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十六ページ目『呉越同舟?』

これまでのヒーローの鏡:地雷処理を行っているのは雪里達だけではなかった。クセのある二人組山風セリと近田力と勝負することになった鏡。果たして勝負の内容とは!?

 怒り狂った渕成(ふちなり)さんには、腹パン一発でなんとか許してもらう事が出来ました……

 本当に沸点が低いというか、情緒不安定なんじゃないか、この人。ヒロインランクで考えると……ランク外ですね。ヒロインになりうる可能性はゼロです!


 ボク達の今回の依頼内容は……「葉中新明はなかしんめい」と、言う男の身辺調査だ。

 渕成さんは、その人物の記事を書いているらしく、詳細な情報はほしいとの事だった……。

 血雷(ぢらい)とは関係のない話なのに、何故ボク等に頼んでいるかと言うと、どうやら葉中の周りでは謎の事件が起きている。

 葉中の親戚一家が、行方不明の末、変死体で発見されたり、秘書が次々と失踪し、未だに見つからない等……

 警察が動いてもおかしくないのだが、実際動いてはいない。圧力でもかけているのだろうか?

 と、言うことで何があるかわからないので、いざというときの為に戦闘をこなせるボク等が調査をするということになったわけで……血雷と関係ない事に使っていいのか?

 そして勝負の内容は「どちらがいかに真実に近づいたか」だ。

 なかなか曖昧な感じだけど、近田ちかだが勝手に決めてきた。

 依頼の期限は一週間。

「にしても、どうするよぉ。ボク等みたいな学生風情に何ができるっていうんだよ」

 葉中新明はこの界隈でも有名な金持ちで、葉中不動産と言う会社を一代で築き上げた人だ。

「さてどうするか」

「……とりあえず調査の基本は張り込みと尾行よ!」


 今の時刻は二十時を回っている。

 ボク達は毎晩のトレーニングがあると家族に告げ家を出てきた。普段から「肉体改造の為のトレーニング」と、言う名目で外出しているから、あまり遅い時間にならなければ怒られることはないだろう。

 そして、雪里のギプスがようやく外れたんだ。しかし完治はしていない……と思いたい。


 今日で三日目。

 昼間は学校があるので手は出せない。なので、夜間しか活動のしようがない。

 ボク達は牛乳とアンパンをお供に葉中邸の張り込みをしている。

 絵に描いたような豪邸で、如何にもナニかしていそうな雰囲気がバンバンする。

 しかし初日、二日目とともに静かな夜だった。あったことと言えば、宅配ピザが一回だけ来たくらい。

「この張り込み意味あるのか?」

「まだ、三日目じゃない。文句言わないの」

 何が気がかりってセリ組をあれから一度も見ていないことだ。先越されてるんじゃなかろうか?

 それから一時間経ち、ようやくこの張り込みに展開が訪れる。

 家の門が開き、一台の車が出てきた。その車の中には葉中の姿があった。

「おい、星が動いたぞ」

「え? なに?」

 電話中かよ!

 すぐに電話を切らせ、状況を説明。

大月穿だいげっせん出してくれよ」

 大月穿とは、雪里せつりのバスターの事です。

 「名前はない」と、言っていたので、ボクが命名しました。語感と字面がお気に入りだ。初めは反対していた雪里だが、割とまんざらではない様だった。

 今から走って追ったところで追いつくことはない、普通に走った場合はね……

「……はいこれ」

「サンキュ!」

 雪里はあっという間にジャージから鎧想がいそうに切り替わり、大月穿を手渡された。

 そして、超高速移動とまではいかないが、人の走力では考えられない速度で葉中車を追っていった。


 市街を離れ山道を進む、結構高い所だな。

 着いた場所はちょっとした発電所のようなコンクリート張りの施設だった。少し離れた場所で鎧想を解き、辺りを確認する。

「ヒッヒッヒッ、こいつは、いよいよ。怪しさマックスだな」

 雪里は相槌を打ちながら、渕成さんに渡されたデジカメで施設の写真を撮っていた。

「中では何をやってるのかな?」

「入って確かめるか?」

「それは危ないよ」

「怪しいけど『実はこの中でバースデーケーキ作ってました』とか、あるかもしれないだろ?」

「そ、そうだけど……」

「あと、セリ組に負けるわけにはいかないからな」

 これは勝負なんだ、真実を暴かなくてはいけない。


「そやなぁ……負けられへんよなぁ」

「!!」

 突如現れたのは、似非関西弁の使い手の近田だった。

「お前、何でここに!?」

「植君……年上に向かって『お前』はアカンで。年齢的にも、マインスイーパーとしても、俺のが上やねんで? ”さん”を付けな”さん”を」

「もう、何勝手に話しかけてますの?」

 その後ろには、セリもいた。

 どうやら、彼女達もこの場所を突き止めたらしい。

「それにしても、遅かったわねぇ。セリは、初日にこの場所を見つけていましたのよ」

 一体どんな手を使ったんだ?

「ってことは、もう中にも入ったのか?」

「俺等もまだなんや。カギ、締まっとんねん」

 これは、いいことを聞いたぞ。二人はまだ中を見ていない、要は真実を知らないということだ。

 ギリ、並んでいるって感じかな?


