十五ページ目『嵐が来る!』
これまでのヒーローの鏡:苦戦の末ハーピィ血雷を倒した鏡。血雷処理の新たな一面を垣間見れて少し複雑な気持ちになるのだった……
今日は平日、時間はお昼前、学校にいるのかと思いきや、我が町の一角にある雑居ビルに来ています。
中小企業の事務所や、貸し倉庫なんかが入っている高校生には似つかわしくないビル。
ボクと雪里は、そのビルの最上階フロアを借りている「停盤出版」と、言う出版社の応接室で、コーヒーを飲んでいる。まぁ応接室と言っても、パーテーションで区切られた簡易的なものだ。
こんな所にお茶をしに来たとか、そう言うわけではなくて、マインスイーパーとしての仕事の依頼だ。雪里の行っている占いの相談事とは違う、れっきとした仕事の依頼だ。
それは遡ること四時間前……
「鏡君、今日は学校休むよ」
「は? 急に何を……」
ボクの布団を剥ぎ取りながら、彼女は欠席宣言をしてきた。
「休むなら一人で休んでくれよな。ボクは、こないだかなり休んだから出席しないと、進級が怪しくなるだろ」
ハーピィ血雷の時、結局一週間休んでいた。母さんがなかなか通学を許してくれなかったからね。
「だから、休むなら雪里だけ休めよな。先生にはボクが言っておくからさ」
「……あぁそうですか。折角、マインスイーパーのお仕事の依頼なのに、行かないんですねぇ」
「おい、それは聞いてませんよ」
わざとらしく伸びをして、部屋から出て行こうとするのを阻止する。
「待てってマインスイーパーってことは、血雷関係か?」
「……学校のが大事なあなたには関係ないでしょ?」
すかさず土下座をかますボク。
「すいませんでした。休みます。行かせて下さい。月代様!」
と、言う感じで今に至る。
ここに来る間に詳しく聞いたが、この出版社は表向きは、地元のゴシップ誌を発行しているのだが、その実は雪里達マインスイーパーの協力者だという。
携帯に連絡が入って対処するだけでなく、こういった協力者からの依頼などもこなすらしい。
ヒッヒッヒッ、一体どんな内容なんだろうな♪
パーテーションが、カラッと音を立てる。
「やぁやぁ、待たせたね。月代ちゃん」
コーヒーを持って現れたのは、茶髪ロングで、長身の見た目「私、仕事できす」と、言わんばかりの美人さんだ。
「渕成さん、お久しぶりです」
雪里はすかさず立ち上がり、渕成と呼ばれた女性と握手をする。ボクはどうしていいか分からず観察していた。
「大きくなったわねぇ。いつ以来かしら?」
「そうですね……まだ、中学生くらいだったと思います」
「懐かしいなぁ。あの頃はよく一緒に出向いたもんだ」
「ですね。また、一緒にやりたいと思ってますよ」
「あたしはもう、戦うって感じじゃなくなったからね。あなた達、若い子に期待してるのよ」
「何言ってるんですか。渕成さんは私の恩師なんですから、自身持って下さい」
雪里の奴、よく笑うなぁ。あんな顔ボクの前では見せたことない……とても、自然だ。
恩師って言ってたから師弟関係なのかな?
「フフッまぁ、立ち話もなんですから座って下さい。大した物は出せませんが」
「お前が言うのかい…………アッハッハッハッ!」
「ハハハハッ!」
仲いいな。師弟というか歳の離れた姉妹って感じがする。とても和みますなぁ。
初めに出されたコーヒーが残っているにも関わらず、渕成さんは自分の分も合わせ、三つコーヒーを持ってきていた。小さいテーブルには五個のカップが置いてあり手狭だ。
「では、先に話しておきましょうか?」
「そうですね」
「ちょっとタンマ。ボク、置いてけぼり?」
「あ、そうだ忘れてた。紹介します…………私を傷物にした張本人、鏡君です」
傷物て……
「どうも植ッ!??」
「貴ッ様ァ……月代ちゃんを傷物にしたダァ! アアァン?」
「あだだっ! な、何なんです?!」
渕成さんはボクの髪を鷲掴みにし、お辞儀した頭を無理矢理引っ張りあげ、その距離一センチ位の所でメンチを切ってきた。
あんなに、温厚そうだったのに!? なんなのこの人怖い。
× × ×
「何だい。そういう理由があったのか。早く言ってくれれば良かったのに。早とちりしちゃったじゃないか。ごめんね」
頭皮がジンジンする。この人は、あの後しばらくボクにメンチビームかますし、何回かテーブルに頭を打ち付けようとしてきた。クレイジーかよ。
冗談をふっかけ、大事になったので、雪里の奴めっちゃ謝ってきたが、しばらくこのことは忘れなさそうだ。
「あ、改めましてはじめまして。う、植く鏡でふ」
くっそ、名前噛んじまった! それもコレも、この人がのっけからボクに恐怖心を与えるからです!
