おまけページ『無限のような可能性の中で』
葉中邸での後から病院に行くまでの出来事になります。
元々これが二十二ページ目だったけど、おまけにしました。
書いた後「そんなに特別な回ではないな」と、思いまして……実際読まなくても良かったりします。
やっぱり消すのはもったいないので、このタイミングで投稿です。
んあ? 何だここ? ……なんでボクはここにいるんよ?
「ま、どうでもいいかそんなこと」
コンクリート打ちっぱなしの廊下を進んでいく。寒くもないし暑くもない、一年通してこのくらいの気温だったら、至高なのになぁ。
右に曲がる。特別表現する所ではないが、「右に曲がる」と、表現する。そうでもしないと本当に何もない廊下なのだ。
「……なんだよ」
曲がった先には、いきなりドアがあった。
「く、開かない」
押しても、引いても、開きやしない。
鍵穴を除く、向こう側の光が見えたので部屋にでもなっているのか?
こうしていると、向こう側から誰かが……
「ほぎゃぁぁっ!」
突然、鍵穴の向こう側に目玉が現れ、おもいっきし目が合った。心臓に悪いぜぇ……絶対に許さね!
扉の向こうに居る、ボクを驚かせた奴に絶対仕返してやる!
しかし、開くことはできなかった。
かなりの時間ドアと格闘をしたが、ビクともしない……槍の騎士→斧の騎士→盾の騎士の順に甲冑を押さないといけないの?
ほら、気づくと壁の所に甲冑あるし……さっきまであったっけ? まぁいいか。
それも、いろいろ調べたけど変わった所はなしてか「甲冑を押す」ってなんだよ?!
扉の前で四苦八苦していると、ドアノブの所になにか書いてあるのが目に入った…………!!
ドアノブを掴み横へスライドさせる。
「ってこれ! 引き戸かーい!!」
そりゃ、押しても引いても無駄だわ!
さぁ、ボクを驚かせた奴どこに居る?
そこには誰もいなかった。あるのは、ぎっしりと本が詰まった本棚が、壁中部屋中に並べられていて、真ん中には机と椅子、誰もいない。
「さっきの奴、出てこい!」
声が反響するが反応はない。
並んでいる本に目をやるとジャンルはバラバラだった。
漫画、ラノベ、純文学、児童書、参考書、ハウトゥー本、観光ガイドブック、魔導書みたいのもまである。図書館にしちゃあ、ひっちゃかめっちゃかに並べられてるし、順番とか、バラッバラだし……直してぇ。
「……これ、ヴォイニッチ手稿じゃない?」
とんでもない物まであるな……
「おぉ、それを知っているとは!」
「アーッ!」
「オイオイ、そんなに驚くことないだろ?」
そりゃ驚くだろ! ボク一人だと思ったら、いきなり声かけられたんだぞ! こいつ二度もボクを!
声の主は真ん中の机に腰掛けこちらを見ていた。
三十代くらいの男性だ。柄とか色使いが常軌を逸した趣味の悪い柄の、ダブルのスーツを着ていた。
「二度も驚かせて、あんたなんなんだ? それに、ここはどこ? ボク、なんでここにいるんだ?」
「質問、多っ……二度? さっき、声かけた時だけじゃないか?」
……背筋に寒気が。
「あぁ! それはきっと、君が創りだした幻だろうね」
何を言ってるんだ。
「君は経験したことがあるんじゃないかな? 思ったことが、現実になるって事を……」
…………確かに、ある気がする。
「ま、そんな話は置いといて、席に着き給えよ。植木鏡君」
「はぁ……ボクの名前、かがみって書いて、きょうって読むんです」
「お、おう……そうか、スマンな」
男は、慌てて胸ポケットから手帳を取り出し、ブツブツ言いながら何かを書いていた。
「まあまあ、座れ座れ」
言われるがままに着席をする。
「で、ここに名前を書いて。ホラッ」
にこやかにグイグイくるので、言われるままに所定の場所へ、自分の名前を記入する。これ何の用紙だ?
