十四ページ目『海浜公園にて②』
これまでのヒーローの鏡:光進は血雷感染者だった! ハーピィ血雷になり鏡に襲い来る!
ボクらの肌が露出している部分にどんどん傷が入っていく。
コレはハーピィ血雷の攻撃だった。風がボクらにまとわり付くように吹き、その風は鋭利な刃物の如くボク達三人を傷つけていく。
仮面とマント装備のボクは、そこまでダメージはないが、女子二人はたまったもんではないだろう……イヤそうでもないか。
雪里は傷を付けられても、瞬間に治してしまうことができるらしい。そして、気絶している倉宮の傷も次々と治していく。
「お前、すげーな」
「このくらい出来て当然よ」
「へぇへぇ、そうですか」
このくらいの傷は、想力を使うことに慣れていれば治すことは余裕なのだろう。
さて、このかまいたちの中どうやって戦うべきか……未だに宙を舞っているハーピィ血雷。
ボクが遠くに攻撃できる手段、壊水撃を使いたいところだが、それなりに集中が必要だ。
それに、超高速移動で近づこうにも、この暴風の中だと思うようにいかない。何より足場もなしにあの高さまで移動できないし。
…………やってみるか。
ボクは、芝生をむしりそれを宙に向かって放おった。
すると草は、風に乗り舞っていった。
そして、もう一度芝生をむしり放おる。
右へ左へ揺さぶられ、舞っていく。更にもう一度。ゴルファーが風を読むように。
むしっては放おるを繰り返していたのには訳がある。
この風のパターンを掴むためだ。人為的に引き起こされれている風なので、なにか法則があるはずだと思った。そのルートさえ把握できれば、ボクのこの攻撃は届く……はずだ。
やはり決まったパターンがあった。そして、目星をつけたルートを、攻撃通って行くイメージを固める。
ボクが攻撃できないと思っているのだろう。直接攻撃をしてくる気配はなく暴風を起こし続けている。
「左に行って、右に行って、半回転した後に……」
イメージは出来た。ヒッヒッヒッ見てろよ……
ボクは半歩下がり大鎌を逆に構える。通常通り刃が上ではなく、石突が上に来るようにだ。
そこから思い切り振りぬく。カチッっという音共に石付きは外れ、突風の中を突き進む。ボクがイメージしたルート、風のないもしくは弱いルートを通り、ハーピィ血雷に迫る。
特訓の最中、大鎌の構造を聞いておいてよかった。大鎌と鎖鎌この二つの顔を持っているということを。
左に右に、そして半回転…………ちゃんとボクのイメージした通りだ。まぁ,この程度できて当たり前かボクだし。
そして、そのままハーピィ血雷にダイレクトアタックは炸裂した!
「よっしゃ!」
バスターはマインスイーパーたる証で、想力の塊だ。その為バスターにもカテゴリがある。この大鎌は月のカテゴリだ。月は火に相性をとれるので。
「こうかはばつぐんだ!」
石突はハーピィ血雷の胸に直撃した。ドス黒い血を撒き散らしながら落下していく。
このチャンスを逃すまいと石突を引き戻し、一気に超高速移動で間を縮める。
奴が墜落するであろう地点に先回りし、切り上げる。が、間一髪で仕留め損ねてしまった。
「チッ、脚だけか」
右脚だけを切り落とすことはできた。また、宙に逃げてしまった。
今度はさらに高い場所へ……
そして、今までの何倍も強い暴風が発生する。想力で練り上げられたマントも、ほつれ始めていた……今度の風は読めない。さっきと同じ要領で調べようとしたのだが、今回は全く法則はなかった……
どのくらいそうしていただろう、台風なんか比べ物にならない暴風の中、ボクの目の前に風よけになるように防風壁を作り出してる。
襲い来る風を読んで全部無効化でもできればいいが、完全にアトランダムで目に見えないものを読むな不可能だ。
この壁を押して移動する? ビクともしない……
「空さえ飛べればなぁ」
翼を持たない人間が空を飛ぶことなんてできない。漫画の中では、空を飛びながら戦闘するシーンがあるが、その飛ぶ原理について詳しく触れられている作品はない。
だから、いくらボクが飛ぶ姿をイメージ出来てもそれは「絵に描いた餅」で想力によって再現することは難しい……コレは夜の特訓で確認済みだ。
ボクのカテゴリは水。そして、何かを創りだすことに秀でている顕現の性質が得意……ジェットパックみたいのを鎧装として出すか……絶対に無理だ! そんな頭はない。
もっと単純にグライダー……じゃない。スプリングで大ジャンプ? 風に負けちゃうよ。
「万事休すか……なんで水が火に弱いんだよ……」
壁にもたれ、雪里達を見る。口が動いているから、何か言っているんだろうけど、風がすごくて聞こえやしない。
「マジでやべーな……」
ごつっと頭に壁の感触が……この壁ってボクが作ったんだよな。空気中の水分を固めて、こいつを………………!
「そうか!」
防風壁から顔を出す。
「ッ!」
かまいたちで仮面が切られていく。
大体OKだ!
深呼吸をし、ボクは防風壁を解除すると同時に、ハーピィ血雷に向かって超高速移動をする。
ある程度の高さまで行き、暴風域から脱出できた。
そして、空中で静止。今、ハーピィ血雷はボクより下だ。
ボクは腕を組み宙に浮かんでいた。否、立っていた。
原理は簡単だ。空気中の水分を使い防風壁を作り出すことはできる。ならば、それを、縦ではなく、横にすることで、アッと言う間に壁は足場に早変わり!