「うん、植く君ね、よろしく。植君でいいのかな?」
ま、まぁ……植君でもいいけどさぁ……
なんかすごい笑顔で挨拶されたけど、それがさっきとの落差ですごい不気味なんだわ。
「あたしは、この停盤出版の代表で渕成と言います。よろしく」
そう言いながらボクに深くお辞儀をし、名刺を差し出してきた。
その後、適当に雑談をしていよいよ本題に入る時が来た。
「今回は、あたしの元に入ってきた、情報の真意を確かめてもらいたいの……」
ガッチャァァァン!!!
「「「――――ッ!!!」」」
突然、窓ガラスが盛大な音を立て、爆散した。
「なんだ! テロ?」
雪里はバスターを起動させ、構えていた。
「ナッハッハッハッ! 自分らどこ向いてるん? 俺はここや!」
関西弁? それにこの演技かかったしゃべり方は? この声の主が飛び込んできた?
ボクらは、割れた窓から下を見てみたり、辺りを探ってみるが、声の主は居ないようだ。
探している間も「どこを探してんねん? ダボォ」と、強気だったが、なかなか見つけられないでいると不安になったのだろう「そっちちゃう」「ちゃう、ちゃうって!」「アカン、わからんやっちゃなぁ」と、なんとも締まらん感じになっていた。
結局、そいつは部屋の離れた場所、書類棚の所にいたらしい向こうから肩叩いてきやがった。まさかこんな所にいるとは……
短髪で身長は高い。少し筋肉質だな。年の頃はボクよりチョット上、未来さんと同じくらいかな?
「アレなん? 自分ら? ネジとかちっさいもの落として、探すねんけど、思った所にのぉて『あれ? 絶対こっちに転がったはずやねんけどなぁ……』って思うんやけど、実際は全く別のとこにすっ飛んでて『オッホ、なんやねん。こんなとこにあるやん!』って感じやったの?」
絶対、雪里も渕成さんも「何言ってんだこいつ?」ってなってるよ。ボクは……ボク等はコレに対する的確な返しがなく奴の動向を伺った。
「何、黙っとんねん! フン、まぁまぁまぁええわ」
そう言うとまた書類棚の前に戻って行き。
「俺の名はドブフッ!!」
突然、ドアが空いた。この部屋は外から内側へ開くタイプのドアで、開いたドアは短髪男を直撃した。
「失礼するわ」
そこに居たのは、ワンピース姿の薄緑色したショートカットの女の子だった。
「セリしゃん……なんちゅうことしはりますのん!?」
「この”似非関西弁”……近田ね。そんな所にいたの?」
こいつらツレか? でっかいのがちっさいのに「さん付け」で呼ぶって……ますます、わけわかんない……
『キィサァマァラァ!! これはどういうことだぁっっっ!!!!!!』
……そりゃ、渕成さんは、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームですわ。
「まぁそんな怒らないで」
コーヒーが乗ったままのテーブルを蹴り飛ばし、激昂している渕成さんなど意に介さず、セリと呼ばれていた女の子は、両手の指を軽快に鳴らした。
「グルルルルゥゥ」
犬歯をむき出しガチ怒りの渕成さんの背後で異変は起きた。
フヨフヨと、散らばっていたガラス片が浮かびあがり、パズルのように窓があった場所へ集まっていく。
それと同時に、蹴り飛ばされ倒れていたテーブルも元あった場所に戻ってきて、コーヒーカップも寸分違わない配置だ。そして、その中に焦げ茶色の物体が入っていき、コーヒーが完成した。
部屋の中は、近田とかいう男がガラスを突き破り入ってくる前の状態に戻っていた。
超能力? いや想力か……
「これでいいでしょ?」
「流れ石、セリさん! ホンマハンパないわぁ」
「やかましいわ」
近田にローキックをかますセリ。
「あはぅあッ! ありがとうございます」
こいつ……気持ち悪い。
× × ×
「そうか、君達が『B×R』のマインスイーパーだったのね」
「そう……近田がすまなかったわね」
部屋の修繕が終わった後、物凄い手際で近田は縛り上げられていた。
「ごめんなさい……」
どことなく嬉しそうだ……気持ちワリィ。
この二人は、民間の血雷処理機関B×Rと言う会社のマインスイーパーだそうだ。
民間にも処理する所あるのか、ライバル企業ってとこ? ……マインスイーパーって雪里達だけなのかと思った。
今回の依頼は、ボク等と彼女等との共同依頼らしい。それだけ大きい山ということなのだろうか?