「あの……」
「大丈夫! 悪いようにはしないから、僕の言う通りに、あたしゃ味方だよ」
いや、かなり怪しいだろぉ……こんな名乗らないおっさんは。
「そっか。まだ、自己紹介していなかったね。俺の名前は……」
そう言うと男は、右手をあげる。すると、背後にある本棚群の中から、一冊の本がページをうまく使って羽ばたいてきた。
そして、それは男の手に収まった。適当にページをめくり。
「うん『横山馬喰』と、名乗っておくか。折角なので、馬喰さんとでも呼んでくれ」
明らかに偽名を名乗った男の手にした本は、東京都内の地図だった。
「仕事は、そうだなぁ……案内人と言う、感じかな?」
「案内人?」
なんの?
「鏡の質問に答えていこう。ここだが……俺にも分からん。逆に教えて貰いたいものだな」
なんじゃそりゃ? ボクより前にここにいたこの人が、ここはどこだかわからないって言ってるんだからボクに分かるはずないだろ。
「そして、君はなんで自分がここにいるか……心当たりはあるかい?」
質問に質問で返されても……
「無いです」
「そっか、急だったもんなぁ。……単刀直入に、懇切丁寧簡潔に、サルでも分かるかの如く、手取り足取り伝えると……」
『ユーは死んだ』
「……?」
「あなたは、月代雪里を助けた後、燃え盛る樹木の下敷きになりました。全身大火傷です。これじゃあ死にます」
……何をナチュラルに「死にます」とか、言ってんだよ! 暴露が過ぎるぞ!
しかし……なんとなく思い出してきたぞ……ボクは確かに、馬喰さんが言うようなことをしていた。
「本当にボク、死んだのか……ってことはここって天界?」
「やれやれ、君みたいな人間が、そう簡単に天界に行けるわけ無いだろ?」
う、酷い……
「それにしたって、どういう事ですか?!」
ボクは机から身を乗り出す。
じっと、ボクを見つめた馬喰さんは、引き出しからバスケットボール大の水晶球を取り出し、折角記入した用紙を雑にどかして、真ん中にそれを置いた。
そして、その水晶球に手をかざし、まんま占い師のような手つきをする。
ボクは水晶球に顔を近づけ中を凝視する。
「と、このように植木鏡は今、病院のベットの上だ。月代雪里のおかげで、火傷の痕は綺麗になっているが、君は今、昏睡状態」
…………言っていることはわかる。なるほどギリギリってとこか……しかし、水晶球には歪なボクの顔が写っているだけだった。この水晶球に映るってわけじゃないのかな?
「お前、なんでそっちをガン見してんの?」
「へ? ……うわ!」
顔を上げると、空中にベットで眠るボクと、泣きじゃくる母さん達が、立体的なホログラムで映しだされていた。入口近くには雪里、セリさん、近田の姿も……
え? この水晶球って投影機なの?
「もって三十分ってとこだな」
「三十分って……」
「おたくが、完全に死ぬまでの時間だよ」
「それはアレですか? 現世での時間で言う三十分であって、ここでの一日が向こうの一分とかですよね」
「己は何たわけたこと言ってんの? そんな都合のいい事があるわけ無いだろ? 三十分は現世だろうが、ここだろうが代わりはないよ」
マジかよ……こう言うのって、精神と時の部屋法則なのが一般的だろ!
