのでその下に新聞を広げる。
家で取ってる新聞とは違う……むしろ見たことの無い新聞だ。
『血浄新聞』というものらしい。名前がちょっと怪しい……
どうやらマインスイーパー向けに刊行している新聞っぽいな、そりゃ見たことの無いわけだ。勿論、ラテ欄なんてないが、四コマ漫画は載ってるじゃないか……なかなかどうして、面白い。
世界各地で戦うマインスイーパー達の活躍が記事にされている。
「まぁ、日本だけじゃないよな」
その筋では有名なのだろう人達の活躍が、たくさん載っていた……小さくだが、雪里が怪我をしたことも載っていた。ボクもいずれはここに!
そんな未来のことを考えていると、最後の記事になった。
『今注目のあの人』と、言うコーナーだ。
「ウタちゃんだ……」
『今、マインスイーパー内で噂されているは女戦士「撫詩子」さん! マインスイーパーになって日が浅い彼女だが、数々の大金星を上げているご様子……そんな彼女に強さの秘訣を聞いてきました!』
ウ、ウタちゃん凄いな。いつの間にやら有名人じゃないか……記事と一緒にインタビューを受けている写真が掲載されていた。
そこに移されていたのは髪の長い女性……女の子ではなく”女性”だ。ボクと同学年のはずの彼女だが、どう低く見積もっても二十代前半のような感じだ。
やはり同姓同名の別人と思いたいが、左右に泣き黒子があった……まさかそこまで同じって言うのは出来すぎた話だ。
「これってどう言う事?」
「誰だ!? そこにいるのは!」
「うわっ!!」
「なんだ、植木君か」
突然現れたのは病院から地雷処理兵団本部まで連れて来てくれた、汗っかきの男だった。
どうやら、消灯時間はとっくに過ぎていたらしい。平謝りしながら図書室を後にする。あの記事読みたかったのに……
仕方ないので部屋まで帰る途中、ウタちゃんの事を少し聞いたんだ。
つい一ヶ月前、マインスイーパーに選抜された二十二歳。
ここに来る前は、フラム・ブロンクと言う帝国の騎士様だった。
冷静沈着に任務をこなす仕事人。
バスターは腕輪、それとは別に愛用しているクレイモアで戦う。
誰ともつるまず、孤独を愛している。
普段は無表情だが、戦いとなると笑顔を見せる。
これが聞き出した新聞に載っていたウタちゃんの事だ……いやいや、十六歳だし日本の学生だろ。フラムなんちゃらって何?
「あぁ~そう言えば、記憶が無いとか言ってましたねぇ……直接聞いたわけではないので、なんとも言えませんが」
雪里と入れ替わった後、何があったんだろう……直接会うことはできないかな?
「早く寝て下さいね。明日から、本格的にマインスイパーとして活動していくんですから」
「あの、ウタちゃんとは会うことってできないですか?」
「あぁそれは難しいかもな……もうここ出ちゃってるし、職場も日本じゃないよ」
「職場?」
「今日話しに出てなかったですか?」
確かに、テストでも出てた気がする……
「……えっと、なんでしたっけ?」
「マインスイーパーは、ここを出ると血雷処理の会社に就くんだよ」
あぁ……確か雪里は、血雷処理機関みんなのて、セリさん達はBナントカと、言う企業の会社員と言っていた、こういう事だったのね……
ボクはお礼を言って部屋に入っていく。あの人は、ウタちゃんがなんて企業のマインスイーパーをしているかは知らないようだった。
「まだボクのベッドに……」
まぁいいや。とっとと寝るよ。ボクは仕方なくルルルのベッドで眠りにつくのだった。
× × ×
ボクが血雷処理兵団に来てから半年ほど経ったある日のこと。
ボクとルルルは座学と実技に励んでいた。
座学の方はやっぱり好きにはなれない、講師の話を聞いていると子守唄にしか聞こえないのだ。
ルルルはと言うと、これが意外で勉強熱心だった。頭から煙を吐いていることが多いが……
そして実技。元々、バスターや想力を使った事のあるボクは、そつなくこなしていく。
この訓練施設かなりヤバイ。ここ自体が想力で造られていてあらゆる状況を再現し、ダメージを受けても死に至らない。
ここに来るとライフカウンターのような物が視界に現れる。それがゼロになることでこの空間における死という事になる。なんとも、某無双ゲー的な……まぁわかりやすくていい。
毎晩行っていた雪里との夜間訓練とここでのカリキュラムは似ていた。きっと、彼女がここで習ったことを、そのままボクに教えていたのだろう。
やっぱりと言うか、見た目通りと言うかルルルの身体能力は目を見張るものがある。この半年でメキメキと成長していった……ま、ボクの方が強いけどね。
突如、館内にサイレンが鳴り響き渡る。
「!!! い、一体何が起こるんです!?」
ご飯の時間等に、鐘やアナウンスがあるのはもう慣れたもんだが、こんな如何にも警告的なものは聞いたことがない。
「教官、この音なんですか?」
耳を塞ぎながらルルルが聞く。ボク達の実技を担当してくれているのは、筋骨隆々の浅黒マッチョの教官だ。今にも「ジョ、ジョウジ」とか言い出しそうな見た目ではあるが、クソがつく程優しい人、名前は教えてくれなかった。
「いやぁ、そうだねぇ……君達、初の実践だ!」
某探検隊の隊長張りのいい声で教官は言う。
「実践って何と戦うんだ?」
「植木さん……僕達が何の為にここで訓練しているか解ってるかい?」
あぁ、そう言う事か。
「……血雷ね」
× × ×
その後、教官に連絡が入り『目的地にいる血雷を処理しろ』と、言う事らしい。
「なんで血雷がここを襲ってくるんですか?」
「さぁ、なんでだろうねぇ。僕は教官だから、その辺りはよくわからないんだよ。ハッハッハ」
何だそりゃ大丈夫か? 気になりつつもボク達は目的地へ向け走っていた。
「あっ、そう言えば……チュパカブラ血雷が言ってたような……血雷を操ることがなんとかって」
黒幕の命令で襲ってきてるのかも?
「…………」
「教官も一緒に戦ってくれるんですかー?」
「んん〜どうだろうねぇ。僕は自分のことで、手一杯になるかもだから、基本的には二人はそれぞれで頑張るんだよ」
……まぁ、ボクがいればルルルの出番はないんだけどね。
ボク達三人は指定された目的地へ到着したのだった……




