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十七ページ目『仄暗い地の底で』

これまでのヒーローの鏡:急遽セリ組とパーティを組むことになった鏡。そして、目の前には悪臭を放つオークが三匹現れたのだった!

 体調は二メートルほどの直立した豚で、鼻水と涎を垂らしながら立ち尽くしていた。

「ウワッ! クッサー!!」

 ものすごい悪臭だった。動物園なんか行くと臭ってくる動物の糞の臭いだ。

 よく見ると一体ではなく、その奥にもう二体立っていた。そいつらは、石斧ではなく槍を携えている。

 涎がぬめーっと垂れ、雪里せつりのジャージに付着したようだ。

 悲鳴を上げた彼女は、一瞬のうちジャージを脱ぎ捨てタンクトップ姿に。

 そのジャージからは煙が上がっている。そして、また強烈な悪臭が辺りを包む……オエッ……強烈な酸なのかな?

 セリはタオルで鼻を押さえ、眉間にしわを寄せている。口やかましい近田も押し黙っていた。

 そっちに気を取られていると醜い鳴き声が聞こえてくる。

「雪里!」

 あの子、大月穿だいげっせんを起動させて、石斧を持ったオークを薙ぎ払いやがった!

「大丈夫なのか?」

 はっきりと見てはいないが、両腕で振るったような気がした……もしかして……

「なんや、月代つきしろちゃん戦えるやん」

「!!」

「……ウン、なんとか」

 右腕をプラプラさせていた。

「……アレ、血雷ぢらいですわね……」

 天井の高い地下の空間は、真っ暗と言うわけではない、ほんのりライトに照らされている。よく目を凝らしてみてみると体には稲妻模様が走っていた。ソレはまさしく血雷たる証だ。

「そやな……想力そうりょくは全く感知できんけど」

「言ってる場合かよ。来てるって」

 仲間がやられたからか、残った二体は醜悪な鳴き声を上げボク達に迫ってきた。

「なんて、醜い……」

 そうセリは吐き捨てると、彼女の着ていたワンピースは弾け、黒魔導士的なローブに切り替わっていた。かぶっているとんがり帽子は、猫耳が付きだ。コレが山風セリの鎧装がいそうなのだろう。

「……三つで十分ですわね」

 つぶやくと同時に、彼女の周囲に三色の光があらわれそれぞれ収束していく。その光の中から輪っかが現れた。

 全部で三つ、黄色と青と金だ。

 落っこちるわけでもなく、ふわふわとセリの周りを浮遊している。 

 鎧装になって、コレだから……あの輪っかがバスターなのか?

 こんな武器見たこと…………あるな、たしかチャクラムって言う武器だ。別名、円月輪。色分されているのがチョットわからない。

「月代ちゃん! 止まらずこっちへダッシュやで」


(いにしえ)の大地を浄化せし光、未来に向けて活路を拓き、射爆いはぜ!』


 これはきっと詠唱なのだろう……カッコイイ! ボクもなんか唱えようかな。

「わかったたたっ!!」

 そんなベッタベタなズッコケあるのかよ。ヘッドスライディングよろしくで、滑り込んできた。

「フリちゃうで!?」


『――アグネアの……』


 ふわふわと不規則に浮かんでいたチャクラムは地面とは垂直になった。円の中にはそれぞれの色、黄色・青・金をした膜を形成していた。

「月代ちゃんそのまま伏せといて!」

 セリは指を弾く。パチン、パチン、パチンと、軽快に三回。


『矢』


 タオルで鼻を抑えたまま、無感情に名前を口にするセリ。

 『アグネアの矢?』なんのことだろう?

 そんなことを考えていたら、二体のオークは小爆発をし消え去った……今のがアグネアの矢なのか?

「さ、片付きましたわ。行きましょう」

 セリは雪里を立ち上がらせ先に進んでいった。

 ボクはあまりの突然の出来事で呆然としていた……

「今のすごいやろ?」

「は、はい……」

 唖然とした……いろいろ矢継ぎ早に来てみる流れなのだが、そんなことができないぐらい驚いた。

「アレが本当のマインスイーパーの力なんやで」

 ……言われてみれば、マインスイーパーの戦っている姿を、まともに見たことない気がした。

 雪里が巨大爪の血雷を倒した時は、ほとんど一瞬だし、色んなことが起きた……気がしたし、しっかり観察していたわけではない。

 ボクが戦った場合、あそこまでの戦いができるのだろうか、今のは戦いと言うには一方的だ………………難しいかも。


 この抜け道、かなり入り組んでいた。最早どっちの方角から入ってきて、どこへ向かえばいいのかわからない。まさに迷宮ダンジョンと、言った感じだ。

 正直な話、施設に着けるかどうかの不安よりも、こんな所を歩きまわっているワクワクのが優っているのは、少し不謹慎なのだろうか。

 正方形の少し広めの場所に到達した。

「来ますわ」

 そこには、石斧や槍手にしたオークが待ち構えていた。数は二匹ずつ。

 やはり身体には稲妻が走っていた。こいつらやっぱり血雷なんだ。

 大月穿を構えた雪里が一歩前に出る。

「雪里……」

 彼女の手をすかさず掴んだ!