スマホも持ってないから確認できないし、部屋を見回すが時計は掛けられていない。
「てか、ここ時計自体ないじゃない!? 後どのくらいだよ!?」
「あ……そう言えばそうだな。多分、二十分位じゃないか? 知らんけど」
「適当かよ!!」
「ボクはどうすればいいんだよ馬喰さん!」
「まぁ落ち着け植君、紅茶でも飲んで」
どこからともなくホットティーが出された。うぅん、落ち着くなぁ……
「って馬鹿!」
「焦ったって時間が長くなるわけじゃないんだぜ?」
「そんな事、言ったって……」
「それに僕の仕事、何って言ってたっけ?」
「……あっ案内人!」
「醤油ー事! これから君には幾つかの選択肢を与える。その中から一つ、好きな所に行かせてあげるよ。……君を君のまま、好きな世界に誘おう」
それからボクは、これからの進路を聞かされた。
1:死神の世界に行く
2:ゆるふわ日常世界に行く
3:勇者の子孫として魔王を倒しに行く
4:地上最強の生物とたたかう
5:ゴキちゃんと戦う為に火星に行く
6:とある学園都市に行く
・
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・
「107:異界の魔族に転生。ひゃくは……」
「なっがーーーーーーーーーーい! 長いよ馬喰さん! ボクの時間、どんだけ無駄に使ってるんだよ!! 三十分しか残されてないんでしょ? これ聞くのに十五分位使ってるだろ絶対! 案内人がこんなに提案してきたら、こっちが困るだろー! 案内下手か!」
「自分、ツッコミ長いな。残り36321個プランあるんだけど。荒廃した世界で兄弟喧嘩するとか、戦車道に入門するとか」
「多いよ! 絞り込めよ!」
「イヤ、してこれなんだ」
「嘘つけー……はぁはぁ」
「とまぁ、ショートコントやってる場合じゃないな、これで読み上げるのは最後にするよ」
ボクはドカッと、深く椅子に座る。
「どれか一つに丸をつけて、提出してくれ」
「本当に信じて良いんですか? 何より、馬喰さんになんの権限があって?」
「良いのかい? そんなことに気を取られていて、時間がなくなるよ」
笑いながらそう告げ、36429プラン書かれた紙を、ボクに寄越した。
「大いに悩んでもらって結構。けど、三十分経過で、病院にいるあんたは死に掲示した所にも行けないからな」
すごい、情報量だ……ほとんど真っ黒じゃないか。この中から一個だけ選べってか……時間が足りなすぎる!
……ざっと見ると、全部マンガとかゲーム作品ばっかりじゃないか。それと、それに付随するような非現実世界だ。絞り込んでいたのはまじ臭いな。
クソ、どれも魅力的じゃあないか……6373:とある血統の人間賛歌、なんて絶対いいぞ。ボクは二部が好きだ。
…………これは?!
「ふむ、本当にこれでいいのぉ? 412:女の子しかいない無人島に流れ着くとか、7696:親善大使になって街を救うとかのが、絶対いいよぉ」
女人だけの島か、ハーレム作るのも悪く無い……親善大使はちょっとなぁ。仲間内でギクシャクするし、俺は悪くないし。
「いや、良いんだ。多分、それ以外の36428プランどれも興味深いし、絶対に行きたいと思う、と言うか選んだそこに行った後、絶対後悔すると思うよ。ボクの事だから間違いなくね。けど、そこでいい。それしかない」
馬喰さんは、しばらくボクを見ると鼻で笑った。すると背後の本棚群が音もなく動いていき一本の道を作りだした。
「さぁ行け、植木ちゃん。この道を進んでいくと扉があるぞ。そこを抜ければ、お主が丸をつけた世界の住人だ! ほら、時間がないぞ」
急かすように左腕につけた腕時計をボクに見せてきた。
「お前、時計つけてたのかい」
「ほら、ツッコんでないで走った走った。二十、十九……」
「文句言い足りねー」
ボクは机を乗り越え本棚が作り出した。道を進んでいく。
「そこの扉も引出だから気をつけろよぉ」
「はぁい、わかった。馬喰さん、サンキュー!」
ボクは振り返らず、手を振って答えた。
そして、言われた通りドアノブを掴み右方向へ扉を開いた!
『素晴らしき人生を歩める事を願ってるよ……』