「もう一度、自己紹介するわ。B×Rのマインスイーパー『山風セリ』ですわ」
「そして俺が! セリさん一番の相棒『近田力』!! よろしゅう」
セリは近田の頭をひっつかみ、床に押し付けだした。
「何、勝手に相棒とか言ってますの? 思い上がりも甚だしいですわ。この”神奈川県民”! 今回もたまたまあなたとペアを”組まされてる”だけでしてよ」
「ヘヘ、そないな釣れん事、言わんでくださいよ」
見た目通り近田はボク達より年上でセリは年下だった。
「そんなことより、そちらがみんなのてのマインスイーパーの方でして?」
「えぇそうよ、月代ちゃんに植君」
渕成さんがボクらを紹介してくれた。軽く会釈する。
「月代? 月代…………ま」
「まさかフラットモンスターの! ホンマか、自分!」
……近田はタイミン悪いなぁ。空気読めよ。ほら、踵で足をグリグリされてるじゃん。
「何なんだフラットモンスターって?」
「……私の通り名みたいなものよ」
通り名、いいな!
「あなた、そんなことも知らないの?」
月代雪里はその界隈では「フラットモンスター」と、呼ばれているらしい。
決して体型の事を言っている訳ではなく、想力の話だ。
普通なら、想力カテゴリに強弱があるのだが、雪里は全てが近い数値らしい。加えて、その数値も高い水準なので「怪物的平均値」と、呼ばれているとのことだ。
…………てかボク、そんな人より想力が高いんでしょ? ヒッヒッヒッ、すごくない!
「最近、フラットモンスターが怪我をしたって噂は本当だったのね……そんな人と一緒に仕事できるなんて光栄ですわ」
セリと雪里は、固く握手を交わす。
「よろしくね」
「でも、あなたは……」
…………ボクの分からない会話をし始める雪里と、セリ。依頼の話、進まないから。
それにしても、皆してコーヒー平然と飲んでるけれど、これ一回床に落ちてるよね? バッチィわ!!
ここで彼女のヒロインランクを伝えておこう。現状の山風セリのランクはD辺りかな?
暴力系ヒロインがそこまで好きではないボクの中ではマイナスポイント多いです。まぁ、まだ会ったばかりなので不確定が多い。
ふと、セリと目が合う。
「ところで、植君は一体何者でして? 見た感じ、マインスイーパーでは無いようだけど?」
見ただけわかるのか……ボクの想力でも見たってことかな。
「彼は……お手伝い。私の腕、折れてしまってるから、代わりに血雷処理してもらってるんです」
「みんなのては、こんな部外者に血雷処理任せるのね。人が足りてないのかしら?」
むかつく言い方だなぁ。
「そういうわけじゃ無いよ。…………彼は、私より想力高いから」
「はいぃ?」
「嘘やろ? フラットモンスターの月代ちゃんよりも高いって、それこそバケモンやないか!」
「そうですわ、月代ちゃん。嘘は良くないわ」
ヒッヒッヒッ、ボクの素質に驚いてる、驚いてる。
「にわかには信じられないわね」
「ホンマやで、こない戦闘経験も浅そうな奴が?」
「全くだわ。頭も悪そうですし」
「顔だって、俺より悪いで」
「それはいい勝負ですわ」
「セリさぁん……」
こ、こいつら……
「オイオイ、黙って聞いてれば。言い過ぎじゃね? 雪里の言ってる事は本当だ」
「月代ちゃん、何か握られてるのねぇ? 相談乗りますわよ」
「何だその言い方? 嫉妬なの?」
「は? なにこの部外者? セリにたてつく気?」
「ここに来てる以上、ボクは部外者じゃないんだけど。雪里本人が『高い』って言ってるんだから、信用しろよな」
「誰がなんと言おうと、セリは自分で見たことしか信用しないわ」
ったく、強情なガキだな。
「あぁもう、このままじゃらちあかん……そこでや。今回の依頼で、勝負せぇへんか?」
「近田!」
「まあまあ、セリさん黙っといて下さい。俺も、コイツの力量知りたいんですわ」
「今、ここでバトってやってもいいんだぜ?」
はっ、勝負だろうがなんだろうが、受けてやんよ。
――殺気!!
「……植君……」
渕成さんはニコニコしてるけど、爆発三秒前だった……
こいつらとバトる前に渕成さんにボコられそうじゃないか。