「さて、これからどうするん? 自分ら?」

 答えるわけ無いだろ。目的は一緒とはいえ勝負してるんだから。

「……近田……さん達は、もう決まってるんですか?」

「俺達は、すでに侵入経路を見つけてるから、そっから入ってカメラ(こいつ)で撮って、終いよ」

 並んでなんかいなかった、大分置いてかれてるじゃないか!

「本当ですか? すごい」

「せやろ、月代つきしろちゃん? …………どや? ここは協力しようやないか」

「!?」

 その展開早くないか?

「何言ってますの? セリ達は戦ってるのよ?」

 これは彼女の言う通りだと思うぞ。


 セリと近田はヒソヒソ話してる……裏があるんじゃないだろうな?

「まぁ、あなた達が『一緒に行きたい』って言うなら、連れて行ってもいいですわ」

 ボク、そんな事言ったか? 完全に裏があるだろこれ!

「ありがとうございます」

「チョット、月代さん?!」

 ボクは、雪里を引っ張りセリ達から少しな離れた場所で今度はボク達がヒソヒソ話をする事になった。


「何言ってんだよ。完全にコレ罠かなんかだよ?」

「え? そうなの?」

「どう考えてもそうでしょ。あのセリが急に手のひら返しして同行を許可するなんて怪しいだろ?」

「そうかな? 結局、私達は同業者だからそんなことはないと思うよ。助け合わないと」

 とは言ってもだな。あんなに敵対心出してたんだぞ、かなり怪しいだろ。

 …………しかし、このチャンスを逃すと先を越されてしまうのも事実。

「さっき鏡君、怪しいけどあの建物の中でケーキ作ってるかもって、言ってたのと同じじゃない? 普通に好意的に言ってるだけかもよ」

 完全にブーメランだ。

 結局、ボクが折れてセリ達と行動を共にする事になった。


「ここが抜け道や」

 連れてこられたのは巨大な木の生えた場所だった。

 他の場所は、木々が鬱蒼としているのに、この巨木の周りは、切り払われちょっとした広場のようになっていた。

「こんな所に抜け道が?」

「せや、ちょうどそこの幹に窪みがあるやろ?」

 確かに、人が一人入れるくらいの空間があった。

「見てて」

 そう言うと、近田は窪みに腕を突っ込んだ。

 ガコっと何かが外れる音が。

 近田は不敵な笑みを浮かべ腕を引き抜くと取っ手の付いた鉄の板? のようなものを持っていた。

「ささ、コレで抜け道を通れんで」

「…………」

 その窪みの奥からは、ひんやりとした空気が漏れ出していた。気のせいであって欲しいが、なんか鳴き声っぽいのも聞こえてるんですけど……

 これはチョットビビるなぁ……行きたいのは山々だ。ダンジョン探検みたいで……し、しかし……

「ほら、私、一応女の子だしきょう君、先行ってよ」

「え、ヤだよ! 怖いって」

「男の子でしょ! それに、鏡君の好きなダンジョンっぽいじゃない」

「それはだなぁ……」


「はぁ……時間もないし、そんなことしてないで、早く行きますわ」

 セリはボク達を押しのけ窪みに滑り込んでいった。

「残念やなぁ自分。ここは男らしく率先して入らなぁ」

 知るか、お前らの罠って可能性もあるだろ! セリが先に入ったことでその可能性は下がったが。

「大方、俺等の罠かなんかとか思ってたんちゃう?」

 ギクッ!!

「……ええか? セリさんはそんな姑息なことはせぇへんよ。ちゃんと戦って、自分らに勝ちたいんや。汚い手を使って勝ったて、あの人にはなんの価値もあらへんのや」

 …………なんだよそれ……なんだか、ボクがヤな奴みたいじゃん……

 セリの後を追うように、近田も抜け道へと入っていった。

 ボクと雪里は、無言のまま抜け道に入っていった。


「ひゃーでけー」

 巨木の中はハシゴになっていて、下へと伸びていた。

 着いた先は、大きなコンクリ張りのトンネルのような場所だった。

 間の抜けた第一声しか出せなかったのは、とても恥ずかしいが、これが一般的な男子学生の素直なリアクションって奴だ。

 他の三人は特別感情を見せることはなかった。


「ヒッヒッヒッ、本当にダンジョン探索だな!」

「植君、急にテンション上がった?」

「こう言うの凄く、凄く、イイです!」

「なんや自分、RPGとかやるクチ?」

「えぇ、勿論!」

「ホンマか、俺もよぅやんで……」

 そこからしばらく、最近のゲーム事情のトークになった。近田の奴、なかなかどうして話が合うじゃないか……

 女子二人はジト目でボク達を見つめていた。

「何言ってますの? フローラに決まってますわ?」

 お前も入ってくるんかい!?

「それは、聞き捨てなりませんねぇ」

 そして、ボク、近田、セリの三人でゲーム談義で盛り上がっていく。敵同士だというのに何を楽しげに話しているんだ。と、自分でも思うが、ソレはソレ、コレはコレだ。

「あぁ、ゴホンゴホン」

 雪里が、わざとらしく咳払いしたのが聞こえた。

「私達がここに何しに来たか解ってるんですか? 三人とも……そんなくだらない話をしに!」

 

 ボヨン――


 先に進もうとしていた雪里は、何かにぶつかったようだった。

「柔らか、臭っ!!」

 雪里の目の前にはボク達とは別のモノがいた。手には石斧を持ち鼻息荒く立ち尽くす、二足歩行の豚。

 RPGに出てくる「オーク」が目の前に現れたのだった。

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