やっぱりボクって才能の塊だね。
「どおあっ!?」
突然の浮遊感。ボクは落下していた。
暴風域へ舞い戻る前に、空気の足場を作りだす。
「ふぅ……危ない、危っ!」
座っていたはずなのに、また落下。空気の足場を作った辺りに手を伸ばしてみるが、空を切った。
そして、もう一度足場を作り出すが、それもまた数秒で無くなってしまった。
どうやら、ずっと足場を作っておくことができないらしい。
「くっそぉ、不便だな……ちくわブロック的な?!」
暴風域の中、地面ギリギリで足場を作り、それが消える前に超高速移動で元いた位置まで跳躍する。
このまま考えてる暇もないし、とりあえずハーピィ血雷めがけて飛び降りる!
「気付くよね、普通!」
大鎌を振りかぶりながら迫るが、暴風がボクに迫る。
ボクはかまいたちで傷を負いながら、風に流され宙を舞う。
「うえぇ、これは酔う」
もう、どっちが天で地だかわからない!
しばらくすると、風の影響から解放されあらぬ方向へ吹っ飛ばされた。
こんな状態で上手いこと着地できるわけもなく、地面へ墜落。
「あだっ! たぁあぁっ!」
身体中痛いし、うぅ気持ち悪いぃ……
プチゲロを吐き、少しだけ気分が楽になった。鎧装のお陰で、墜落時の大きなダメージはないものの、体中が痛い。しかも、すごい虚脱感が……
「鏡君、大丈夫?」
遠くから声かけてくる。
「何とかな……」
本当に何とかだ……そろそろ決めないと、かなりマズイんじゃないか?
「ッ! クソが」
こちらに向け暴風警報かよ!
…………あの暴風を動かすのは、そこまで容易くできるものではないのだろう、ここにふっとばされても、すぐにここへ風が来ることはなかった。
さっきもそうだ、上空に移動してもなかなか向かっては来なかった……
震える脚に活を入れ、走って移動する。ハーピィ血雷を中心に反時計回りだ。
五十メートルほどの移動だったがこの距離ですら、ついてこれないらしい……ここに正気アリかな?
風が来る……ボクは最後の攻撃の為、息を深く吸込み呼吸を整える。手足は少しだけシビれるが、なんとかなるだろう……
暴風域に取り込まれる前に、奴に向かって走る。
そして、残り数メートルの所で超高速移動で跳躍。二枚の足場を使い急上昇し、その勢いのままハーピィ血雷を切り裂く!
勿論ボクのスピードには風による攻撃では対応しきれなかったようで、両翼と化した腕で防御体制をとるが、関係ない!
このバスターは相性のいい月だからな。ボクが水だろうが関係ない、腕ごとブチ切り裂くイメージは、対峙した時点で出来ている!
「クゥルルルァァァッ!!」
断末魔の声を上げながら、ハーピィ血雷は空中で消えていった。
「よっしゃ……」
力なく笑うと鎧装は弾けジャージ姿へと戻ってしまった。
「あ……」
それ以上の言葉はでなかった。上昇の勢いはなくなり自然落下していく。握力もなくなっていたのでスルリとバスターがこぼれていく。
コレでボクは、落下する一般人になってしまった。
景色がゆっくり流れる。
今まで戦ってきたが、ここまでの事になったのは初めてだ。雪里に想力が高いと言われていたが、無尽蔵ってわけではないんだな……また一つ勉強になった……
やだな、死にたくないな……まだ、完結してない長期連載漫画とかあるし……最終回見る前にボクが最終回迎えちゃったら、死んでも死にきれない。
死ぬ気の炎くらい出ていいものだが、頭働かねぇ……どっちにしろ、想力が使えないからなんにもならんけど。
「鏡君!」
雪里の慌てた声が聞こえ…………――――
× × ×
「二日も寝てたのか?」
ボクは今、自宅のリビングで寛いでいる。と、言うことは、ボクは生きているという事になる。
落下中に気を失い、万事休すのとこを助けられたらしい。
その人は雪里ではなく、ましてや倉宮でもなく、雪里の同僚のマインスイーパーだ。
なんでも、その人にも連絡がいっていて、駆けつけた時にはボクがトドメを刺し、落下している所だったそうだ。
今度ちゃんとお礼しないと。五体満足で生きてるのもその人のおかげだ。
目が覚めたのは二時間前、起きぬけで母さんに抱きつかれたのは、びっくりしたね。入院ってことにならなかったのは、雪里が頑張ったのかな?
何より印象的だったのが、雪里が泣いていたって事だ。
「二日かぁ……時に未来さん、今日って何曜日?」
「か、火曜日だょう」
なんだ、その喋り方は。
……少年ジャンプ、買わなきゃなぁ。
次の日は大事をとって休むことにした。と言うか登校を許されなかった。
夕方に、雪代が帰宅した時、大方口を滑らせたのだろう、倉宮を連れて帰ってきやがった。
やれ「ハルピュイアを見た!」だ「”仮面の君”が助けてくれた!」だと、自慢げに話してくれた。妙に勘が鋭いな。
何が憎たらしいって、こいつ、差し入れに少年ジャンプを持ってきた所だ。
ボクの事を解ってらっしゃる……ヤなヤツ。
そして、倉宮はハーピィ血雷になった人の事を覚えていなかった。
なんでも、血雷になり死ぬと、その人全ての記憶と記録が消えてしまうらしい。
マインスイーパーだけは、想力のおかけで忘れないとのこと。
ボクはバスターに触れ、想力の恩恵があるので一般人に比べて消えるのが遅いんだと、言われてみればその人の顔もうろ覚えだし、名前は全く出てこない。
……学校でボクを襲ってきた血雷も、元は知り合いだったような気がするが、もう思い出すことができなかった……
こうしているうちに、ボクの知り合いが居なくなっていたり、すげ変わっていると考えると寒気がするのだった……