「な、何!?」

「大月穿を貸してくれ、ボクが戦う……」

「ううん……大丈夫よ。こいつらくらいなら、私で十分」

「いや、何があるかわからんだろ! ボクが代わりに戦うって」

 このままじゃ、ボクがここに来た意味なくなるじゃないか。

「また怪我して長引くのは良くないだろ? だから、コレを貸してくれ」

 握る手に力が入るがビクともしない……ボクは両手なのに……

「…………」

「アダッ!」

 こいつ! 突然、手を離すなよ!

「そうかもね。大事を取って、任せるわ」

 ボクは腰をさすりながら鎧装を纏う。ヒッヒッヒッ、相変わらず仮面とマントが、イカしている。

「セリ待たせ、た……な」

「あら? ……あなた、植君?」

 すでにオーク血雷の姿はなかった……ボクが変身した意味よ!

「は、はい」

「なかなか素敵な仮面ですわね♪ マントもセリ好みだわ」

「あ、ありがとう……」

 ……こいつ、理解かる奴じゃないか……

 そこからも二~三体のオーク血雷と戦うことがあったが、全てセリのアグネアの矢で爆殺していった。

 RPGと違い、仲間が倒しても経験値がボクには入らない……ボクのスマホに着信があった……

「お、植君レベルあがったんやな!」

「ちょ、違います! メールです!!」

 すごい、こっ恥ずかしいじゃないか。

「今のは、Ⅵのレベルアップ音ですわね?」

 なんで分かんだよ!

 ったくボクの出番がないじゃないか……ボクっていらない子?


 右へ左へ通路を進む。何箇所かトラップのようなものがあったが近田ちかだが体を張って解除をしてくれた。

「ホンマ、セリさんはひどい人やわぁ」

「あら、セリだけが悪者? 月代ちゃんに植君もいるのに?」

「だって、セリさんが押したりするから、俺が罠にかかる形になるんじゃないっすか」

 まぁ近田の言う通りなんだけどな、明らかに落とし穴だろ! って所に、セリの奴、思いっきり近田を蹴っ飛ばしたりしてたもんなぁ。

 可哀想ではあるけど、微妙にニヤついているから、きっと言うほど嫌ではないんだろうな……気持ち悪い。

「プギャギィィッ!」

 またオークが現れた、今回は一体だ。

「それにしても、こんなに同じ種類の血雷が出てくるの、おかしいんちゃうか?」

「どういうことです?」

「植君、そんなこともわかりませんの? いいですわ、セリが説明して差し上げます」

 なんだ? お節介か?

「血雷は上位の種になればなるほど神話や、伝説上の動物に近づいていきますの」

 確か、夜の特訓中に雪里から聞いたな。人の姿からかけ離れていき、動物を模した形に変態すると話してくれた気がする。神話や、伝説上の……ナーガや、ハーピィがそれに当たるのか。

 人→体肥大→動物→神話、伝説の生物という具合に格付けがあるのだろう。

「それらの種は数が少ないの」

 なるほど、ナーガやハーピィみたいのが、バンバン出てこられたらたまんないよな。

「今、眼の前にいるオークはそんな、神話上の生き物ですわ。一箇所にこんなに出てくるのは、かなり異状……」

「それに、こない数出てるのに会社から連絡がなんもあらへん、謎やわぁ」

 言われてみれば、普段なら雪里の携帯がなっていてもおかしくない。

 地下にいるのだが……スマホは通信できたぞ。

「ま、そんなことはどうでもいいのだけれど……」

 詠唱が始まった! また、アグネアの矢で爆殺するつもりだな。

「チョット待て! 今回は、ボクにやらせてくれよ。散々それ使って疲れてるだろ?」

「あら、意外に優しいのね? でも、結構ですわ」

「そんなことないだろ!」

「……セリさん、ここは植君に任せてみてもええんちゃう? フラットモンスターが認めた男や! どの程度のモンか見届けましょうや」

 セリの鎧装が解け、ワンピースに戻り近田の取り出したチェアに腰掛け、腕組をして観戦状態に入ったようだ。

 ヒッヒッヒッ、見てろよ。ボクの実力って奴を……

「さっきレベルも上がったし、大丈夫ですわね」

 やめろ!

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